第9話 おっきくなっちゃった。

「やるじゃないか、ラピス! 初めてとは思えないぞ! さすが竜人族ドラゴニュートだな!」


 一昨日とは打って変わって暖かい部屋に俺とラピスは泊れた。


 ぐっすり眠れた俺たちは早朝の街に出た。仮の試練で倒したドレイクの素材が売れたおかげで、軍資金はある。


 今のうちにラピスの武器を揃えようと考えていた。


 早朝なのに武器屋は開いていた。朝早くに出る冒険者で需要があるみたいだ。店に入るとすでに昨日のワイバーンのことで、俺たちのことは知れ渡っていた。


 なので値切った訳でもないのだが店主がラピスに合いそうなナイフをお値打ち価格で売ってくれた。


 そのナイフを片手に街の外、比較的そう強くないモンスターが出るという、森に来ていたのだが、一角ウサギ相手にラピスは魔法と武器を自在に使い倒した。


「旦那様、ラピスすごい?」


「すごいぞ~~えらいな、かわいいだけじゃないな」


 そう言って俺はラピスの頭を撫でた。


 お世辞じゃない。


 いや、元々は褒めて伸ばそうと考えていたのだ。魔法が使えない状態の時に護身術くらい身につけた方がいいのではと思っていたのだけど。


 見た感じおっとりしたラピスだから、実はあまり期待してなかった。竜人族ドラゴニュートの本能なのか、度胸が座っているというか動きに無駄がない。


 基本魔法で防御し、ひるんだところをナイフで攻撃する。


 相手が竜以外なら俺より強いかも……いや、相手が竜ならラピスのどう喝ひとつで逃げ出すことは昨日のワイバーンで証明された。


「旦那様がかわいいって言ってくれた~~」


 あの水竜ブルードラゴンだとは思えないくらいにかわいく、ちっちゃい。そろそろ腹も減る頃だろう。


 街で買ってきていた魚のオイル漬けを挟んだパンを取り出し、半分に分けた。ラピスは半分こが好きだ。


 もうひとつは野菜と何かの肉、羊の肉に似た物が挟んであるパン。ラピスは食べなくはないが魚ほど肉は好きじゃないみたいだ。その逆に俺は魚がそれほどじゃない。


 じゃあ、それぞれ魚と肉を食べればいいのではと思うかもだけど、ラピスが半分こが好きだし、俺はラピスの喜ぶ顔が好きだ。


 その時だ。異変を感じたのは。


 半分こにしたパンを食べ終わりボトルの水を交代に飲み、こっそり買っておいた焼き菓子でラピスを喜ばした後のことだ。


 膝の上ではしゃぐラピスが少し重たくなったように感じた。変だなぁと思い、ラピスを見ると、さっきまでは膝の上で少し目線を下げないと目が合わなかったはずが、合う。


「ラピス。ちょっと立ってみろ」


「どうしたの、旦那様……あれ、旦那様……なんかこの服小さくなっちゃった!」


「ほんとだ……って、違う! お前が大きくなってんだよ!」


「えっ? ホントだ! 靴もちっちゃい!」


 水竜ブルードラゴンから竜人族ドラゴニュートになった時は、どれくらいだろ? 


 四歳児くらいな感じだった。それが今では六歳か七歳くらいか。広げた手のひらくらい、だいたい20センチくらい身長が伸びていた。もちろん体重もだ。


 履いてた靴が履けないくらいなので間違いない。


 ラピスは成長した。食事をしたからか? いや、それだと昨日の夜も食事はしている。そうなると……一角ウサギと戦ったからか?


「ラピス、竜人族ドラゴニュートは経験値を積んだら成長するのか?」


「経験値? う~~ん、わかんない。でもラピスおっきくなった? 旦那様のお嫁さんになれる?」


「それは……まだ早いかなぁ」


 曖昧あいまいにごまかして俺はラピスを抱っこして街に急いだ。


 歩かせようにも、きのう衛兵の親父の奥さんから貰った靴はもう履けないし、身長が伸びてるのでおんぶだとワンピースのすそから下着が見えてしまう。


 一体何が起きてるんだ?



「ユウト……どうしたの、その子。おっきくなってない?」


 身の回りの物を一式そろえ教皇庁に戻ると、黒布で目を塞いでるはずの大聖女がラピスの成長に気付いた。どういう仕組みなのだろう?


「よくわからない……です。今朝早起きして訓練のつもりでラピスと森へ。一角ウサギを何匹か倒して朝食を食べたら、こうなりました」


「経験値を積んだからってこと?」


「わかりませんが、恐らく……」


 大聖女はあごに手をそえ、何度かうなずき小首を傾げた。あまり納得が行ってないようだ。


「それはさて置き、今後もそういう急な成長があるかもだから、少し大きめの服も準備しておきなさい。街を出るとすぐに手に入らないと考えていいわ」



「街を出る?」


「そうよ、街を出るの。あなたには第二の竜の試練に同行してもらうわ。試練は合わせて三つ。そのすべてを乗り越えて初めて魔王城への道が開けるわ」



「ラピスは?」


「心配なんでしょ? 連れて行けばいい。それはそれで心配でしょうけど」


 召喚された頃とは少し印象が違う。


 俺の気持ちを理解しようとしてくれてるのが、意外でならない。しかし疑問はある。


「この国の勇者パーティに、竜狩りの者が同行しないといけない伝承は聞いたが、それはどうしてもなのか? 勇者パーティだけでやれるんじゃないのか?」


「あなた、正気なの? きのう広場の石像の前で、何も出来ずにワイバーン相手に大盾に隠れてたのが当代の勇者よ? それにドワーフ最強の戦士。大賢者は状況も見ずに、上級魔法を連射するような老害。あなた、私に死ねとでも? それに私の荷物、誰が持つの?」


 えっと……俺は大聖女専属の荷物持ちなのか?


 俺は納得するしかなかった。


 説得されたからではない。大聖女が話をしながらしきりにミスリルの大斧の刃に指で触れていたから、笑顔で。


 つまりは脅迫だ。


 □□□作者より□□□


 お疲れ様です!


 ラピスが急成長しました。幼稚園児が2年生くらいに。

 続きが気になる方は応援よろしくお願いします!


 ブックマークまだの方よろしくお願いします!

 ☆評価方法はこのままスクロールして【☆で称える】を+ボタン3回プッシュと超簡単です!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る