魔法少女マジカル☆ベリーCDN 番外編 ~女王陛下の華麗なる日常~
エイプリルフールだと言いながらマジカル☆ベリーの更新を続け、五作目。
思いっきり間に合わず、エイプリルフール当日を逃したものの、それは別に大きな問題であるとは思っていません。
何故ならマジカル☆ベリーはエイプリルフールに投稿される死ぬほど下らない番外編などではなく、マジカル☆ベリーが投稿された日こそがエイプリルフール。
そう信じることにしたからです。
読者の皆様も(後略
「クレシェンタ様、朝でございますよ」
早朝の五時半、下僕の赤毛が起床する頃、妖精女王クレシェンタは目を覚ます。
赤毛の枕と姉の枕の間、その中央に置かれた天蓋付きベッドが女王たるクレシェンタの寝具。
児童に大人気のミニチュア、ミミちゃんシリーズの中でも多くの大人を泣かせた最高級ミニチュアルーム、プリンセスミミちゃんロイヤルルームセット(定価3万9800円)付属の本格的な作りをした小さなベッドであった。
「まだねますわ……」
「むぅ……だらしがない子ですね」
「ふふ、行きましょうかクリシェ様」
ミニチュアのような天蓋付きのベッドを持ち上げた赤毛により、静かに静かに運ばれながら、そのゆりかごのような振動に再び意識を手放していく。
運ばれた先は一階のリビング――の棚にあるプリンセスミミちゃんロイヤルルーム。
天蓋付きベッドと共にそこへ優しく置かれ、白い布を被せられる。
やんわりと光が遮られ、夢と現のまどろみの時間。
今日の朝食はどうしましょうか、などという会話や、調理の音。
キッチンから聞こえるそうした音を聞きながら浅い眠りに。
妖精の中でも女王たるクレシェンタ。
多くの職務に忙殺され、そして下僕達の無能に手を焼かされ、休まることのない日々である。
疲労を癒やすため、その眠りはあまりに深く、その覚醒は段階的に、緩やかなものでなければならない。
ベッドの中で抱き枕を抱えつつ、徐々に徐々に意識を引き上げながら、その内側では非常に複雑な起床のための準備処理が行なわれていた。
「にゅるるん、ちょっとシチューの匂いを嗅がせてきてください」
にゅるる、と体をくねらせた触手はスープの器を手に取ると、プリンセスミミちゃんロイヤルルームへ近づき、その布を僅かに開き、スープをそこへ。
漂う芳醇かつクリーミーな香り。
茸とミルクをふんだんに使ったシチューである。
きゅるる、と条件反射で腹の音を響かせるは女王陛下。
当然である。
海の底より深い眠りは、甚大なる疲労の回復のためのもの。
補填のために消費されるエネルギーは、その小さな体からは想像出来ぬほどに大きい。
端的に言えばそれは飢餓であった。
妖精達の女王たるクレシェンタの克己心あればこそ耐えられる苦痛と言えよう。
体を眠りで癒やすため、意識せぬようにしていた飢餓の苦しみ。
それを突如味わわされたクレシェンタの眉間には皺が刻まれ、しかし目覚めない。
冷静なる判断の結果、断腸の思いで眠りによる体の回復を優先させたのだ。
再び布が下ろされた後も、プリンセスミミちゃんロイヤルルームの内側を漂うのは、濃厚なシチューから放たれた芳醇な香り。
眠りとシチュー。
神をも超える叡智を宿すとされるその頭では天秤が揺れていた。
生命の危機、いや、その存在価値を思えば深宇宙を含めた世界の命運を左右するような、大いなる選択の天秤である。
天秤はゆらんゆらんと眠りに傾き、シチューに傾き、どちらを示すこともなく。
「ベリー、この桃すっごく甘いですっ」
「まぁ、本当ですね。クリシェ様の目利きが大当たりでした」
「えへへ……」
――しかし、響いた言葉は桃である。
そんな言葉が響いた途端に、天秤の一方が地に叩き付けられる。
上質なシチューに、甘美な桃のデザート。
眠りの時間を多少削ったとしても、それは恐らく、力を使い果たしたクレシェンタの肉体を十分に癒してくれるだろう。
意識は覚醒し、パタリ、パタリ、と羽を揺らして待った。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日はシチューですっ」
「ふふ、美味しそうね」
食卓へと食器が並ぶ音が響き、少しして金髪がいつものように現れる。
だが、クレシェンタは動かない。
高貴なる女王がパタパタと食事を求めて食卓に向かうなどあり得ないことであった。
「にゅるるん」
姉の声が響き、再び捲られる布。
その珍妙な一つ目でこちらを見つめるのは、ペットの触手である。
しばしの間見つめ合い、にゅるるんは恭しく頭(全て頭である)を垂れる――ような仕草。
それから触手でそっとクレシェンタの体を持ち上げた。
どうにも卑猥な見た目の生き物であるが、ペットにしては出来が良く、態度は悪くない。
立場を分かっていない金髪や、頭がお花畑でお馬鹿な姉に比べればまだマシ。
あえて下等生物より下等なこの触手に文句を言う気も起きない。
とはいえ、高貴なる女王を手ずからではなく、このようなペットに運ばせるのはいかがなものかと遠目に赤毛の下僕を睨む。
「おはようございます、クレシェンタ様」
「マジカルベリー。あなたも偉くなったものですわね。わたくしをペットに運ばせるだなんて」
「あなたはいつも何様なのよ……」
「妖精界の、ひいてはこの世界で最も高貴な女王ですわ」
赤毛はくすくすと笑うばかりである。
触手は椅子に乗るとその卑猥な触手を伸ばして、棚の上からテーブルの上に、お料理ミミちゃんリストランテ(定価1万9800円)に付属する食器類をミニチュアテーブルに並べ、そして椅子を並べる前に問いかけるように目を向ける。
視線で着席した赤毛の膨らみを示すと、恭しく頭(全て頭である)を垂れるような仕草。
割烹着を身につけた赤毛の無駄に大きな贅肉の上へとクレシェンタを座らせ、ミニチュアテーブルをクレシェンタの前に持ち上げ、維持する。
「それ、視界がうるさいからやめて欲しいんだけれど」
赤毛の正面に座った不遜な金髪が呆れたように言って、クレシェンタは睨み付ける。
「わたくしがどこで食べるかはわたくしが決めますの」
「……あのね」
「クレシェンタは本当に甘えんぼうですね」
ベリーがくすくす笑うと指を振る。
シチューやパン、サラダにフルーツ盛りがミニチュア食器に突如現れ、虚空からオレンジジュースが。
「まぁまぁ、それじゃあ頂きましょうか」
「あなたは本当に、この羽虫を甘やかしすぎよ」
セレネは言いつつ手を合わせ、頂きます、と口にする。
腕を組むクレシェンタの前に伸びてきたのは一本の触手。
触手の先端はにちにちと小さな無数の触手に分裂し、中央には小さな眼球。
ミニチュアのナイフとスプーンとフォークを器用に操り始める。
修行の末体得したにゅるるんの触手捌きは見事であった。
まさに彼は一流のテンタクルサーヴァント。
女王陛下に二本の手を使って食事をする気がないと見るや速やかであった。
そしてその奉仕を受けるクレシェンタもやはり、妖精界の女王であり世界の主。
下等生物の中でも下等、多くが醜悪、卑猥と語る触手生物であっても差別などせず、その姿ではなく真摯な心を認め、その奉仕を受け入れる。
顔の前で無数の触手が蠢く様に嫌悪の情も抱かない。
それも当然である。
クレシェンタの立場からすればこの世の全ては等しく下等。
妖精もどきの赤毛達も卑猥な触手であっても、天の高みから見落とせば違いなどない。
次は何をお食べになりますか、と言わんばかりにスプーンやフォークを彷徨わせる触手に一々視線で指示を出してやりながらも怒りはなかった。
赤毛であれば必要もないやり取りであるが、所詮はペットである。
当然赤毛にも劣ることは仕方ないことであり、宇宙よりも広く、深い心はそのようなことでわざわざ怒りを発したりはしない。
エネルギーの補充に専念し、もぐもぐごっくんと口を動かし、また開く。
「えへへ、にゅるるんは偉い子ですね」
にゅるるんはにゅるる、と体をくねらせる。
当然、持ち上げるミニチュアテーブルをぴくりとも動かすことなく。
全ての触手が身命を賭し奉仕すべき偉大なる女王陛下(と教えられている)に対し、食事の世話という高度な仕事を任せられる彼の姿に、ダイニングに集った彼の家族や友人達も誇らしげであった。
彼らもスプーンと触手を器用に使い、笑顔(のように見える)でシチューと焼かれたパンを味わっており、彼の妻は甲斐甲斐しく、そんな夫に手ずから食事を。
にゅるるんは照れたように、子供や友人達もそんな彼らの姿を微笑ましく見ていた。
「どうでしょう、お嬢さま」
「おいしいわ。……食事はね」
女王の対面にあるセレネは、胸元で触手をわらわらとさせながら平然と食事を進めるベリーの方を見ないように、目を伏せながら食事を進める。
真っ当で常識的な感性をしているのが自分だけであることを嘆いていたが、そういう彼女も既にペットの触手に囲まれながら食事をする光景に何の違和感も抱いていなかった。
『魔法少女マジカル☆ベリーCDN 番外編 ~女王陛下の華麗なる日常~』
その日は土曜日。
家長であるボーガンは海外出張中であり、ワンボックスカーのハンドルを握るのはベリーであった。
助手席では満腹になり眠るクレシェンタを膝に乗せたクリシェが、今日のバーベキューのためにあれを買おう、これを作ろうなどと楽しそうに。
後部座席では、
「ちょっとにゅるるんっ、何かいっぱい来たわよ」
などと携帯ゲーム機で遊ぶセレネと洗面器に入ったにゅるるん。
にゅるるん達も人間社会に慣れ、無意識に体液を分泌させるという粗相はしなくなったものの、やはり何かに熱中して興奮するとぬめぬめとさせてしまうことがあった。
ゲームをするときは必ず洗面器の中で、というのがクリシュタンド家における触手のルールである。
魔法少女達を操りながら宇宙の深淵に潜む『根源の触手』の謀略を食い止めるという筋書きのアクションゲームであり、これは難易度調整用のテストプレイ。
先日公開された映画、『劇場版魔法少女マジカル☆ベリーCDN ~退魔師☆シェルナ 時空を超えし驚異~』におけるマジカルベリー達の活躍を元に作られたこのゲーム内では、劇場版だけでは分からない細かな背景を深掘りしていく。
プレイしている、というより演者にされていたセレネが思わず、「そんな設定なのね」と感心するほど綿密に作り込まれた綿密な設定の数々。
魔法少女マジカル☆ベリー(無印)をリアルタイムで視聴していたファン層を含め、大きなお友達をターゲットにした、重厚な世界観と爽快アクション。
魔法少女大戦から数年、若干ゲームにハマってしまった一般ゲーマーセレネも、フェアリーソフトのテストプレイを担当し、配信活動も行なうプロゲーマーにゅるるんも楽しめる操作性のゲームとして仕上がっていた。
にゅるるん達正義の触手と、『根源の触手』が使役する悪の触手。
彼ら触手の神を悪とし、近似種であり同族の触手生物やアメーバ達と戦うというのは少し触手苦しいものの、あくまでゲームはゲームである。
『マジカルセレネ』の窮地にテクニカルなキャラ『にゅるるん』を鮮やかに操り、夥しい悪の触手達を一掃していく。
「……接近戦主体なのにマジカルセレネが明らかに弱い気がするんだけれど」
にゅるるんは若干の同意を見せつつもセレネのスマホを鮮やかに操作する。
『マジカルセレネは攻撃力も機動力も耐久力もありますが、遠距離攻撃がほとんど出来ない分、このゲームではすごく扱いが難しそうです。一撃離脱戦法が良さそうですね。』
「んー、一撃離脱……」
困った様子のセレネに触手を伸ばしてゲーム機を受け取り、そして自分のゲーム機を手渡す。
そしてにゅるにゅるとてとてとキャラを操作し先へ進み、再び現れるのは触手集団。
「ちょ、にゅるるんっ」
『マジカルセレネ』を触手集団に勢いよく突っ込ませると剣を薙ぎ払うように近接コンボ。
コンボ終わりの触手攻撃に対し、マジカルシールドを発動。
光の盾で攻撃をはじき返すと触手達は仰け反り状態になり、そこへ大技、グレートマジカルソードを放つ。
正面にあった触手は光の大剣に千切れ飛び、左右に残った触手から囲まれる前にマジカルウイングで後方跳躍。
お手本のような実に鮮やかな動きであった。
『こんな感じです。』
「……あなた上手いわよね、本当。あ、結構『にゅるるん』面白いかも」
びしばしにゅるんと縦横無尽に触手を振るい、敵を薙ぎ倒す『にゅるるん』に笑みを浮かべて残った敵を殲滅し、再びゲーム機を交換。
少しして到着するのはドールショップ『キルザラン』であった。
セレネとにゅるるんを車に残し、入店するのはクリシェとベリー、そして一匹。
着きましたよ、と頬を撫でられた女王、クレシェンタはクリシェの手の中でぼんやりしながら身を起こす。
棚に並べられているのは無数の人形とミニチュア達であった。
市販のものから一点物まで、着せ替え用のドレスなども多く並べられ、知る人ぞ知る校外の専門店である。
「これはこれは有賀様。ようこそいらっしゃいました」
入り口のカウンターにいたのは中年の太った店主、ロランドである。
人形を愛好する真摯であり、クリシェの手に乗ったクレシェンタを眺め、笑顔を作る。
――彼にはクレシェンタが人形に見えていた。
「こんにちは、注文していた商品の受け取りに来たのですが……」
「ええ、ええ。用意しております。ご確認を」
美貌の二人以上に、彼が感動するのはクリシェの手に乗るクレシェンタである。
容姿に恵まれず、それに対する強いコンプレックスで他人とのコミュニケーションを上手く取れなかったそんな彼が、唯一心を許したのは物言わぬ人形達であった。
小遣いで人形を買い、アルバイトで稼いだ金を注ぎ込み。
そうした趣味を嫌った両親から逃げるように実家を出て、必死の思いで金を貯め、ネットショップを開いて店を構えて今では一国一城の主。
人形のためのミニチュアを作り、衣装を作り、人形を愛でる生活。
そして同好の士が集うドールショップ『キルザラン』は、彼にとっての夢の国であった。
彼が差し出したのは小さなティーセットと三点のワンピースドレス。
そして下着や寝間着であった。
きちんとクレシェンタの『寸法』に合わせて丁寧に作られており、特徴的な妖精のような羽を阻害しないよう、背中は大きく開かれている。
「いかがでしょう、クレシェンタ様」
「……まぁまぁですわね」
「ふふ、良かったです」
などと、人形に話しかけるベリーの姿を微笑ましく見守るロランド。
物言わぬはずの人形に恥じらうことなく話しかけるベリーに対し、軽蔑もしないどころか同好の士として心からの喜びを感じていた。
真摯な心で接すれば、人形は応え、答えるもの。
ベリーの持つ一点物の人形クレシェンタは随分高貴な設定で、妖精の女王らしい。
まぁまぁですわね、と少し偉そうな言葉をベリーに返す様は、彼にとって幻聴ではなかったし、この場においてはそれが真実。
人形遊びなどではなく、この場において『彼女』は生きているのであった。
精緻に作り上げられた美貌、生きているかのような紫の瞳と白い肌。
赤に煌めく金の髪はさらさらと、例えようもない光沢を帯びていた。
ハウスに保管もせず、こうして平気で外に連れ出しながら、どれほど手入れすればこれほどまでの美しさに辿り着けるのか。
この和装の美女が普段からどのように『彼女』を扱っているかを思えば、彼には感動さえある。
「ありがとうございます、女王陛下。お気に召されたならば何よりでございます」
「いつもながら悪くない仕事ですわね。これに驕らず研鑽なさいまし」
「……は」
この人形は生きているのだ、とロランドは思う。
偉そうな――いや、女王としての高貴な声で、ロランドのことを褒めてくれている。
少なくともロランドにはそう聞こえ、心よりの敬意と共に深々と頭を下げた。
『彼女』は人形などではなく、本当に妖精達の女王なのであった。
この場においてそれが真実であり、ロランドはこの女王陛下の御用商人であり、仕立屋。
『彼女』が不機嫌そうな顔で店内を見渡し、羽を動かす様さえも幻視出来た。
出会いはある日、送られてきた一通のメール。
人形の下着や衣装を作って欲しいという依頼のメールであった。
丁寧な文章と不足ない寸法の情報と写真。
金額も良く、よく手入れされた美しい人形であったことから、ロランドは二つ返事で了解し、是非身につけた後に写真を送って欲しいとお願いした。
自分の作った衣装を身につけた『彼女』の活き活きとした表情や自然なポーズ。
三度目の注文の後、よろしければ是非店に連れて来て欲しい、とお願いした。
そうして連れてきてくれた本物の『彼女』を目にした時の感動は忘れられない。
人前で恥じらうことなく『クレシェンタ様』に話しかけて接するベリーの姿、姉のように説教をしたりするクリシェの姿。
人形はどこまで行っても人形などと、心のどこかで諦めていた己が恥ずかしくなるほど。
そこに人格と魂が宿っているのだと、心から信じ、願うことで、人形は人形でなくなるのだと気付かされ、人形達への接し方を改めさせられた。
『彼女』との出会いから、物作りに対する考え方も変わり、他の客からも感動しました、と深い感謝を示すメールが届くことも多くなり。
まさにそれは、彼女達や『女王陛下』のおかげ。
「それからこれはサービスですが、クレシェンタ様の衣装ダンスも作ってみまして……」
そうしてカウンターの下から丹念に作った小さな衣装ダンスを。
ハンガーも含めて、実際の人間が使うものとなるべく変わらぬように注意してある。
この赤毛の美女には本当に深いこだわりがあるのだろう。
『彼女』のために特注するミニチュアも小道具も、『彼女が使うもの』としての実用性を求めていた。
人形遊びをするのではなく、『彼女』という一人の小さな妖精のための家具。
寝具もそう。
プリンセスミミちゃんロイヤルルームセットに付属するベッドなど高品質なものだが、それを更に改良し、『彼女』の好みに合わせたりしているようで、その情熱は本物。
「まぁ……よろしいのですか?」
「ええ、是非……これからも贔屓にして頂ければ、それで十分です」
「……ありがとうございます。クレシェンタ様、素敵な衣装箪笥ですよ」
そうしてクリシェから『彼女』を受け取り、衣装箪笥の前に。
クレシェンタは箪笥を開けて中を見ながら、頷く。
「普段使いには悪くなさそうですわね。マジカルベリー、他のものも見たいですわ」
「はい。ロランド様、店内も少し見て回っても」
「もちろん、心ゆくまで……」
笑顔で応じ、店内を二人と一匹で歩く彼女達を眺める。
きっと本物の妖精なのだろう。
パタパタと飛び回り、ロランドの作ったミニチュアや衣装を眺めるクレシェンタの姿を幻視して、ふと、目元を拭う。
あまりに美しい絆への感動が、涙に変わっている。
歳を取ると涙脆くなってはいけない、とロランドは静かに笑った。
そうしていくつか小物を買い、心清らかな中年ロランドのドールショップ『キルザラン』を後にすると、食材などを買い出し帰宅。
午後からは退魔師シェルナ――極東第七支部とのバーベキューである。
メインの肉は彼女達が持ってくるということで、こちらで用意するのは海鮮や茸。
その下処理をしながら、あっさり系のスープやデザートを用意。
肉や海鮮に使うソースをいくつも作る。
クリシェとベリーがそうした作業に従事する間、セレネはにゅるるん達と共に椅子やテーブル、コンロの用意。
当然、そうなればクレシェンタの仕事は下僕達の監視である。
適当な触手の一匹にゅるりんの頭の上に乗りながら、あれが足りない、これが足りない。
ソースやスープの味見をしながらと大忙しである。
「にゅるりん、次はマジカルセレネのところですわ」
にゅるるんよりも一回り小さな触手、にゅるりんはにゅるり、と体をくねらせ走り回る。
下僕とは言え、クレシェンタ直属の下僕が宴を催すのだ。
そこに不備などあれば主人たるクレシェンタの名誉に関わる。
万が一などあってはならぬことであった。
一流の中の一流、いや、クレシェンタは一流などという枠組みを超えた気高き女王である。
身につけるものから食事一つ、下僕まで、全てが一流でなければ己の恥。
女王としての責任があると、その一言であらゆる労苦を厭わない。
女王とは単に立場を示すものではない。
生き様を含めた言葉であった。
迷える無能な下僕達を導き照らす太陽であり、夜闇を照らす月でもある。
いかに敬意の薄い下等生物であっても、深い度量で受け入れ、許す。
それが妖精女王クレシェンタというもの。
触手の上から羽ばたき、不遜な金髪の肩の上に飛び乗る。
庭にはコンロが三つ置かれ、大きなテーブルが一つと、小さなテーブルが四つ。
DIYで作ったセレネの椅子も含め、折りたたみ椅子が無造作にいくつも並べられていた。
ひとまず最低限の形は出来ているようだ、と頷きつつ、金髪に声を掛ける。
「マジカルセレネ、早く火をつけてはどうなのかしら?」
「あなたが見たいだけでしょ。お子様って火が好きよね」
「お子様じゃありませんわ」
「シェルナ先輩達が来てからの方がいいでしょ。そういうのもバーベキューの楽しみなの」
「ちゃんとあなたの用意した炭に火がつくか、女王として確認しておく必要がありますの」
「うるさいわね……まぁ一つくらい別にいいかしら」
セレネは嘆息しながら着火器『ボッとまん』でコンロの中の点火剤に着火。
それが炎になり、炭を赤熱させていく様を眺める。
セレネはうちわでパタパタと風を送り、
「もっと下から上に風を送るのですわ」
「はいはい……」
クレシェンタの言葉に嘆息する。
徐々に強くなっていく光と熱をじっと眺めるクレシェンタを手に乗せて、コンロに近づけてやると、小さな体は前のめりに。
そんな姿を見ながらセレネは苦笑する。
小学生の頃は父やベリーが火を起こす様をこんな風に見ていただろうか。
風を送る度に赤熱し輝く炭の光は不思議と心が惹かれてしまう。
生意気で偉そうでだらしがなく、強欲で品性が下劣なろくでもない羽虫であるが、こうして黙っていれば見てくれ通りに可愛らしい。
「あら、もう火を起こしているんですか?」
「クレシェンタがうるさいからね」
セレネの言葉にくすくす笑いながら、クリシェはベリーとテーブルに食材などを並べはじめ、少しして訪れるのはシェルナ一行であった。
「こんにちは」
「お邪魔します」
などと、現れるのは四人。
シェルナにレド、トーバにフェニの四人組。
向かいにある一軒家、極東第七支部に所属する退魔師達であった。
男二人は肩に随分大きなクーラーボックスを担ぎ、女二人は二人で一つ。
「こんにちは、シェルナ先輩」
「こんにちは。元気にしてた? ベリーさんやクリシェちゃんとはよく会ってるけれど、セレネは何だか久しぶりな感じ」
「そ、そうですわね、確かにそんな感じな気が……」
三日ほど前にマジカルセレネとして戦ったばかりである。
普段は羽虫の女王のせいで振り回されるシェルナがあまりに不憫なのと、どうしようもない気まずさからなるべく顔を合わないようにしていた。
セレネはベリーやクリシェと異なり、至極真っ当な常識人である。
セレネが高校一年の頃、二年生として編入。
色々探りを入れられていた頃は多少苦しかったのだが、当時は一応味方同士。
途中からはごく普通のご近所さん、生徒会の先輩後輩として仲良くなり、生徒会長となったシェルナの下で風紀委員として、翌年入ってきたクリシェと共に平和な学生生活を送っていた。
しかしやはり、ベリーの立ち位置が魔王に変わり、退魔師シェルナシリーズが始まってからというもの、申し訳なさと気まずさが膨れあがってしまっている。
シェルナはすごく真面目で非常に純粋な人なのだった。
羽虫のろくでもないこの番組のことをさっさと暴露して、謝りたくて堪らないのだが、本気でマジカルベリーを助けようと必死なシェルナが真実を知ったらと思うと、口に出せなくなってしまっている。
「クレシェンタもこんにちは。ふふ、今日も美人でかわいいね」
「当然すぎてお世辞にもなりませんわね」
頭を指で撫でられ、手の上の羽虫はふんぞり返って不機嫌そうに腕を組む。
シェルナ達にはピンクの小鳥のように見え、その声もぴよぴよぴっぴ、などと聞こえているらしいのだが、しかしこの羽虫の堂々とした態度は何なのかといつも思う。
足元でうねうねにゅるにゅると動き回るにゅるるん達も彼女達には紫色の犬に見えるそうで、実際の絵面とは大きくかけ離れていた。
もはやこの触手のペット達に対して嫌悪感も薄れ、愛着も湧き、時には可愛らしさすら感じているのだが、やはり意識的に視界から外さなければ食欲が減退する姿である。
いっそ自分にも犬に見えたならばどれほど良かったか。
触手の見た目で被害を被っているのが自分だけというのは理不尽である。
クリシェはともかくベリーももはや、触手が目の前で何をしていても気にならないらしく、己の常識的な感性を呪いたくなってしまう。
本当に大人しい小鳥、などと暢気に口にするシェルナを見ながら、いっそ早く気付いてくれないだろうかと胸が痛い。
「まぁ、美味しそうですね」
「ええ、変わりものですが、今回は結構ジビエ系も送ってもらって。ソーセージなんかも本格的なやつなんで、ベリーさん達にも喜んでもらえると。そっちのクーラーが和牛ですね」
「おぉ……クリシェ、このソーセージちょっと食べてみたいです……っ」
「よーし、任せろ。じゃ、そっちから焼いてやろうか」
「ふふ、ありがとうございます。軽くスープやおつまみは用意してますので、どうぞ」
「ありがとうございまっす! トーバ、フェニ、火つけようぜ」
などと、レドとクリシェ達が食材に盛り上がりつつ、コンロの火を起こし始める。
「あの二人の関係は難しいですよね。お互いがお互いに依存していて……けれど決して結ばれることはなさそうな悲恋ものというか」
「フェニはああいう悲しいの、ちょっと苦手かもです……」
「でも、結ばれずとも二人の心が同じ着地点に到ったなら、それも一つの愛の成就と言えるのかも知れません。全てが満たされなくても、それは幸せな関係なのかも」
「なるほど……」
新たに始まったドラマのシリーズについて話し合ったり、
「えへへ、こっちのソーセージもすっごくおいしいですっ」
「だろ。ハーブがめちゃくちゃいい感じで、肉が荒めなのがいいんだよ。トーバ、そっちのも焼いてくれよ」
「分かった。少しスパイシーだが、クリシェちゃん大丈夫か?」
「えーと……少しなら多分大丈夫かもです」
持って来た食材を食べ比べたり。
和やかなムードでバーベキューは進む。
時折時間を空けながら、一通り食材を食べ終え、腹も満たされ。
日が暮れて、紅茶を口にしながらデザートを食べる頃。
シェルナが少し余興に魔法を見せたいと口にした。
彼女達の空気が少し変わったことを感じて、セレネはベリーと目配せしつつ、それに応じ。
「わたし達は退魔……本当は、妖魔と呼ばれる怪物退治を仕事にしているんです」
シェルナが浮かべるのはいくつもの魔力の玉。
にゅるるん達は困惑した様子で、セレネはやはり、と気まずい顔。
腹が満たされ満足そうに、すうすうと寝息を立てるクリシェを膝に乗せていたベリーは、じっとそれを見つめる。
「こういう風に魔術を使って、人を脅かす魔を退ける……表の世界では知られていないだけで、実は大昔からある仕事なのですが」
「そんなお仕事があるんですね。……びっくりしました」
「……ええ。いつも良くして頂いてますから、正直に……隠し事なしに、ベリーさん達とは接したいなと思いまして」
「……マジカルベリー、分かってますわよね?」
眠るクリシェの頭に乗った羽虫が告げる。
数匹飛んでいたカメラマンの妖精がいつの間にか増えており、セレネは呆れた。
板挟みのベリーは胸が痛いのか――気まずそうな顔を取り繕いきれず、視線を左右に揺らし、口を開き掛け、
「その、シェルナ様――」
それを見たシェルナは首を振り、微笑んだ。
「いいんです。それはわたし達の事情……ベリーさん達にだからどうして欲しいとかではなくて、ただそれを知っておいてもらいたかっただけですから」
「知っておいて……」
「はい。この近辺ではそうした妖魔の問題が色々と起きてますから……もし何かあれば頼りにして欲しい、とただそれだけで」
シェルナは言いながらも、何かを確信した様子であった。
完全に正体がバレた気がする、とセレネはクレシェンタに目を向けるが、クレシェンタは腕を組み、それで良いと言わんばかりの余裕の顔である。
裏で察知していた可能性があった。
この羽虫の得意技は盗撮である。
「わたし達と同様、魔法少女という存在がこの地にはいます。簡単に言えば同業他社、みたいなイメージでしょうか。以前までは共通の大きな敵の前に、協力関係にあったのですが……けれど今は、敵対関係にあって」
迷うようにシェルナは胸に手を当てる。
フラッシュが焚かれるのを察知して、セレネは逃げ出したくなった。
シェルナはまさに主人公――魔法少女マジカル☆ベリー無印のベリーと同じく、心からベリー達のことを案じていた。
申し訳なさと罪悪感で胸が痛い。
「きっと、理由があるのだと思っています。その中心にいる魔法少女は、人知れず長年戦ってきた、そういう人で……すごく優しい人ですから。きっとわたし達には明かせない事情があり、それで望まぬ戦いを強いられているのだと」
「シェルナ様……」
「わたしはそんな魔法少女を……マジカルベリーを救いたい、そう思っています」
真っ直ぐ彼女はベリーを見つめ、ベリーは罪悪感でいよいよ弾け飛びそうな様子だった。
無数のフラッシュ、間違いなくここは名シーンとして放送される場面だろう。
セレネは今すぐ頭を下げたかった。
とはいえ、この壮大なドッキリは一生気付かない方が幸せなのではないかと思えてくる。
「ベリーさんに、それだけは知っておいて欲しくて。……すみません、こんな、訳の分からない話……」
「……、いえ」
「……こんなことを口にして、今更ですが……良ければ、これまで通り。ただの……少し変わった、ご近所さんとして付き合ってくれたなら嬉しいです」
少しして、はい、と頷くベリーに、ほっとした様子でシェルナもレド達を見る。
彼らも安堵したような笑みを浮かべていた。
それからしばらくして、シェルナ達は帰って行き、
「世界の平和のために、戦う宿命にある二人……しかし、マジカルベリーの本当の正体を知った退魔師シェルナは、もはや彼女を敵とは思えない。敵同士でありながらも、それを知った上でしかし、平和な日常を共に過ごすことを望み、徐々に手を取り合っていく……という筋書きなのですわ」
リビングにあるローテーブルの上。
今日購入したばかりのミニチュア玉座へとふんぞり返りながら羽虫は言った。
「あなたね……」
「ま、まぁ……少しだけ気持ちは楽になった気もしますけれど。明らかに疑われているのは分かってましたし、お茶をするときもすごく気まずかったと言いますか……」
「むしろ平気でお茶をできるだけ相当図太いわよ、あなたも。わたし気まずくて顔出せなかったんだから」
セレネとベリーの間に座り、そんな会話を聞きながら、クリシェは、ほへー、と何も考えていなさそうな顔である。
実際何も考えていなければ気にもしていないのだろう。
頬を引っ張ると、うぅ、と唸った。
「今後は日常シーンでも良い絵が撮れそうですわね。戦わなければならない理由は前にも言っていたとおり、宇宙触手の侵略に対抗するため。そして宇宙触手を封じるための時間稼ぎにその僕になった振りをしている、という設定。……にゅるるん達はマジカルベリー達の僕と見せかけた宇宙触手の監視役という設定ですわ」
にゅるるん達はにゅるる、とキビキビした動作で姿勢を正した。
「でも、宇宙触手の監視役としての責務と、マジカルベリー達への恩義で揺れ動き、マジカルベリー達の時間稼ぎを知りつつも黙っている……そういう微妙な立場ですの。他の触手にもきちんと周知しておいてくださいまし」
にゅるるんは真剣そうな目で敬礼(っぽく触手を動かしている)し、他の触手もそれに倣う。
セレネは嘆息した。
「クリシェの命を使えば宇宙触手を封印できるって設定ってことでいいの? さっきのゲームでそんな感じのナレーションがあったけれど」
「それがあなたやマジカルベリーが戦わなければならない理由なのですわ。おねえさまを救うために望まぬ戦いを強いられていますの」
「……実際望まぬ戦いを強いられているんだけれど。そう言えばすっかり忘れてたけれどこの子、力を使うと死ぬ設定だったわね」
クリシェがあまりに強すぎて面白くないからなどと、最初の方に付けた設定である。
正直もう戦いが大体お遊びになっていて、完全に忘れていた。
「あ……それとあのゲームの音声が入ってないところに声を入れてくださいまし。大体劇場版から流用しましたけれど」
「……そもそも勝手に流用しないでちょうだい。絶対嫌」
「どうしても嫌と仰るならわたくしとマジカルベリーが該当部分を喋る、という形でシーンを変えることになりますけれど……不憫ですわね。徹夜しながら何百時間も掛けて、一生懸命作ったシーン達を、演者の気分で作り直しにされる方達が……今頃休暇中ですのに」
「あ、あのね……」
最低の羽虫であった。
事後承諾で勝手に作り、文句を言えば関わったスタッフが可哀想などと良心に訴える。
この羽虫に逆らえず、奴隷の如く使われている彼らに非はないし、それを持ち出されるとセレネが弱いと知った上での言葉である。
「ま、まぁまぁ……わたしも一緒ですし、頑張りましょう。やってみたら楽しいですよ」
「あなたがそんなだからこうなってるの! この羽虫を甘やかしすぎよ全く」
「羽虫呼ばわりしないでくださいまし――す、スプレーは駄目ですわっ!」
そうした話し合いを終えた後は風呂へ。
不遜な金髪が風呂に入っている間、妖精達に指示を出し、その後に姉や赤毛と共に浴室へ。
赤毛にもたれかかる姉の手の中――その小さな湯船で一日の疲れを取る。
「今日は疲れましたわ……」
「……クレシェンタは別に何もしてない気がするのですが」
「おねえさま、体を使うばかりが労働ではありませんの。わたくしはおねえさまが些事に煩わされずにこちらで楽しくマジカルベリーとお料理出来るよう、日々頑張って頭を使っているのですわ」
「むぅ……」
姉は文句を言いたげであったが、しかし言葉が出てこなかったのか諦めた。
赤毛がくすくすと笑い、尋ねる。
「ふふ。湯加減はいかがですか」
「わるくないですわ……」
ぬるま湯に一日の疲れを溶け出させるように。
そうしている内に体は弛緩し、深い眠りの気配にうとうとと。
「ふぁ……クレシェンタ、まだ寝ちゃ駄目ですからね」
「わかってますわ、おねえさま……」
同じく眠そうな姉の声を聞きつつ、そろそろ上がりましょうかと赤毛の声。
タオルで丁寧に羽や体を拭われ、ドライヤーを当てられながら髪に櫛を。
食事の他、こうした手入れに関しては赤毛を評価してやっても良い、とクレシェンタは満足する。
そうして買ったばかりの寝間着を身につけさせると、リビングからプリンセスミミちゃんロイヤルルームのベッドを。
しかしまだ手に乗ったまま横たわり、そのまま。
赤毛の手の中はベッドとしても悪くなかった。
しばらくして二人がベッドに入ると、クレシェンタの上にもう一方の手が被せられる。
「おやすみなさいませ、クレシェンタ様」
そんな声を聞きながら、静かに静かに眠りの中へ。
再び手が開かれると、すぅすぅと寝息を立てた美しい妖精が一匹。
「本当甘えんぼうさんですね、クレシェンタは」
クリシェは言って、ベリーは笑い、彼女を起こさないようにそっと、小さなミニチュアベッドの中へ。
「えへへ、ベリー、お休みのちゅー」
言いながら、銀の髪の少女は口付け、抱きついて。
くすくすと、肩を揺らしてマジカルベリーは眠りについた。
――ひとときの安らぎ。しかし戦いの日々は続く。
「ま……待ちなさい。それじゃあだーくえなじーはこれじゃ封じ込められないってこと……?」
「ちょっと! マジカルセレネ、棒読みはやめてくださいまし。わざとやってますの?」
「う、うるさいわね! 何かすっごい恥ずかしいのよ! 声だけやるのが!」
「お嬢さま、頑張ってください」
「えへへ、クリシェも応援してますっ」
「イメージが大事ですよ。状況をイメージして……」
「出来るならやってるわよ! わたしは声優でもなければ女優でもないの!」
宇宙の深淵から来たる闇を打ち払うべく、
「マジカルセレネ、そこは右からですわ。ほら、また攻撃を食らって……カウンターシールドが遅すぎますの」
「タイミングがシビアすぎるの! 明らかにマジカルセレネだけ難しいでしょこれ」
「そうは思いませんけれど……わたくしやおねえさまが使えば、全キャラの中でも最速クリア出来るくらい性能は高くしてますもの。でもまぁ、ゲームが下手な人間のためにもう少し操作難易度は下げても良いかもしれませんわね」
「この……っ」
「にゅるるん、後で全キャラのプレイ所感を纏めて見せてくださいまし」
そうして今日も、魔法少女達は戦い続ける。
「マジカルセレネさんにわたし、憧れてるんですっ。さ、サインしてほしくて……っ」
「ちょっと、駄目ですわ。マジカルセレネのサインは無料じゃありませんの」
「え、ぁ……す、すみません」
「いいじゃない子供のお願いなんだし……はい、どうぞ」
「っ、ありがとうございます!」
「わたし達今日はお休みだから、あんまり言い触らさないようにね」
「は、はいっ」
ゲーム作りに握手会、休日でさえも、その使命のため。
「次シーズンの一話にするには勿体ないイベントでしたもの。マジカルベリーと退魔師シェルナの共闘を前面に出した劇場版をもう一つ挟みますわ」
「は、畏まりました。となると……見栄えがする少し大物の敵が欲しいですな」
「そうですわね。宇宙触手に協力してもらって、それらしい怪物を用意してもらいますわ。千切った触手は色んな形に変えて操れるらしいそうですもの」
「それならば。しかし、どうします? マジカルベリーは触手と敵対していると匂わせるか、それとも全く別の敵にするか」
「宇宙触手から触手の切れ端ではインパクトがないですもの。むしろ無関係な本物の妖魔っぽく作らせて、本気で戦わせた方が緊迫感も出るんじゃないかしら?」
「なるほど、ドッキリですな」
その裏で暗躍する影にも負けず、ただ、日々の平和を守るため。
「くっ!?」
「レド! フェニ、レドの手当を……!」
「は、はい……っ」
「シェルナ、一旦レドを連れて退避だ。俺達だけじゃ手に負えない!」
「でも……っ」
「いいから――」
「――もう諦めるんですか? 退魔師シェルナ」
「っ、マジカルベリー! それに、マジカルセレネも……!」
「ちょっと、マジカルベリー。本気で強そうよ、あれ」
「そのようです、全力で行きましょう。マジカルセレネ、少し時間を」
「分かった!」
「退魔師シェルナ、戦えますか?」
「……ええ!」
果たして、彼女達の戦いに終わりがあるのか。
「あなたね! 何がドッキリよ! 本気で死ぬかと思ったじゃない!」
「な、何しますの! スプレーは駄目ですわ!」
それを知る者はどこにもいない。
続かない。
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