第6話 特攻、大聖女!

 俺は大聖女が引き連れた衛兵たちに両脇を抱えられ教皇庁に向かう。向かう道中親切な竜狩りの装備がワイバーンについて説明してくれた。


【ワイバーン。飛竜の一種。ドレイク同様下級種の竜。群れを好み、群れで攻撃を仕掛けてきます。上空からの攻撃なので、当たらなければどうという事はないです!】


 簡単に言う。いや、当たったら?


 確かドレイク1体で衛兵10人掛かりで討伐に数時間って……群れを好むんだろ? しかも飛んでんだろ?


 どうやって倒すんだ? あの山なりにしか射ることが出来ない俺の弓矢でか?


「しかし、大聖女様。教皇庁には勇者リピトールさまはじめ、大賢者さまも」


 夜勤明けの衛兵の親父も急ぎ教皇庁に駆けつける。親父にそう言われ大聖女はなぜか苦い顔をした。


「黙ってても仕方ないわ。大賢者は当たりもしない大魔法をぶっ放して早々に魔力切れ。戦士職のドワーフは、勇者リピトールを守りながら大盾で防戦一方。すべもない状態よ。ここは竜狩りの者ユウトに頼るしかない!」


 なに勝手なこと言ってるんだ? 勇者パーティがどうにも出来ないのに、俺ひとりでどうしたらいい。普通に考えて教皇庁に向かうのではなく、避難すべきだろ。


 そんな俺におんぶしていたラピスの独り言が聞こえた。


「どうしたんだろ。、私がいる時全然姿も見せなかったのに……」


 お腹が一杯になって眠たくなってきたのか、ラピスは大きくあくびをした。事の重大さがわかってないのかも知れない。


 俺たちは息を切らせながら教皇庁に戻った。しかし近づくまでもなく、上空には10体以上のワイバーンが旋回していた。


 どう考えても勝ち目はない。


 ここは街の人たちを避難させてワイバーンが去るのを待つしかないんじゃないのか?


 そんな後ろ向きな考えがバレたのか、大聖女に軽く足を蹴られた。ホントにこの人って大聖女なのか。なんかちょいちょい意地悪をされる。


「行くわよ、ユウト」


「お言葉ですが大聖女さま、どう考えても無理でしょ。ここは退避して……」


「何を言ってるの? 教皇様は竜狩りのユウトを信じて、執務室にお残りなのよ!」


 人が人を信じて同行できる域を越えている。ラピスを言い訳にするワケじゃないが、おんぶしたまま立ち向かえば、この子もただでは済まない。


 でも、ここまで来てしまった以上、今から無事に逃げ切れるかわからない。じゃあヤルしかないか……腹を決めた俺に対し罵声が飛ぶ。


「何をしてる、竜狩りの者! さっさとワイバーンを追い払わぬか‼」


 広場の中央。石像の脇で大声を上げ叫ぶ大盾。ずんぐりとした体形の男と背中合わせの赤いマントを羽織った男。まさかこれが勇者なのか? 


 いや、それにしてはあまりにも情けない。さっきからワイバーンにいいようにつつかれている。


「まさかとは思うんだけど……」


「そうよ、あれがまさかの勇者リピトールと戦士職のドワーフ。大賢者の姿はないわね……食べられたのかしら」


 上品な口調でとんでもないことを言いだす。そうなるとさっき叫んだのは戦士職のドワーフか。自分でなにも出来ないのに人に偉そうに。


「大聖女‼ 状態強化を頼む! そこの竜狩りの者! 大聖女が魔法詠唱する時間を囮になって稼げ!」


 初対面の勇者が命乞いとも取れる「囮になれ!」命令。大聖女がの魔法詠唱の時間が稼ぎたいのなら自分が囮になる道もあるだろう。


「嫌なヤツだな」


「あら、気付いた? 神様も酷よね。勇者としての資質はあるかもだけど、人としてはただただ残念なガキよ」


「そういうと、勇者としては強いのか?」


「どうかなぁ……ただ勇者しか使えない魔法とか魔法を込めて戦う魔法剣とか使えるけど」


「不満なの?」


「ユウト、敬語。打ち首にするわよ。不満というか……私も含めての話、大賢者も勇者も上級魔法しか使えないの。神々の加護で」


「何か問題でも?」


「魔法の消費が激しいの。だから何発も打てない。言い換えれば、強敵相手には強いけど、それ程でもない相手には過剰過ぎる火力なのよ。戦士職のドワーフは一撃は重いけど、持久戦向きじゃないし――」


 見たところ、見渡す限りまだ1体のワイバーンを倒した形跡がない。今まで何やってたんだ?


「ユウト。言っとくけど、一瞬しか使えないからね。全部は無理よ。残りはあなたに任せます。もし逃げるなら……動けなくなった私をかついで逃げなさい」


 そう言って大聖女は魔法の詠唱を唱えだした。


『我を守護する数多あまたの神よ、我は汝の代行者。顕現けんげんせよ、特攻性能強化‼』


 すると大聖女の前身は赤黒い禍々まがまがしい光に一瞬で包まれた。


「あっ‼ 大聖女! ズルいぞ‼」


 勇者リピトールはなんとも情けない声で苦情を上げた。どうやら大聖女が自身にした状態強化を自分に掛けて欲しかったらしい。


 しかし、大聖女からしたら恐らく残り少ない魔力をたくす相手ではなかったのだろう。


 肉体強化をした大聖女はまさに鬼神。


 公園中央で立ち往生する戦士職のドワーフの盾を踏み台にし、近くの石像を足蹴に空高く舞い上がり大斧で眼前のワイバーンを叩き落とした。


 そして遠心力を利用し、振りまわした大斧を近くにいた別のワイバーンの頭部を砕いた。


 落下するワイバーンの背に飛び乗り、再び跳躍し大空に羽ばたくとまた新たなワイバーンがそのミスリルの大斧の餌食になった。


 しかし――


(ここまでですね……)


 三体ものワイバーンを瞬く間に地獄に追いやったものの、大聖女の特攻効果は切れた。


 そして大聖女の奮戦も、公園の上空を覆わんばかりに飛び交うワイバーンの撃退には遠かった。


(特攻性能強化の効力が……切れる)


 大聖女の体は空中で弧を描き、上昇を終えた体は落下に転じた。頭から真っ逆さまに地面に舞い落ちる大聖女目掛け数体のワイバーンが群がる。


 強化後の副作用で身動きひとつ取れない彼女は飛竜の敵ではなかった。


(無様ね……たかがワイバーンごときに)


 わが身の不幸を呪うように大聖女は唇を真一文字に閉じた。


 □□□次回投稿は夜18:02です□□□


 □□□作者より□□□


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