この国のれきし2
歴史の話はもう少し続く。
グリコ歴231年。
南方より進軍していたゴゴ大国の連合艦隊が突如として消息を絶った。
大小合わせて70隻の船に、南方の荒れる海で鍛え上げられた屈強な海兵五千名が乗船する規模の連合艦隊だった。日に3度伝書鳩から艦隊からの報告が入る決まりになっていたが、ある日からその報告が急に途絶えてしまったのだ。
最後の報告では、世界最大の大河ウロン川を北上し三日目であること。
魔物の領土に入り深部に入るほど敵は強くなり、一部被害が出ているものの概ね作戦は順調でこのまま進軍するという内容であった。
吉報が続いたのでゴゴ大国の王は楽しみに報告を待っていたが、急に報告が途絶えてしまったのでどうしたものかと狼狽えてしまったそうだ。
数日後、悪夢のような光景を目にする。
ウロン川の下流に夥しい数の死体と船の残骸が流されてきたのだ。
ゴゴ大国はウロン川の下流に位置しその残骸は川幅いっぱいに広がり、昔から川を見てきた付近の住人はその異様な光景に恐怖し言葉を失ってしまったそうだ。
知らせを聞いた王は自らの足でウロン川まで行きその光景を目にすると膝から崩れ落ちた。
時を同じくして北方より進軍していたモリアン帝国率いる連合軍もその消息が途絶えてしまっていた。
連合軍一万を率いたのは若きモリアン帝国の王ハラ、その人であった。槍の使い手として名を知らぬ者はいない程の実力者だった。
連合軍には当時世界最高の魔導士と呼声高いロマネグリードの率いる魔法団も加わっていた。グリードの持つ杖は魔滅の杖と呼ばれ、強力な魔法で今までに多く魔物を殲滅し民を救ってきた。
この度の連合軍もハラ率いる騎馬隊とグリード率いる魔法団が先陣を担っていた。
急に連絡の途絶えた連合軍に対し、モリアン帝国はすぐに捜索隊を送った。
捜索隊からの連絡はすぐにあった。
主人を失ったグリードの魔滅の杖と共に、連合軍全滅の報告がモリアン帝国王室に告げられた。
モリアン帝国の王族達は事態が急には飲み込めず呆然としながら報告を受けた。
捜索隊員の報告によると、連合軍の進路には広大な森が広がっていたそうだ。
捜索隊が連合軍の進路に合わせて進んでいくと急に深い森が開けたそうだ。
そこは見渡す限り一面が焼け野原になっていて、まだ煙も至る所で上がり、生き物の焼ける臭いも立ちこめ、とても息をする事出来ず、悲惨な光景が広がっていたという。
偵察隊の誰もがその光景に言葉を失い、事が考えられる最悪な結果になってしまった事を理解した。
地面をよく良く見るとモンアンの紋章の入った剣や甲冑、馬の蹄などが焼け残っていたそうだ。
どれ程の威力があればこんな事になるのだろう。そこにいた者は誰ひとりとして目の前の光景を説明できる者はいなかった。
まだ熱が籠もる現場を可能な限り調べて回った。
とはいえ十五名程度の人数では調べる事にも限界があった。それ程までに現場はひどく広い範囲にわたっていた。
日が暮れてくると偵察隊は引き上げる。夜の闇の中では一層魔物は凶暴になるからだ。
その時、一ヶ所淡く光っている所がある事に気がついた。
辺りに注意しながらその場所へ行ってみると、なんとそこには、一本の杖が地に突き刺さり弱々しく光を発していたのだった。
「ロマネグリード様の魔滅の杖だ」
隊員のひとりが声を上げた。
それは確かに魔滅の杖であった。
世界一の大魔道士ロマネグリードの、その杖がここにあるという事は・・・・・・。
事態は急を要する、早くこの事を城へ知らせなくては、隊員の一人が杖を回収しようと手を掛けたその時。
周りにいた十五名の隊員全員の脳裏に小間切れに戦闘の光景が音もなくしずかに映し出されたのである。
*********
ハラ王自ら先陣を切り、森の中を颯爽と馬に乗り駆けている。
そのすぐ後ろにはロマネグリードが続いている。
空が急に暗くなる。
ハラ王が手を挙げ、馬を停める。
何か気配があるのだろう、周りを窺うハラ王。
ゆっくり槍を構える。グリードも杖を構える。
突然辺りがピカッと光ったかと思うと後ろの方で大きな爆発が起こる。
一斉に馬が暴れ出すと同時に爆風が容赦なく襲ってくる。
さっき通った森が一瞬にして消滅。
刹那にグリードが魔法を発動。
ハラ王や兵士達が優しい光に包まれる。
立ち上る煙の中に大きな影が映し出される。
影に向かい騎兵たちは槍を投げ、矢を撃つ。
魔法団も杖を向け魔法を放つ。
影の中心部が激しく光を放つ。
光は瞬間的に膨張し爆ける。
槍を投げた者には槍が、
矢を撃った者には矢が、
そして、魔法を放った者には魔法が鏡に反射するように跳ね返ってきた。
兵士たちがバタバタと倒れていった。
煙は晴れた。中には禍々しいオーラが漂う人型の何者かが宙に浮いている。
一帯の兵士をはじめ、ハラ王、グリードまで固まって動けなくなってしまった。
漆黒のローブを纏い、幾重にも伸びる角の付いた兜を被り、顔は青白く、目は白目が無く、どこまでも邪悪だった。薄ら笑いの口元がゆっくり開く。
「か弱き者ども・・・・・・、我が名はネオバーン。この世を恐怖のうちに支配するものなり」
「・・・・・・。大魔王ネオバーン?」
誰かがポツリと呟くと、
武器や防具を地に落とす者・・・・・・。
膝から崩れ落ちるもの者・・・・・・。
兵士達はその名を耳にし一斉に崩れ落ちた。
ローブから両手を出して大きく広げると無数の光の球が現れ四方に飛び散った。
そのひとつひとつが大変な威力で爆発し、再び辺り一面を火柱と爆煙が立ちこめた。
混乱する兵達とは正反対に、ハラ王とロマネグリードの二人だけが、大魔王を睨みつけていた。
グリードが杖を天にかざし呪文を唱えると、自らを巨大なドラゴンに姿を変えた。
ハラ王は槍を片手にドラゴンの背に飛び乗った。
飛び立つと同時に、口から火球を吐く。
ネオバーンは、片手でいなす。
その間にハラ王が槍を矛先をネオバーンの額の一点に狙いを定めて飛び掛かって行った。
ネオバーンは、寸前で槍を躱す。
回り込んでいたグリードの背中に降り立ったハラ王、すぐに構える。
大魔王ネオバーンは、しばらくその二人を見ていたが急に笑い出した。
「時は退化ではなく、進化させる事を選んだのだな」
体の前で手を合わせゆっくりと広げると、とても人間では扱えないドス黒いオーラを纏った大剣が現れた。
「さあ、かかって来い人間よ。貴様らの恐怖に満ちた顔を見るのが楽しみになってきたぞ」
ネオバーンは大剣をまるで木の枝のように軽々と操りそう言った。
*********
脳裏に映った回想はここで終わった。
ロマネグリードの魔滅の杖は最後の役目を終えたのか、光る事をひっそりとやめた。
固まっていた隊員達がお互いの顔を見合わせた。
誰もが血の気が引いた青白い顔をしていた。
大魔王ネオバーン。
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