第2話 flat white
[flat white]
「気づいてるかもしれないけど、僕の恋愛対象は男性なんだ。」
「驚き」と「やっぱり」が交錯してうまく反応らしい反応は出来なかった。鹿野さんは俺に構わず話を続けた。
「すごく好きになった人がいて、二年位付き合ったんだけど…ちょうど池田くんと同じ年の頃にね。」
「でもその人結婚しちゃってね、フラれちゃったんだ。」そこまで話すと手の中で弄んでいたカップをローテーブルに置いた。「振られちゃった」と言う時に小さな溜めがあり、まだ何処か認めたくない気持ちがある様に感じた。
「それから誰とも付き合ってないし、誰かとそういう関係になる事が怖くて避けて来た」
鹿野さんは前を見据えたまま自分に言い聞かせるように話している。
「恋愛経験が少なかったから勝手に運命だって、ずっと一緒にいられるって思い込んでた。バカだよね。」
俯いた鹿野さんの表情は髪に隠れてよく見えなかった。
「傍に置いてくれればそれで良かったのに」
そう言うとそれ切り黙ってしまった。
「その人のことをまだ好きだって言うのも、簡単に忘れられないのも分かりました。でも、それでも俺はあなたのことが好きだし、あなたと一緒に居たいと思ってる。鹿野さんの事大切にします。絶対傷つけたりしない、ずっとあなたを守ります。」と一気に言うと鹿野さんは手のひらで顔を覆った。泣いているのか、顔を見られたくないのか分からなかったが細い肩が小さく震えていた。
鹿野さんがどんな気持ちで打ち明けてくれたのかと思うとやりきれなくなって、顔を覆っている左手をぐいと引くとソファに押し倒してキスをした。
鹿野さんは俺が掴んだ手首を振り解こうとしたのか少し力を入れたが、逃げないように覆いかぶさると観念したのかそれ以上は抵抗しなかった。
一度唇を離し、顔を隠している髪を梳いて濡れた睫毛や額にキスを落とすと覚悟を決めたようにそっと目を閉じた。
「貴方が欲しいです」と言うと俺の背中に腕を回して抱き寄せた。
肩越しに鹿野さんが口を開く
「僕、池田くんに依存するかも」
「いっぱい甘えてください」
「束縛するかも」
「我儘たくさん言ってください」
「メンタル弱いし」
「俺がそばに居ます」
「池田くん」
「はい」
「…ありがとう」
最後は喉から絞り出すような声だった。
繋いだ手を離したらもう二度と手に入らない気がして、絡めた左手の指に力を込めて深いキスをした。
自分からこんなに激しく誰かを求めるのは初めてだった。力ずくでも貴方を自分のものにしてしまいたいと伝えたかった。舌を絡めて根元を擦ると顎を上げて喉を鳴らすので、そのまま舌先を強く吸うと身体を硬くして身震いをした。ビクンと震える細い身体を力いっぱい抱くと快感が伝わって中心が熱くなった。唾液を少しずつ口移しで流し込むと「んん、」と喘いで口を離す、蕩けた目で呼吸を整える鹿野さんはとても扇情的だった。
一度ソファから起き上がり、体制を整えてもう一度キスをした。服に手を滑り込ませると
「ごめん、これ以上は止まれなくなるから」と言って俺の胸に手を突いた。
「すいません俺、我慢出来なくて」
鹿野さんはそれには答えずソファの下に降りて俺の脚の間に膝をついてボトムに手を伸ばした。前を寛げると下着越しにきつく勃起したペニスに舌を這わせていった。
布越しに舌の熱と唾液のしっとりした感触で蒸れていくのが分かった。腰が自然に動きそうな程気持ちよくてTシャツを噛んでないと声を上げてしまいそうだった。
下着に手を掛け、痛いほどに固くなったものをそっと取り出すと、鹿野さんの掌から逃げて自分の腹に当たった。
鹿野さんは俺を見ることもなく直に舌を這わせていく。裏筋を舐め上げ、咥えたままザラリとした舌先で尿道を刺激した。フェラをされるのは初めてでは無い。ワンナイトであっても偶に舐めたいと言われしてもらうこともあった。だがテクニックも然ることながら知っている相手、しかも今告白した相手にされていることが更なる興奮材料となりあっという間に果てそうだった。
「あ、ンンッ出る…っ」と言ったと同時に勢いよく射精をした。殆どを鹿野さんの顔と髪にに掛けてしまい慌てて拭くものをさがしたが、鹿野さんはお構い無しにペニスに付いた精液を綺麗に舐めとるとそっと下着の中にに仕舞い「シャワー浴びてくるね」と部屋を出ていった。
一人で部屋に残されると徐々に冷静になった。
「これってOKってことでいいんだよな…」とさっきまでのキスの感触を思い出すかのように自分の唇に触れた。
「もう遅いから泊まっていく?」とシャワーを終えた鹿野さんが戻って来た。いいんですか?と聞くと「普通に寝るだけね」と釘を刺された。がっついてるように思われたなと反省し、「はい。そうします」としおらしく言うと「素直でよろしい」と笑った。
シャワーを浴びて鹿野さんから借りたスウェットを着るとふわりと良い香りがした。
身長一七〇センチ程で痩せ型の鹿野さんはメンズのSサイズが丁度良いらしく、一八四センチで普段XLサイズの俺でもこれなら着れそうだと言って、普段着ているというオーバーサイズのスウェットを貸してくれた。割と良いブランドのものでこれで寝るのはさすがにと遠慮したが「でも着ないと裸だよ」と言われ、大人しく借りることにした。
「悔しいなぁオーバーサイズなのにちょうどいいんだから」と言って袖口を軽く引っ張った。その仕草につい「可愛い」と言うと「ちょ、年上を揶揄わないの」と慌てて手を離したので思わず掴んでしまう。
指を絡めて引き寄せ、唇を重ねる。鹿野さんが少し仰け反る体勢になり、バランスを崩してベッドに倒れ込んだ。そのまま舌でそっと歯列をなぞり、わざと音を立てながら舌を絡めて深いキスをすると「ん、ん」と反応し始めた。
Tシャツの中に手を滑り込ませると
「池田くん、だめ…ストップ」
「何でですか」
「ごめんね。久しぶりだから少し、まだ怖くて」
鹿野さんを想う気持ちより自分の欲が空回っていて恥ずかしかった。彼に振られたあと、この人ならすぐに新しい恋人も出来ただろうに、六年も独りで抱えた深く癒えない傷を俺は全然見ようとしていなかった。
「無神経な事してすいません」
「池田くんが謝ることじゃないよ、僕こそごめんね」
「するのが嫌じゃないのはわかって欲しい。ただちょっとだけ準備が必要なんだ」
「準備…」と言うと
「そっちじゃなくて心の準備ね」とクスリと笑った。
ベッドに並んで横になると鹿野さんはリモコンでライトを消した。
気持ちと同様に高まった下半身の熱を逃がそうとじっとしてると隣から規則正しい寝息が聞こえて来る。「人の気も知らねぇで」と綺麗な寝顔を見て恨めしげに呟いた。
翌朝目を覚ますと鹿野さんはベッドにいなかった。手を伸ばすと微かにシーツに残る体温とシャンプーの香りがして心地よかった。
キッチンからのいい匂いに誘われリビングに行くと、ベーコンエッグとレタスをちぎったものにトーストを用意してくれていた。
向かい合って朝食を食べる。
「池田君、コーヒーをもう少しどう?」
「鹿野さん、ひとつお願いがあって」と言うと首を傾げる。
「二人の時は苗字じゃなくて『陸』って呼んで欲しいなって」と言うと鹿野さんはきょとんとした顔で俺を見た。
「昨日の今日で浮かれすぎですか?」
「あ、いやそれもそうだなって思って。」と言って小さな声で「りく?」と呼んだ。
「史緒さん」
「え、僕は今まで通りで良くない?」と言って耳まで赤くして照れるので「史緒かわいい」と言って手を伸ばして頬に触れた。
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