ショウとケンジ
たぶん僕は大変な状況の中に身を置いている。
僕というのは、今までの世界において西暦2000年に二十歳の男、井上健二のことである。
これからの僕は、グリコ暦510年のアイ王国の王子、ケンジのことにどうやらなってしまう。
前世の?記憶を残したまま、生まれ変わってしまったのだ。
しかも、聞いた事のない世界、嘘のようだが、今までフィクションのファンタジーだと思っていた世界の住人に。
今まで存在していた世界から、この世界へ来てとにかく毎日が驚きの連続だ。
魔物、魔法、魔石、戦争、勇者、賢者、エルフ、王族、そして、近くにある死・・・・・・。
記憶にある20年間の経験では理解し得ない事がここでは日常に行われていた。
それとは別に、一度寝ると頭の中でビデオテープが早送りされるように自分の周りが超高速で動き出す事象が起こった。
日が昇り、日が沈んで夜が来て、また日が昇る。これが体感的に10秒位で行われる。ぼやけていた視界はすぐにクリアになり自分で立って歩いたり、走ったり、剣を手にしたりする瞬間も客観的に高速のうちに頭の中で体験した。
意識がはっきりして身体を起こすとびっくりする。さっきまで赤ちゃんだったのに成長しているのだ。
はじめてこれを体験して起きた時は3歳になっていた。
はじめて、この国の王様で自分の父親アランと、そのお妃である母親ビアンカの顔をはっきりと見た。
アランは目鼻立ちがはっきりして、彫りの深いいかにも王様といった厳格な顔つきをしていた。
一度戦闘となると大賢者と呼ばれているほどの実力者で強力な魔法を使いこなし目の前の敵を一瞬にして吹き飛ばす、また武人としても武器の扱いは天下一品でこの国で肩を並べる者はいないそうだ。
それだから性格が厳しいかというとそうではない。むしろ温厚で優しい。特に母ビアンカに対しては頭が上がらないようで、大賢者の代名詞はどこにいったのか?というくらいに、妻の前ではいつもお伺いを立てているといった感じだ。
一方の母ビアンカは髪が綺麗な金色でアラン同様彫り深い顔立ちで金の髪がよく似合っていた。その上で気が強く声も大きいものだから迫力がある。働き者で城の執事には極力頼らず、我々家族の事は食事から家事、育児に関しても自分ひとりで片付けてしまう。
どちらも美男美女でナイスカップルであった。
僕には双子の兄妹がいた。ショウと言う名の妹だ。
以前の世界では、正一という歳の離れた兄がいた。
僕が高校に通っている時に、社会人になって家を出てしまい、それ以来、実家にはあまり寄り付かず独りで自由奔放に生きていた。
たまに帰っても父、母とはあまり喋る事はなく、リビングでダラダラテレビを見たり、自分の部屋にこもったりしていた。
ただ僕に対して何故か優しく小遣いをくれたり、たまに一緒に僕の部屋でゲームをして付き合ってくれた。そんなぶっきら棒の兄は家族の中で僕にとって1番心が開ける存在だった。
妹ショウの顔をはじめて見た時、身体が固まった。
なんと顔つきがかつての兄、正一そのものだったのだ。
そのくせ、髪の毛はビアンカ譲りのサラサラな金髪でロングときている。似合わない。
「お兄ちゃん・・・・・・」
と、思わず口に出してしまうと、アランとビアンカは大笑い。当の本人からは、何言うか。と、どつかれる始末。
その時、心配になって急いで鏡で自分の顔をはじめて見て、それ以上のショックを受けたのだが・・・・・・。
まあ、健二な訳である。
鏡に映るのは当然子供の頃の僕で、今まで20年間成長を見てきた僕の顔なのである。しかも幸か不幸か、僕もサラサラ髪の金髪であった。似合わない。
その時はあまりの衝撃に鏡の前から動けなくなってしまった。
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