第3話 凍死しそうです。

「竜狩りの者ユウト。確かに第一の竜の試練を克服したと認めましょう。水竜その子はユウト、あなたに託しましょう。勇者リピトールに同行し第二の竜の試練に挑みなさい。なに、あなたの力なら簡単な試練です。いえ、試練とも呼べないでしょう。出発にはまだ日があります。行動の自由を許しましょう」


 教皇様は愛想のいい笑顔を残し、その場を去った。


 相変わらずの視線で大聖女さまは俺とラピスを見る。見下した視線で。まぁ、目元は黒い布で覆われて見えないんだけど。


「寝床を用意させます。そこを使いなさい。いいですか、その竜人族ドラゴニュートを逃がさないように」


竜人族ドラゴニュート?」


「知らないのですね。封印は解けるのに。いいでしょ、竜人族ドラゴニュートとは長く生きた竜が、竜狩りに服従を誓い封印を解かれた姿、とのことです。くわしくは知りません。その娘に聞くのですね」


 そう言い残し大聖女さまはその場を後にした。


 俺は衛兵のひとりに粗末な毛布2枚とカチカチのパン。


 水の入ったボトルを渡され馬小屋で寝るように言われた。


「この子もか? 冬だぞ。せめてこの子だけは建物の中で寝かせてくれ、びしょびしょなんだ」


 俺は苦情を言った。


 この寒空で幼女を外で寝かせるなんて正気じゃない。


「ぜいたくを言うな。そいつは竜人族ドラゴニュートの子だぞ、建物内で暴れたらどうする! 馬小屋には火鉢がある。寒けりゃ火をおこせばいい」


「じゃあ、最低でもこの子に服を与えるべきだ!」


「生意気を言うな! 竜狩り風情が! 教皇様のお気に入りか知らんが、調子に乗りやがって!」


 俺は大柄な衛兵に突き飛ばされて、冬の馬小屋に追いやられた。


 よくわからんが、この世界では竜狩りの者は何らかの差別を受けているのだろうか。


 死に絶えていると言ってた。なにか迫害を受けてるのだろう。


 いや、そんなことは今はいい。それよりもラピスだ。


 ラピスを見るとさっきからカタカタと震えている。


 抱きかかえ暖める。着ているのは俺が着ていた粗末な上着だけだ。


 俺はもう一枚。薄手だが汚れたシャツをラピスに着せ頭からすっぽり毛布を被せた。


 ないよりはマシだろう。


 手足の指先が氷のように冷たい。


 俺はハァハァとラピスの指先に息を吹きかけるが、一瞬温もるだけですぐに指先は冷たくなってしまう。


 このままじゃダメだ。俺はさっきの横柄な衛兵の言葉を思い出していた。


 確か馬小屋に火鉢があると言っていたが……これか。


 火鉢というが薄っぺらい鉄の桶だ。


 桶の底には燃えカスになったまきの残骸が残っていた。


 あとは薪だが……俺は周囲を見渡した。


 幸いにも近くの軒下に薪は積んであった。火種は警備用の灯りとして置かれている焚き火から頂くとしよう。


 これでひとまずはラピスの凍えた体を温める事が出来そうだ。


 俺は火のついた薪を火鉢に移し、馬小屋にあった乾いてそうな藁を乗せ、火力が上がったことを確認して取ってきていた薪を足した。


 火は立ちどころに勢いを増し、真っ暗だった馬小屋が少し明るくなった。


「ラピス。おいで。体を温めよう。火に近づきすぎると危ないからな」


「うん。わかった〜〜旦那様」

 ニッコリとした笑顔。体は冷え切っているが不思議なことにひとりじゃないというだけで力がわく。


 ましてや相手は守ってあげないといけないくらいの幼女。そう思えば今更ながらさっきの衛兵の態度に腹が立つ。


 戻って一発二発ぶっ飛ばしてやりたいところだが、ラピスから目を離して火傷でもさせたら大変だ。


 火鉢の前に座りあぐらをかく。そのあぐらの上にラピスを座らせると、にへらと笑う。まだあぐらに収まるくらい小さい。


 頭を撫で、髪に頬ずりしてみる。サラッとした柔らかい髪。子供特有の柔らかい髪質。そう言えば足のケガ。


 水竜ブルードラゴンの時、刺さったままの剣を抜いたんだった。


「ラピス。足に剣が刺さってたろ? 見せてみろ」


「うんとね、旦那様。ありがと、でも治したよ? 旦那様が竜狩りの者の長剣抜いてくれたでしょ? 竜狩りの者の装備は竜に特別な力があるの。だから自分では抜けないの」


「それで刺さったままだったんだ……でも、一応見せてみろ」


 そう言うとラピスは俺のあぐらの上で、ぴーんと足を延ばして見せてくれた。確かにその場所にはほんの少しのかさぶたが残されてるだけだった。


 治癒魔法が使えるのか? 聞こうとしたら――


『ぐぅ〜〜ぅぅぅっ……』


「これは! ち、違うの、旦那様! これはその……」


 空腹でお腹が鳴ったことをラピスは慌てて取りつくろう。これくらいの子でも恥じらいがあるんだ。逆に微笑ほほえましい。


 そういえばさっきの衛兵からカチカチのパンをひとつと水の入った容器を渡されていた。


「旦那様。それなに?」


「パンだ。ちょっと待ってろ。切ってやるから……ん……硬い……ちぎれん……」


 俺は全身の力を込めてようやくパンを一掴みちぎった。それをラピスに渡したものの……


「ダメか? 硬すぎるよなぁ」


 ハムハムと口に入れるものの、まるで木の皮を口に含んでいる感じだ。幼女のあごでめるはずがない。


「少し焼いてみるか……」


 ラピスの口に含んだパンを出させて俺が噛んでみるが、表現出来ないくらい硬い。食料とは思えない硬さだ。


 別のパンを棒に刺しあぶってみたが、パンは一向に柔らかくならない。水にひたしても同じだ。そのクセいい匂いだけはするから――


『ぐぅ〜〜ぅぅぅっ……』


 ラピスのお腹はこうなる。仕方ない衛生的にどうかと思うが、俺がんだ物を与える以外ないだろう。


「待ってろ。俺が噛んで柔らかくしてやる。この際汚いとかぜいたく言ってられんからなぁ……」


「旦那様が噛んだの汚くないよ」


 そう言って噛んで柔らかくしたパンを指先に出し、ラピスは俺の手を持ち指ごと口に運んだ。


 幼女の柔らかい舌が指先に当たる。一口食べ終える度にラピスはにっこりとしてくれた。嫌じゃなさそうで安心した。


 俺達は長い時間かけてその硬いだけのパンを食べた。意外にも味はいい。なんか親になった気分だ。早すぎるかもだけど完全に情がわいている。


 ***


(あったかい……)


 あんなに冷たかった足と手を旦那様が温めてくれた。硬いパン。竜の時なら平気だったのに今は無理。噛めない。この体は幼い。力も弱いし、寒さにも弱い。


 でも旦那様がモグモグして食べさせてくれた……


(かぁ~~っ‼ 旦那様がモグモグしたパン……うれしい)


 旦那様の体、すっごくあったかい。服も着せてくれた。旦那様がまんしてる。寒いのがまんしてる。やさしい。旦那様は誰よりもやさしい。


 早くお嫁さんになりたい。旦那様のお嫁さん……大きくなって……


 すぅすぅ……大好き……やっと一人じゃなくなった……もう、さみしくない。


 □□□次回投稿は夜20:02です□□□


 □□□作者よりのお願い□□□

 読み進めていただきありがとうございます!


「次回投稿が楽しみ!」

「ラピスちゃん可愛すぎ!」

「主人公優しい!」


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