異世界でドラゴニュートとスローライフ。~~俺、ドラゴン相手なら無敵です。

アサガキタ

第1話 仮の試練。


(お願い! 助けて! 痛い……痛いの)


 召喚された時のこと。俺は女の子の声で気がついた。


 一瞬途絶えていた意識。確か俺はビル火災に巻き込まれて……夢か?


 疲れのあまり寝てしまっていたのか?


 それも仕方ない。俺の主な栄養源はカフェインとエナジードリンク。こんなもんだけで生きてる方が奇跡だ。


 何だ? 首が重い。いや、首だけじゃない。腕も……いや全身が鉛のように重い。


 膝が異常に痛いコレじゃまるで膝まづいてるみたいじゃ……膝まづいてるのか? なんで? 


 しかもさっきからずっと脳に直接話し掛けてくるような声がする。


(痛い…痛いの……お願い、お願い誰か竜狩りの剣を抜いて! 痛いの……)


 女の子の声。

 混乱する俺にまた別の聞き覚えのない女の声が命令する。


「意識がハッキリしたのなら教皇様にご挨拶を」


「き、教皇……さま?」


 ぼんやりした視界に入ってきたのは、白の薄いベールのような生地を幾重にも重ねた服の女性。


 ブロンドの髪の間には黒い布で目と耳が覆われていた。こんなので見えるのだろうか。


 ブロンドヘア。大聖堂のステンドグラスのような神々しさがあるものの、語尾が荒い。イラついてる。俺のせいか? 手には不似合いなまでの大斧が握られていた。


「大聖女。仕方あるまいよ、急な召喚なのだから」


「しかし、教皇様。召喚に応じた以上は心構えがあってしかるべきかと」


 召喚に応じた……ビル火災に巻き込まれて「焼け死ぬのは嫌だ」と思ったのが、応じたというなら強引だ。


 まぁ、応じた感じになってないと死んでたわけか。


「貴方の名前は?」


 教皇と呼ばれた初老の紳士が穏やかな表情そのままの声で俺に話し掛ける。


「セト・ユ……ユウトですが」


 そう、俺はセト・ユウト二十歳だ。この春コンピューター系の専門学校を卒業。


 クラウド関係の会社に就職したのだが。入社早々残業に次ぐ残業。こんなにブラックな会社とは思わなかった。


 そんなある日ビル火災に巻き込まれて……こうなったのだけど。


「名前を思い出せているのであれば早速試練を受けてもらいます。我がロナーヌ王国では竜狩りの適応者が必要なのです! 時間を掛ける余裕がないのです。あなたが適応者でなければ次の者を召喚しなければ」


 眼差しの穏やかな教皇を差し置き、大聖女と呼ばれた一見美人の女性がまくし立てる。


 ため息の視線の先には……


「気付きましたか。そうです、もう今朝から五名の竜狩り候補を召喚したものの、にも合格出来ない……我ら勇者パーティはそのせいで足止めを食らっているというのに……」


 教皇の間とでも呼ぼうか、石で作られた、そのだだっ広い部屋の隅には血まみれの男女の……死体だろう。


 横たわって、まるで邪魔になるので仮に除けてたみたいに重ね置きされている。


 死者に対しての敬意なんてない。


 小山のように積まれている。まさか、大聖女って人が手に持つその大斧で⁉ 


 いや、それにしては大斧は血に汚れてない。


 夢なら覚めて欲しいが、鼻を突く血の匂いはどうやら現実。


 召喚ということは異世界転移だとして、ここで仮の試練を拒んだらどうなる? 


 やっぱり燃え盛るビルの中に逆戻りか?


 それなら仮の試練に挑む以外ない。夢だったら夢でいい。夢じゃない時のことを考えて行動しないと。


 俺は順応したいわけじゃないが、情報を集めた。手には手かせ。


 足にはない。首には手と同じような、よく囚人がされているような鉄の輪っかをされている。


「ユウトとやら……仮の試練に挑むか、それとも前にいた世界に戻るか」


 教皇様は一応の選択肢を用意してくれてるようだが、焼け死ぬか血まみれの死体になるかを選べと言っているだけ。


「挑みます」


 焼け死ぬのはゴメンだ。


 血まみれも嫌だけど、少なくともこっちのほうが苦しみは一瞬だし、生き残る可能性がある。


 何と戦うか知らないが。


 ははっ、来世に期待ってところか。嫌になる。


 そんな俺の思いなんて知らずに大聖女と呼ばれた女はあごで木製のテーブルに置かれた武器を指した。


「この中から好きなのを装備しなさい。竜狩り候補なら装備出来るはず」


 装備は一見して、戦士、レンジャー、魔法使いみたいな分類のようだ。


 戦士装備は大盾に大剣。腕力に自信はないし、魔法がいきなり使えるなんて奇跡に掛けるわけにいかない。だいたい。魔法が使えなきゃただの杖だ。


 無難なところレンジャー装備一式を手にした。小型の盾に短剣が収納出来るタイプ。


 弓も一式に入っていた。


 手かせを外された腕に盾を装備すると、頭の中で【竜狩りの盾レベル1】と響いた。


 短剣を手に取っても同じだ。


 短剣を1度盾に戻し弓を装備する。不思議なことに使い方がわかる。


 感心してる場合じゃない。仮の試練に失敗したら、あと数分後には部屋のすみに積まれた死体の仲間入りなんだから、慎重に立ち振る舞わないと。


 俺は弓に矢をつかえ準備を整えると大聖女に頷いた。性格は最悪そうだが、端正な顔立ちをしている。


 すると、合図された衛兵が鉄製の柵を上げた。中から目を不気味に光らせたオオトカゲが現れた。


 すると装備は【これはドレイクです。竜の下級種です】と教えてくれた。


 全長どれくらいだろ、5メートルくらいか。たぶん、モンスターの中では中くらいだろ。


 初見なんでわからない。この5メートル級のそのドレイクを何とかしろと?


 馬鹿じゃないのか? 


 マシンガンでもない限り人にどうにか出来る相手じゃない。


 そら、死体の山が出来る。


 俺はあの死体の山の1番上に積まれる覚悟で弓を構えた。その時――


【やや左……そう、今です! 矢を放ってください】そんな声が聞こえた。


 疑っても仕方ない。俺は天の声に従い矢を放った。


 素人の俺でもわかるくらいゆっくりとした矢はおまけ程度にドレイクの首元に「ちょん」と当たる程度。


 ダメだこりゃ。そんなため息が俺だけではなく、大聖女からももれた。


 慌てて次の矢を引こうとしたその時だ。


 あろうことかドレイクは大きな悲鳴をあげてその場に倒れ込み、息絶え絶え。


 そして数秒後には呼吸が止まった。


 いや、ないだろ……山なりのヘボい矢が「ちょん」と触れた程度だ。


 あり得ない。


 かすり傷も負ってないだろ。死んだふりをして襲い掛かってくるのではと、身構えるが空振り。


 見かねた大聖女が兵士にドレイクの死亡を確認させた。


「うそでしょ、ドレイクをたった一矢で倒すなんて! 衛兵なら10人掛かりで数時間は掛かるでしょう……な、汝を竜狩りと認めましょう……」


 大聖女の声は上ずってた。


 信じられないという顔をしてるが、俺もだ。そんな俺に再び天の声が聞こえた。


【おめでとうございます。ユウトさま。私の声を受け入れたあなたを竜狩りと認めましょう。私は竜狩りの装備】


 えっ……やっぱり装備が話し掛けてるの?


 いや、女神さまとかじゃなくて? とりあえず生き残った俺に竜狩りの装備は、念を押す。


【ユウトさま。これからが本番ですから】


 そうだ、確か『仮の試練』と言っていた。仮ということは、本当の試練があるってことだよなぁ……


 大聖女は納得がいかないのか、しきりと小首をかしげてわざわざドレイクをその大斧でツンツンした。


 納得はいかないが死んでるのを確認したようだ。


 ***

「どう見る、大賢者殿?」


 教皇の間の一角で勇者パーティの面々がこそこそ話をしている。


 ロナーヌ王国では魔王討伐には必ず竜狩りの者が同行することになっていた。


 ロナーヌ王国には国王が存在するものの、勇者による魔王討伐作戦に関しては国王ではなく、教皇にその采配が任されていた。


 だから教皇が「竜狩りの者を同行させよ」と命じたのなら、勇者でも逆らえない。


「勇者リピトール。見たところ、竜狩りの者の適正はあるようですなぁ。しかし――」


「しかし?」


「例え第一、第二の試練を越えたとしても、はそこでお払い箱。そこまで行けば第三の試練は我らだけで克服できるでしょう。それでよろしいのでは? それまでは便利使いをお勧めする」


「ははっ! 相変わらず大賢者は腹黒いのぅ!」


 同じく勇者パーティで戦士職をしているドワーフが豪快に笑い飛ばした。


 そんなこととは知らず、ユウトには第一の試練「水竜ブルードラゴン」討伐が待っていた。


 □□□次回投稿は本日夕方18:02です□□□


 ***しばらくは連続投稿します***


 □□□作者よりのお願い□□□


 読み進めていただきありがとうございます!


「次回投稿が楽しみ!」


「助けを求める謎の女の子に期待!」


「大聖女さまをデレさせて!」


「主人公頑張れ!」


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