第7話 竜の勇者。

 一瞬の出来事だった。落下に転じた大聖女の体を目掛け、押し寄せたワイバーン。大きく口を開け、彼女の体を捕えようとした、まさにその時のことだった。


 ヒュっと風を切り裂く音が彼女の耳に届いたかと思うと、大口を開けていたワイバーンは悲鳴と共に地面に叩きつけられた。


 同時にあと二体のワイバーンも体勢を崩し広場に撃墜された。


(ユウトですか……遅いじゃないですか)


 黒い布で覆い隠された彼女の目だったが、ユウトの魔力を感じ取れた。ユウトは大聖女に群がるワイバーン三体目掛け、竜狩りの弓を打ち込んでいた。


 飛竜であるワイバーンに大打撃を加えたのだが、大聖女の落下を食い止めることが出来ない。


「ラピス! 何でもいい! 魔法で大聖女を止めれないか?」


「旦那様……わかった! 我に力を!『アクア・シェル』×3‼」


 本来は防御系の魔法なのだけど、ラピスは大聖女の落下地点上空に「水の膜」を発生させた。


 一枚目の『アクア・シェル』で落下速度を落とし、二枚目で落下速度を更に落としつつ、落下位置の微調整をし、三枚目の『アクア・シェル』で俺がギリギリ追いついた。


『アクア・シェル』に大聖女の体をぶつけ落下速度を落とすという、大胆で強引な魔法利用だったがラピスの機転のおかげで大聖女は軽傷ですんだ。


「よくやった、ラピス!」


 大聖女の体を腕に迎え入れたユウトはおんぶしたままのラピスを褒め、頬ずりをした。


(だ、旦那様に褒められた! お嫁さんに近づいたかも……)


 ラピスはおんぶされたまま足をバタつかせた。



「遅いじゃないですか、ユウトのクセに」


 俺にお姫様だっこされながら大聖女は頬を膨らませた。ラピスのおかげで間に合った。さすが元水竜ブルードラゴンだ。


 安心したのかラピスは俺の背中できゃきゃとジタバタした。


「打ち合わせなしで突っ込むからですよ、大聖女さま」


「なによ、それくらい理解しなさいよね! ユウトのクセに生意気!」


 何なんだ?


 助けてやってお礼ひとつもないとか。助けたのはラピスだけど。それにしても大聖女。意外と重いなぁ……ラピスと比べちゃダメか。


 公園には大聖女がほふったワイバーンが三体。


 俺の竜狩りの弓で放った矢に射抜かれた三体。中々の戦果のはずだが、まだ相当数のワイバーンが教皇庁前の公園上空を旋回していた。


 どうしたもんかなぁ……そんな俺になぜか竜狩りの装備がうっきうきな声で話し掛ける。


【お喜びください! なんと私、装備レベルが2に進化しました! もう、竜が相手なら負ける気がしません! ラピスさま同様、私を褒め称えてください、!】


 褒めを強要されるとなんだかなぁ……それにこの緊迫した状況は変わんない。って言うか今こんなこと考えてる場合じゃないだろ。なので、まぁ適当に褒めた。


「そうだな、頑張ったな。お前にしては」


「はぁ⁉ お、お、お前ですって⁉ ユ、ユウトのクセに生意気が過ぎます! わ、わたくしは大聖女なのですよ!」


「いや、大聖女さまじゃなくて……」


「わたくしじゃなく……では水竜ブルードラゴンの小娘……」


「ムッ!」


 おんぶのまんま身を乗り出すラピスに大聖女は苦笑いして「ごめんなさい、口が過ぎましたわ」と即謝った。意外と人がいいのかも。


「そうじゃなくて……竜狩りの装備が話しかけてくるんだ」


 つい言ってしまい後悔。頭がおかしいと思われてそうでヤバい。案の定、大聖女は口を半開きにしてあきれてる。


 しまったなぁ……どうごまかそうか考えていたところ、大聖女が腕の中で暴れる。いい加減降りて欲しい。


「ユウト! それは誠ですか⁉ あ、あなた……もしやが出来るのですか⁉」


「いや……対話という立派なもんじゃない……です。その『めろ』と強要されたりで……ハハハッ」


 するとあろうことか大聖女は俺の肩に手を回し、ずいっと顔を寄せるので背中ではラピスがなぜか暴れる。その、そろそろふたりには降りてもらいたい。


 言い出せない俺って案外小心者なのか?


「では本当なのですね⁉ べ、別に! 疑ってるわけじゃないんですけど! その……証拠……見たいかも……」


 なんで顔を赤くしてるんだ?


 意味が分からん。証拠と言われても……竜狩りの装備になんかしゃべれと言ったところで口はなさそうだし、ラピスですら聞こえてないようだ。


 どうしたもんかなぁと両腕が空いてたら腕組みしていたところだけど。残念お姫様だっこ中だった。


 予想に反してというか、何となく感じていたが目立ちたがり屋の装備の方から動きがあった。あからさまに盾か点滅した。


「光ってる……盾が、竜狩りの者の盾が私の言葉を理解したということなの……?」


 大聖女の驚きに水を差すのは悪いので言わないが、竜狩りの装備はあからさまにドヤった空気を出している。俺にしか伝わってないのが幸いだけど。


「ユウト……あなたもしかして、竜の勇者……」


 大聖女が何か言いかけたが聞こえない。代わりに耳に届いたのは勇者の甲高い声だ。


「おい! 竜狩りの者! いつまで大聖女に触れているんだ‼ その汚い手をのけろ‼」


 相変わらず戦士職のドワーフの大盾に隠れたままの勇者。


 いや、言われるまでもなく、はやく大聖女を降ろしたい。


 はた目にはわからないだろうが、お姫様だっこはかなり体力を消もうする。


 その上時おり暴れたりもする。うっかり落としたら打ち首になるかも。なので言葉選びには細心の注意が必要。


「大聖女さま。ここは俺に任せて教皇様をお願いします。時間を稼ぎます、お逃げください」


 こんな感じでいいだろう。これなら大聖女を降ろしても文句は出ないはず。大聖女を石畳の上にそっと降ろし、ついでにラピスのおんぶも終了。ようやく肩の荷が降ろせた。



 重たいから降ろされたとは知らず大聖女は教皇庁の扉を開きながら「なんと健気な……」とユウトの背を見て頬赤らめた。


 大聖女も順調に勘違いを重ねた。


 □□□次回投稿は夜20:02です□□□


 □□□作者よりのお願い□□□

 読み進めていただきありがとうございます!


 次回、かわいいだけじゃない! ラピスの活躍をお楽しみに!


 ブックマーク、毎話ごとの応援、大変励みになります!

 よろしくお願いします!






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る