お告げはいつでも突然に
モリアン帝国の捜索隊からの報告はすぐに他の国々へ届けられた。
存在自体定かでは無かった大魔王ネオバーン、その抗いようの無い圧倒的な力の前には、稀代の槍使いモリアン帝国国王ハラと世界最高の魔法使いロマネグリードが率いる連合軍が無惨にも全滅。先に壊滅の知らせが入ったゴゴ大国の連合艦隊もネオバーンの手によるものだとすれば・・・・・・。
恐怖の大魔王ネオバーンがついに動き出した。
解放戦線の活躍に浮き足立っていた民は一変、恐怖に駆られた。
アイ王国も知らせを受けるや、すぐに前線に向け馬を走らせた。
王室はただただ王の身を案じ祈るだけだった。
数日後、白馬シラカゼに乗りコジー王その人が戦線から帰還した。馬の背に覆い被さるように倒れ、満身創痍だった。
話さえ出来る状態では無かった。すぐに治療が行われた。
王室をはじめアイ王国全国民がどんな状況であったとしても王が帰還された事に安堵した。しかし・・・・・・。
しばらくすると王の傷は癒えた。歩けるようにも、話ができるようにもなった。
しかし、コジー王はまるで魂の無い、人形になってしまった。
妃にも自分の子らにも、なんら感情を表す事がなく、遠征以来全く人が変わってしまった。
一度だけ城の使いが、王が自室に籠っている時に聖剣ムラサキを月に向け構え、涙を流していたのを目撃した事があると伝えられている。
一万を超える兵を従え快進撃を続けていた部隊が、突然壊滅し自分ただ一人だけが残り、生きながらえる事を思えば正常な状態ではいられないのは当然で、屈強なコジー王にとっても例外では無かったのだろう。
後世に残る記録には、コジー王は生涯大魔王ネオバーンとの戦いについて話すことはなかったと伝えられている・・・・・・。
グリコ歴231年に起きた領土解放の戦は、大魔王ネオバーンの出現により全部隊が全滅する大敗に終わったのだった。
大魔王ネオバーンの抗いようの無い圧倒的な力を前に人間はなす術がなく恐怖し、勢いを吹き返した魔物の群にただただ背を向け逃げるようになってしまった。
モリアン帝国は、その領土の半分を魔物に奪われた。
主力艦隊と兵士を失ったゴゴ大国に至っては魔物の侵略を止める事が出来ず廃国に追い込まれた。
大きな代償を払わされた人間。
その後も魔物の侵略を止めることは出来ず歴史の中でいくつもの国が滅ぼされ、多くの犠牲を生んだ。
それ以降、人間側で大規模で組織的な戦いを挑む事はなかったという・・・・・・。
長い月日が経ちグリコ歴499年、アイ王国で当時国の王子だったアランに不思議な出来事が起こった。
アランが自室のベッドで寝ていると夜中に窓を叩く音がして目が覚めたそうだ。
高い場所にあり、人が登ってこれるはずはないので鳥だろうとそっと窓を開けるとそこには金色の長い髪を垂らした。背の低い小さき人が浮いていた。
窓からすっーと、部屋に入るとアランの方に向いてこんな話をしたという。
「アラン王子よ。そなたは東の外れにあるカスミ国の王女を妃に迎え入れるのだ。名はビアンカ、我々エルフの血を引く者だ。
ふたりの子を授かる、男にはケンジ、女にはショウの名を与え厳しく育てるのだ。
彼らは勇者と賢者の器を持つ希望だ。世界を魔物の手から解き放つ存在になりうるだろう・・・・・・。よいな、くれぐれも事は慎重に運ぶように」
突然の出来事にも動じず、アランは冷静だった。
「しばし、おまちを」
「なんだ」
「大魔王ネオバーンは今どこに?」
「・・・・・・。やつは気まぐれ、しばらくは城におるだろう」
「それから、そのビアンカとの間に産まれる子は、本当にネオバーンを倒す力を持つのでしょうか?」
「そなたの育て方次第じゃ。謙虚に厳しく育てよ。さすれば子等に与えられた心臓以外の核たる臓が動き出しやつにも届く力が現れるだろう」
「それから・・・・・・」
アランは賢い。続け様に質問を続ける。
「アラン王子よ、時は止まらぬ。やつが次に動く時はこの世界が終わる時だ人間だけではない、数多くの種が滅びるのだ。むろん我々エルフ族も含まれる」
目の前のエルフはその存在がボヤけ、次第に透明になっていく。
「戦いにエルフは力を貸してくれるのですか?」
「我々は争いは好まぬ種、故に我々から動く事はあり得ない」
「しかし人間だけの力では・・・・・・、共に戦ってはいただけないのですか?」
「エルフ族は、以前に比べればその数も力も弱くなり果ててしまった・・・・・・。ただしそなたらに産まれてくる子等にはエルフ族のみ持つとされている第七の臓が色濃く受け継がれるだろう。彼等を厳しく育てよ。エルフの力はそこにある。世界を救えアラン王子よ」
最後は言霊となり、小さき人エルフは姿を消した。
アランはさっそく、聞いた事も無かったカスミ王国へ出向き、ビアンカと出会う。
初めて出会った時のビアンカは、金の長い髪を後ろで束ね薄汚れた服を纏い、馬小屋で小馬の世話をしていた。真剣に目の前の小馬に向き合う横顔を見てアラン王子は、すっかり一目惚れしてしまったそうで、すぐに結婚を申し込んだのだった。
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