第4話 馬小屋に何か御用ですか?

 翌朝。大聖女の部屋。


 若いシスターに朝の身支度の手伝いをされる前に、彼女は新しい黒い布で目と耳を覆い隠す。この黒い布は特別な呪符がされた布。彼女の瞳は見え過ぎる。


 そして耳は聞こえざるものを聞いてしまう。


 だから彼女は片時も離さず呪符された布で目と耳を覆わなければ、信じられない程の声を彼女は拾ってしまう。それが例え心の声だったとしても。


 大聖女は軽い溜息をついて愛用のミスリルの大斧を手に自室を出た。身震いしそうな寒い朝だった。


 ***


 ガタガタと震えながらラピスを抱いたまま朝を迎えた。底冷えする朝だった。絶え間なく薪を燃やしていたが、寒いものは寒い。


 いや、燃やしてなかったら朝を迎えることは出来なかっただろう。


「何をしているのですか、あなたは。こんなところで。あなたのいた世界では真冬でも外で寝るのですか?」


 顔を上げるまでもない。このさげすんだ声は大聖女しかいない。この声を聞いたということは、何とか夜を越せたらしい。


 明け方あたり、もうダメだなぁと思うくらい凍てついた朝だった。


 毛布にくるまったラピスはスヤスヤと寝息を立てていた。よほど寒いのだろう。寝たまま俺にしがみついていた。


 寝顔にやされる。


「これは大聖女さま。馬小屋に何か御用ですか」


 もちろん嫌味たっぷりで言い放った。こっちは寒さと空腹で死にかけたのだ。


「馬小屋に用はないです。あなたに用があるの。寝床を用意すると言ったではないですか。なぜこんな冬空に野宿みたいなマネを。馬鹿なのですか?」


 心底あきれたみたいな顔をするので、本当にあきれてるのはこっちだと分からせる必要がある。


「どこぞの衛兵が、竜狩りの俺と竜人族ドラゴニュートは馬小屋で寝ろと言ってたが。ちなみにろくな食事も与えられてない」


「なぜ言わないのです」


「誰に? 大聖女さまがどちらにおられるか、さっぱり知りませんので。危うく死にかけましたが」


 キリッと奥歯が鳴った。俺の嫌味に腹を立てたのかと思いきや、別のものを呼び昨夜の衛兵を連れてこらせた。大聖女の手に握られた大斧が不気味に光る。


「ユウト。あなたに馬小屋で寝るよう指示したのはこの者ですか?」


 連れてこられた大男の衛兵は昨晩と打って変わってこじんまりと縮こまっていた。どうやら大聖女さまの権力は相当なものらしい。


 いや片時も離さないその大斧が原因か。衛兵は震えながらも俺をにらみつける。そういう態度なら俺にも考えがある。


「そうですね、あと硬いパン1つをふたりで分け合って食べました。彼にとっては俺達ごとき? それで十分だったのでしょう」


 更に嫌味たっぷりで言いつけてやった。我ながら小者臭がプンプンするが、こっちは凍死寸前まで追い込まれたんだ。これくらいはやり返す。


「あなた。自分が何をしたか理解してるの。竜狩りの者が勇者パーティに同行するのはこの国では子供でも知ってることです。竜狩りの者は死に絶え、ようやくユウトを召喚出来たというのに、あなたは危うく殺しかけた。これは我が国、我が教会に対する反抗と取りますが?」


「お言葉ですが大聖女様! 殺すなんて……第一、竜人族の子供を建物に入れて竜にでもなったら……」


「その時にはユウトがいます。いい訳ですか……反省の意思がないようですね」


 そう呟いた大聖女は他の衛兵数名を呼び命じた。


「この愚か者の首を討ちます。押さえなさい」


 えっ……大聖女さま。冗談ですよねって、アレよアレよと打首の準備が始まってるけど……本気か⁉ 大聖女は軽く咳払いして大斧を振りかぶった。


「大聖女さま。確かにこいつは気に入らんが殺すまでもないだろ?」


「何を言ってるのです。もしあなたがこんなつまらない理由で死んでいたら、この男の一族は全員打首でした。あなたに感謝すべきです」


 なんだろ。ちょこちょこさげすまないといられない病なのか、大聖女さま。しぶといってなんだ? 気のせいか少し残念がってるか?


 そんなことを考えてる内に衛兵の男は岩に首を押さえつけられ、あとは大斧を振り下ろすだけのところまできていた。


「提案なんだけど、大聖女さま。ここはその……百叩きくらいにしてやったらどうだろう。その打首とかだと大聖女さまの名前にも傷がつかないか?」 


「わたくしの……」


 大聖女さまの動きが止まる。世間の評価は気になるらしい。


「仕方ありません。慈悲深いわたくしがユウトの言葉を入れましょう。この者を百叩きにしなさい」


 衛兵の男は軽く悲鳴を上げた。いや、打首より何倍もいいと思うが……仕方ない。


「心やさしい大聖女さま。流石に百叩きとなると死にかねません。死なせては大聖女さまの名前に傷が……ここは10回ほどにしてやってはどうですか?」


「甘くない? められますよ」


「大聖女さまのご高名が広がりますかと」


「あなた、意外と使えるわね。わかったわ。心やさしいわたくしが、打首のところ棒たたき10回で手を打ちましょう」


「棒だけに?」


 俺のダジャレに大聖女さまは奥歯をキリッと鳴らした。気が短い聖職者だ。


「おもしろいですわね、あなたも10回どうかしら?」


「遠慮します」


「そう? それは残念。どうかしら、わたくしこれから朝食を取ります。その水竜ブルードラゴンと共にご一緒しませんか?」


「いえ、せっかくですが」


 俺は断った。薄々感じていたが大聖女はここでは相当な大物。余所者でどうもこの国で迫害されてた竜狩りの俺が、馴れ馴れしくするのを嫌うやつらが居そうだ。


 うまくしないと面倒に巻き込まれる。


 俺一人じゃない。ラピスが居るんだ。うまく立ち回らないと。


 □□□次回投稿は本日深夜0:02です□□□


 □□□作者よりのお願い□□□

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「次回投稿が楽しみ!」

「大聖女様にさげすまれたい!」

「それでもユウト優しい!」


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