転生して勇者ケンジになりました。
大造
オープニング1999
「健二ー、早く降りて来なさいー。お蕎麦が冷めるわよー」
下から母の声が聞こえる。
「母さんもうあいつの事なんて気にするな。ほら食べるぞ」
父の声も耳に届く。可能な限り小さく、ただしこちらには聞こえるギリギリの声量を調整出来るようになったのは不貞な僕のお陰であることを深く認識してもらいたい。
「病気なんだあいつは、気にするな。大晦日だろうが、正月だろうがあいつには関係ないんだ。ゲームだけして生きていければいいんだから。はじめよう。ほら、ビール」
「健二・・・・・・」
もう毎日同じことの繰り返しでうんざりだ。
僕が家にいると必ず夕飯だのお昼だの声を掛けてくる。食べません、と一年前に両親の前で宣言したのに全く意味をなしていない。理解力が備わっていないのか?
それで社会的によいのか?
まあそんな事はどうでもよろしい。
今日が大晦日で年越し蕎麦を啜るという年に一度のイベントであっても、今僕が手にするのはこのコントローラーであって決して箸ではない。
耳栓でもすればいいのだが、たまに巻き起こる激昂した父の襲来の危機察知の感覚が鈍るし、何よりゲームは音楽がなきゃはじまらない。
手のひらに汗をかかせるのには強敵、難題、そして音楽である。
今はだいぶ前に発売されたドラゴンクエスト5熱が再燃し、はじめから丁寧にストーリーを進めている。
結婚相手は自分の中でフローラの一択だったが、今回はあえてビアンカを選択した。
1週間で一度全クリして、そこからパーティーレベル99に目標を変更し達成、同時進行の仲間モンスター全コンプも進め、あとは隠しダンジョンのヘルバトラーのみというところで止まっていた。
数年前にやった時はあっさり仲間に出来たモンスターなのに何故今回はここまで苦労するのか。
集めたモンスターが多過ぎるのか?
いやいやそれは無い。泣く泣くレベルをあげたモンスター達とお別れしている。
勇者の髪の毛の色が金でヘルバトラーのツノと被っているからか?いやいやそれも無い。そんな差別的な事を天下のスクエアがする筈がない。
バグったか?いやいや答えはもう分かっている。単純に僕の運がないだけなんだ。
キラーマシンやはぐれメタルでさえも、仲間に出来るのは確率の問題。ヘルバトラーを倒した時の瞬間(※実際どのタイミングで抽選しているのかは知らんが)に当たりを引けないだけなんだ。
もうドラクエをはじめて4ヶ月、今日は1999年で明日は2000年である。
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