この世界のれきし

 寝ている間に早送りで時が進む現象は、全部で5回起こった。

発生するメカニズムは全くもって謎だが、僅かな期間で15年もの月日が流れ僕はあっという間に15歳になってしまった。


 当然、双子の妹、ショウも15歳になり身体はしっかり女性として発達しているようだが、顔は、益々大人の正一兄ちゃんに近づいてくるのでもう見るに堪える事ができない。

 

 早送り現象が続くようなら、あっという間に僕は年老いて死んでしまうな・・・・・・。

 真剣に悩んだが、どうしようもない事で抗う術がない。


 しかし不思議なことに5回目の15歳になった時から、次はいつ起こるだろうかと落ち着かず構えていたが、それ以降はぱったりとその現象は起きなかった。


 この世界に身を置いて、色々なことが分かってきた。

 我々のいるアイ王国は、広大な敷地を有する大国。

 他にも大小様々な規模の人間が営む国がこの世界には存在する。

 国家間では頻繁に交流が行われていて、アイ王国の場合は、交易の幅が広いので情報や物が多く集まってくる。

 この世界の人間は争いを好まず、ある時までそれは平和に暮らしていたという。



ここからは少しこの世界の歴史の話をしよう。


 500年前グリコ歴10年、突如としてこの世界に魔物が現れた。大魔王ネオハードが率いる凶暴な魔物の大群はこの世界の全てを我が物とするため、人間達を圧倒的な暴力によって制圧し、勢力をどんどん拡大させていったのだった。


 それまで平和な日々を送っていた人間達はなす術無く、ネオハードが現れて僅か10年で30の国が無くなり、世界の半分が魔の手に落ちてしまった。

 このままでは人間が滅びてしまうと、真っ先に立ち上がったのが、今のアラン王の先祖であるレドミル2世であった。


 彼は自国に軍隊を組織した。その頃にも魔法を使える者もいたが、魔法は生活の術として使われていた。彼は魔法を武力として、使える者に訓練をつませ戦いで活躍できる様に魔法軍を、魔法が使えない者にも武器の扱い方を徹底的に教え、誰でも戦えるような組織を作ったのだった。

 それと同時に周りの国とも連携を図り、魔物の侵攻に抵抗するようになっていった。

 レドミル2世の活躍により、魔物に抵抗出来る術を人間は少しづつ身につけていったのだった。


 しかし、それだけでは不十分だった。

 魔物による侵攻速度は大幅に遅らせる事は出来たが、防戦一方である事には変わりなかったからだ。

 それは何故か?答えは明確であった。単純に力が足りなかったのだ。

 一兵卒の魔物の群れなら、組織された軍隊で充分戦うことが出来たが、一体でも戦闘力が高い魔物が率いて攻め入ってくると防ぎようがないのである。

 そうした場合、魔力の高い魔導士や、戦闘力の高い戦士が束になってなんとか食い止めるのだが、そのような者は国に数えるほどしかおらず、大きな侵攻が起こる度、国家間で援軍を出して対応していったのであった。


 人間が耐える時期が200年ほど続いた。次第に人々は戦いが身近にある状況に慣れ、戦い方や魔法、武器など工夫し進化させていった。


 魔物と人間の大きな違いは学ぶ姿勢にあった。

 失敗を糧に少しづつ少しづつ人間は進化していったのであった。


 その結果、魔物による一方的侵攻は止まり、人間が考え編成された部隊により占領された地域を奪還出来るような反撃に打って出る様になったのである。

 はじめて領土奪還に成功すると、人々は色めき立った。先の見えない戦いに希望の光が見えた。

 グリコ歴230年。魔物に怯えた200年以上もの時間と多大な犠牲を糧に人間達は国境を越え団結し戦った。

 北では、最強の騎馬隊を有するモリアン帝国が率いる連合軍が活躍し。

 南では、大艦隊を有するゴゴ大国を筆頭とする連合艦隊が敵を撃破していった。

 大陸の平野部では、アイ王国を中心に様々な国から精鋭が集結し、魔物の領土の中心を真っ二つに分断させ、北と南の連合軍と力を合わせ攻め込み一気に弱体化させる作戦を実行した。

 アイ王国は大規模な特攻部隊を編成し突撃していったのである。その部隊を率いるのは、アイ王国の当時の国王コジー王自らであった。

 コジー王は、滅多に姿を現さない妖精エルフとアイ王国の王の間にできた子で、生まれながらに武芸と魔法の才が備わっていたとされている。アイ王国に魔族の幹部、火を吐く八つの頭を持つオロチが攻め入った時、たったひとりで立ち向かい三日間にも及ぶ激戦の上、ついにオロチを討ち取った伝説は、今もおとぎ話として語り継がれている。


 そのコジー王率いる部隊は、破竹の勢いで敵を蹴散らし作戦通り敵の領土を分断させていった。

 右手には、国内外から呼び寄せられた名工達によって鍛え上げられ作らた聖剣ムラサキを携え、国宝の白馬シラカゼに乗り、自ら先陣をきり突き進んだ。

 敵将を打ち破るたびに送られてくる前線からの知らせにアイ王国の国民をはじめ、多くの人々が歓喜した。

 北のモリアン、南のゴゴ、そして中央から進むアイ王国、共同作戦は順調に進んでいった。

 ついに恐怖の魔物を撃破し、怯える暮らしから解放される日が現実に来ると人々が実感しはじめた。


 そんな矢先・・・・・・。


一瞬にしてその夢は崩れ去る事となるのだった。

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