年越しのヘルバトラー

 一階からは紅白歌合戦だろうか、歌謡曲が細切れに聞こえてくる。

 テーブルの角をドラム代わりに指でリズムを刻むのは、昔からの父の癖だ。

 

 こんな僕でも今年はどうだったかなー。なんて振り返ったりもする。


 大学に行かなくなってもう一年以上経っていて、去年の年越しもゲームをしていた。なんのゲームだったかな・・・・・・。


 春に父が過去最大級に激怒し、僕の部屋へ怒鳴りながら乗り込んできた事があった。

 部屋にあったゲーム本体とソフトを全て没収、処分された大事件。

 あれには本当に参った。

 そこからひと月近く自室でゲームが出来なくなってしまったんだから。


 その時はじめたのが、近所の八百屋と中華料理屋の厨房バイトだ。

 なぜこの職種を選び、しかも掛け持ちではじめたかと言うと、第一に短期間で稼ぐため。第二にどちらかが合わなくてすぐに辞めても、一方は残るという保険。第三に家を出ても好きな物を食べていけるように料理のスキルを身につけるためであった。


 八百屋は朝早い事が苦痛ではあったが、重い荷物を運んだり、体を動かす良い運動になった。新鮮な野菜の目利きまで教えてもらえた。


 中華料理屋は、主人が中国の人でたまに何を言っているのか分からない時もあるが、概ね笑っていれば解決できるし、何より包丁の使い方から、鍋の振り方まで順を追って丁寧に教えてくれた。


 溜まったお金ですぐにゲーム本体と厳選したソフトを買い揃えた。

 バイト以外は自室に篭りゲーム三昧の日々を取り戻す事ができた。どちらのバイトもせっかくだからと、今でも辞めずに回数を減らして続けている。


 多少バイトで家を出るようになったので、親からの非難は減ったように感じる。

 全てはゲームのために行なっている。

 なんて知ったらどう思うだろうか・・・・・・。

 まあ知った事ではない。


 そういえば、八百屋の大将も中華屋の李さん(※店主)も、今年の年越しは2000年問題がどうのこうのと同じ話をしていた事を思い出した。

コンピュータのシステムがダウンして経済が大混乱してしまうとか何とか。

 ニュースを含むテレビ番組を全く見ない僕に、二人とも真剣に(李さんは片言だけど)どれだけ大変な事か説明してくれるのだが、そもそも興味の無い話だったので、はあ、だとか、ええ、だとか僕が適当な相槌をうつだけだったので、最後には二人とも顔を真っ赤にして話し疲れてしまった。

 

 その問題が今夜、もしかすると起こる訳かー。

 その拍子に上手い事、ヘルバトラーが仲間になってくれやしないかと、どうしようもない事を考えながら僕はゲームを続けた。

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