2023-11-20の短編(デスゲームでルール破って死ぬ奴)

あq

第1話

 酒を飲んで気がつくと知らない林に居た。


 目の前には海が広がっていて、それほど綺麗ではなかった。立ち上がろうとしたら、傍にある木の根に手錠で繋がれていることに気づいた。

 自分を冷静に保つことに必死になり、漏れ出そうになった声を喉元で無理に潰した。

 それから数十分放置されている間に、叫び声が何度か違う方角から聞こえた。自分より冷静でなさそうな人の声が、私を落ち着かせてくれた。少なくとも数人、私と同じような状態の人間がいる。デスゲームという単語が、何度追いやっても思考の中心に回帰する。もう数十分経つ。遠くにサイレンが見えた。確信に変わる。多分まだ意識がない人間がいて、その人が目覚めるのを待っている状態だ。

 それなら、黙っていた方がいい。ひとまず、叫ぶことの期待値は低い。叫ぶやつはきっと馬鹿だし、そいつらと徒党を組む意味は薄い。第一、チームを組んで最終的に全員が幸福な結末を迎えることは想像しにくい。それでは開催側が満足しないだろうからだ。デスゲームを開催するようなやつがテレビやYouTubeを流していれば得られるような感動で満足するわけがない。生きていると実感出来る人間が、目の前で生きていない状態になること。これを求めている。多分。

 さて今僕に出来る最大限のことは、なるべく生きていないっぽい仕草を取ることだ。デスゲームは生中継にせよ録画にせよ(きっと生中継だとは思う。きっと「生」の文字がウケるから)、開催側が全員を同時に把握することはできないと思う。だとすると、なるべく僕の視聴率を下げることが大事だ。こいつを見ててもあんま面白くないなと思われた方がいい。そうすれば、開催側にとって全く楽しくないだろうと想像できるのが僕の精神衛生上よいというのもあるし、また体力も消耗せず、そしてデスゲームお決まりの追加ルールで僕中心にメタが回らないので結果的に僕が得をすると思う。操作していて楽しいキャラクターにならないことが、僕がこれから生きる上で絶対に必要なことだ。多分、楽しくないからと言ってルールを捻じ曲げて僕を殺すことはしないと思う。デスゲームをやるような連中はきっと自分を崇高なゲームマスターだと信じきっているから、ルールが不用意に欠けることには慎重になるはずだ。推測に推測を重ねているが、仕方ない。デスゲームかどうかも確かじゃないんだから。


 ここでアナウンスが入った。「全員の意識が戻ったことを確認しました。」「皆様総勢45名には、これから殺し合いをしてもらいます。」「皆さん混乱していらっしゃると思いますが、ご安心ください。」「複雑なルールはございません。」「皆様お手元の袋には、水と簡単な食料、そして装備品が入ってございます。」「それらを利用して、最後に生き残った方のみが、この島を脱出することができるというものです。」「また、この島を無理に脱出しようとした方、ルールに従わなかった方に関しましては、強制的にゲーム終了の措置を取らせていただきます。」「12時間後、皆様が少々落ち着いた頃合いを見計らいまして、ルールを追加致すことがございます。」「では、開錠いたしますので、ご自由にご移動ください。」「ご参考までに、この島は周囲をぐるっと回るのに三十分程かかる大きさでございます。」

 驚くほど予想通りだった。多分、予想通りのシナリオで予想通りにあがくひとをみるのは楽しいんだろうなと思った。

 袋にはカロリーメイトもどきと水、そして銃が入っていた。銃には懇切丁寧に説明書が付属していて、僕は十五分くらいかけて弾をすぐ撃てる状態にできた。

 でも僕はいつまでも立ち上がれずにいた。立ち上がるモチベーションが全く湧かなかった。どこかに脱出口があるわけでもなく、人を探すメリットも無い。なにより動くのが本当に怖い。僕は木陰に12時間じっとしていた。物音は何度かしたが、聞いていないふりをしてずっと黙っていた。


 「皆様、追加のアナウンスを申し上げます。」「現在の生存人数は37名でございます。」「只今から24時間後、最も殺人数の多かった方には、島から脱出する権利が与えられます。」「では。」


 困った。追加ルールが来ても動く理由が生まれなかった。もう8人も死んでるんだから、2人ぐらい殺したやつがいても不思議じゃない。そいつは躍起になって殺人数を稼ごうとするだろうし、追いつけないと考えた方がいい。何より、人を殺せるやつがそこそこいると分かった以上、まともな精神状態で僕は移動できない。

 そこから24時間が経った。僕は変わらず同じ木陰にいた。

 

 「皆様、24時間が経過いたしました。殺人数4の方が2人いらっしゃいましたので、この方々を島から脱出させます。」「これより10分間、その場を動かないでください。」


 「さて皆様、現在の生存人数は28名でございます。」「只今より24時間後、殺人数0の方々においては、強制的にゲーム終了の措置を取らせていただきます。」


 いよいよ来た。僕が動き出さなければならない時が。だというのに、僕はいつまでも動かなかった。時計がないせいでいつになったら動き出すという絶対的な方針を立てられなかったし、向こうからやってきてくれるのであればそちらの方が有利だという考えも足枷になった。怖い。死にたくない。できれば殺したくもない。簡単なことも考えられなくなった。


 「さて、皆様、24時間が経過いたしました。」「これより、殺人数0の方1名に、ゲーム終了の措置を取らせていただきます。」



 僕は、意識を失って気がつくといつもの万年床に寝ていた。枕元には手紙があった。「貴方はゲームルールに従わなかったため、強制的にゲームを終了致しました。契約不履行により、返金手続きをお願いいたします。下記日時までに、指定の銀行口座に指定の金額をお振り込みください。」


「返金…?ああ。」

 僕は持ち帰った銃で頭を撃ち抜いた。

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2023-11-20の短編(デスゲームでルール破って死ぬ奴) あq @etoooooe

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