第2話 舞い降りたお嫁さん。
ここはロナーヌ王国教皇庁のあるブルメテ郊外。
「なにこれ……」
屋外に連れ出された俺はなんか小山に近い青い竜とご対面していた。
大きさ的には……さっき倒したドレイクなんかの比じゃない。もう、5階建てのビルだ。
【ユウト。これは
ちょ、説明を求めてないのに竜狩りの装備が説明を始めた。
いや、これが仮に
もう、マシンガンでも無理だろ。
ミサイルとか戦車を用意してくれないと。
それとひとつ言っておきたい。
水属性の攻撃を得意とする時点で、性格は温厚じゃない。
あっ、でも一応聞いてみよう。
こういうドラゴンがこの世界にはいるんだよ、と見せてくれただけかも知れない。
いわゆる見学なのでは。
「ユウト。この
大聖女はこともなげに言う。
仕方ないここは竜狩りの装備に相談しよう。きっと何とかしてくれるだろ。
【残念ながら今のユウトのレベルと、私の装備レベルでは不可能です】
あれ、早々にさじを投げられた。どうしたもんか……
竜狩りの装備の情報通り温厚な性格みたいで、
ここは観察して弱点はないか……ん?
全身青く染め上がったドラゴンだったが、後ろ足の一部が赤く腫れていた。
見てみると長剣が刺さったままだ。それと半透明の鎖で足が
さっきから頭で響く女の子の声は……この竜?
俺はおっかなびっくりと近づいて
すると……
(痛い……痛い……)
そんな声が鱗を通して伝わってくる。さっきから直接頭に伝わって来ていた女の子の声だ。
「君はさっきから話しかけてきていた女の子?」
(うん、そうだよ……痛いの、竜狩りの剣がすごく……焼けるように痛いの!)
「竜狩りの……えっと、この剣のことか?」
(うん、痛い……痛い……お願い抜いて……)
「わかった。抜いてやるから暴れるなよ」
(ありがと。そっとね……)
なんか弱々しい声でたのまれた。竜とはいえかわいそうだ。
確かに温厚なのかも知れない。
俺は
(痛っ!)
ふん‼ 俺はこれ以上痛まないように一気に抜いた。
「もう抜けた。すぐに痛くなくなる」
(ホント? ありがと……ありがとう)
俺は錆びた長剣を持って大聖女の元に戻った。
「これが痛かったらしい」
「そう。それで?」
「それでって言われても。これで暴れないんじゃないかって」
「元々
「抵抗しなくても?」
「しなくても! そういう儀式なの! 伝承なの! さぁ、早く討伐するか、服従させるかしないと、勇者パーティがいつまでも出発出来ないじゃない」
どうやら、何が何でも
その理由がくわしく知らされないまま、ただ儀式だからと。俺は渋々短剣を抜いた。
(何するの? それ、痛いやつ……)
周りを見渡してみたが、俺以外には聞こえてないようだ。
「なぁ、竜狩りの装備。どうしたらいい? こんな短剣で討伐とか無理だろ。痛い思いさせるだけだし……出来たら何もしたくない」
【竜狩りの装備は竜には超有効です。試しに切ってみては?】
(嫌っ! 痛いの怖い……)
そらそうだ。
竜狩りの装備のヤツ意外と鬼畜だなぁ……しかし、このままだと、俺もタダじゃ済まない。
最悪打ち首とかもある。あの大聖女の手の大斧は、俺の首を落とすためのものじゃないのか?
俺は大聖女ではなく、教皇様をチラ見した。
慈悲深い顔してるけど、こういうのはわからん。大聖女がアレなのに教皇様が心底優しいとかないだろ。
「
(逃げたいけど逃げられない。この『
「この足の鎖か?」
「すごい、この鎖見えるんだ!」
「竜狩りの装備。この鎖何とか出来るか?」
【私は竜狩りの装備。竜に掛けられた封印や呪いは概ね解けます!】
なんかハナタカな感じで言われたけど、どうやればいいかって話。
(切ってみて……おねがい)
再び周りを見渡すが、誰も何も気付いてない。
どう考えてもこんなデカいドラゴンに勝てるわけないし、打ち首も勘弁。
あの大聖女ならやりかねないし。
ここは
いや、待てよ……確か大聖女が言ったのは討伐か服従だった。
「大聖女さま。聞きたいんだけど」
「答えてもいいけど、敬語を使いなさい。このぶしつけ者、何なの?」
「服従って命令を聞かせるってことだろ? 俺の言う通りになったら
大聖女はあきれた顔して教皇様に確認した。
「いいわよ」
「――だそうだ、
(行く! 行きたい‼ 一緒がいい! あのねラピス……私ラピス)
「そうか、ラピス。せっかく知り合ったんだ。仲よくしないか?」
(仲よく? 仲よくってお嫁さんにしてくれるってこと?)
「お嫁さん? お前、女なのか」
ん……声は女の子だけど、女なんだ。
ここは打ち首よりいいか。断って暴れられては元も子もない。
そもそも人と竜が結婚出来るのだろうか。でも嘘はよくない。
ここは誤解がないようクギを刺そう。
「将来。もしふたりが仲良くなって、お互いが結婚したいって思ったら、とかでいいなら」
(うん! いい! 私ユウトさん……旦那様がお嫁さんにしたくなるくらいかわいくなる!)
うん。会話だけなら大聖女より数百倍かわいい。しかし相手は5階建てのビル相当。
寝返りひとつで圧死する。
「竜狩りの装備。確認だけど、この短剣をブルー……ラピスの『鎖の封印』解けるんだろうな?」
【はい! たぶん!】
おい。さっきは確か、
急に自信がなくなったのか?
まぁ、いい。服従させるにも鎖の封印を解かないと。
俺は何食わぬ顔して
『鎖の封印』は想像していたよりもろく、簡単にくだけ散った。
すると――
5階建てくらいある
(助けて……旦那様!)
「うわっ! ちょ! ちょっと‼」
しかし、それも一瞬のことだ。一気に浮力を失い真っ逆さまに頭から落ちてきた。
無我夢中。
俺は濁流を物ともせずに押し分け押し分け、少女の落下地点に辿り着いた。
両手を広げ抱きかかえた。
「あははっ! だ……旦那様だ。私、ラピス。頑張って旦那様のお嫁さんになる」
手に抱えたらラピスは意外と軽い。
腕の中を見てみれば少女と言うより幼女だ。
俺は自分が着ていた粗末な服を裸のラピスに着せた。
幼女の頭から真っ白で、羊のような角が青い髪の間からのぞいていた。
俺は何となくその白い角をなでなですると、ラピスはうれしそうな顔して目を閉じた。
俺はこうして
その……将来のお嫁さんとして。
***
一瞬の出来事に息を飲む。
「見えたか? ドワーフの戦士」
「わからん、短剣で攻撃したようだが……大賢者は?」
「見えぬ……しかし、まさか貴様ほどの剛の者でも見えぬ剣速ということか……確かにドレイクの時の矢も、もしかしたら見えなかっただけで、十数本打ち込んだのやも知れぬ」
勇者一行は順調に勘違いを重ねつつあった。
□□□次回投稿は夜19:02です□□□
□□□作者よりのお願い□□□
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「次回投稿が楽しみ!」
「ラピスちゃんかわいい!」
「主人公頑張れ!」
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