天地開闢、悠久長路 二
――戸棚にはいくつもの小瓶が並び、中には茶葉が。
王城には紅茶の葉などを保管するために、専用の部屋がある。
「カレン様。お久しぶりです。顔自体は合わせておりましたが……」
王領を出て、内戦が終わり、そして再び王領に。
王族が寝泊まりに使う屋敷の一つにクリシュタンド家は移り住むことになった。
やはり当然ながら見知った顔は多く、知人と顔を合わせることもある。
丁度、紅茶の茶葉を取りに王城の倉庫へ来たところ。
そこにいたのはカレン=シュロッテ様。
栗毛の髪が可愛らしい、とても気さくな方である。
同じく侯爵家の生まれで、わたしよりも二年ほど前に王領へ。
わたしの指導係をしてもらい、同室ということもあってすぐに仲良くなり、王領で働いていた頃はペアで仕事をすることが多かった。
クリシュタンド家の使用人となり、王領に戻ってきてから、遠目には何度か互いに目を合わせていたものだが、こうしてまともに言葉を交わすのは随分と久しぶりのことである。
しかし、笑顔を浮かべるわたしとは真逆、
「いっやぁ……」
カレン様はわたしを見ると眉を顰めて、何とも微妙な顔をした。
それから額に手を当て嘆息する。
「久しぶり。……はぁ、あなたが女王陛下のお側で使用人だなんて、未だに信じられないわ。……行動力というのも恐ろしいものがあるわね」
「わたしも王領を出たときには、このようなことになるとは思っていなかったのですが……」
苦笑して、棚に背中を預けたカレン様に答える。
王城を出たのはアルガン様のお側で学びたい、という単純にそれだけの気持ちであったのだが、何の因果か波瀾万丈。
国は内戦になり、しかもクリシュタンドにその渦中――王女であるクレシェンタ様が身を寄せるという事態になり、わたし自身、中々驚きの連続であった。
「でも、こう……唖然とされる方ばかりで、少しこそばゆいですね」
「当たり前でしょ。誰だって唖然とするわよ。女王陛下の隣をドジっ子アーネが普通に歩いてるんだもの。最初に見た時には目が飛び出るかと思ったわ。二度見どころか七度は目を疑ったわよ」
「な、七度……」
「自分の運命と出会った、だとか訳の分からないこと言って、いきなり王領を出て行ったお馬鹿な子が、ちょっとしたら女王陛下の側付きになって帰って来るなんて一体誰が信じられるのよ」
カレン様はまたもや嘆息。
確かに仰る通りで否定も出来なかった。
「げ、厳密には側付きという訳でも……」
「違うの?」
「クリシュタンド家は使用人も三人だけですから、役割上そうなることが多いですが……使用人としての格や能力、女王陛下からのご信頼の上でも、正式にはアルガン様が側付き、わたしはその代行でございましょうか」
実際、重要な式典、祭典、他国の賓客などには常にアルガン様が伴われる。
女王陛下というお立場を考えれば常にそうあるべきなのだろうが、アルガン様はクリシュタンド家の財務管理など諸々のお仕事で多忙な身。
特に重要ではない平時に伴われるのがわたしとエルヴェナ様であり、そしてエルヴェナ様は普段クリシェ様のお手伝いをされているため、消去法でわたしが女王陛下のお側に付き従っているというだけ。
誰が女王陛下の側付きか、と明確になっている訳ではなく、クリシュタンド家においてはどうでも良さそう(大事なお役目のわりに適当で、会話の流れで決まる事が多い)な扱いである。
ただ、少なくともわたしとエルヴェナ様の間では、正式な側付きはアルガン様、ということが共通の見解となっていた。
機嫌の良し悪しが分かりやすい女王陛下であるが、実際、アルガン様がお側にある時はすこぶる機嫌が良い。
女王陛下は機嫌が良いほど口数が多く、機嫌が悪いと寡黙になるのだが、アルガン様のお側では一日中楽しそうに悪態をつき、あれが足りないこれが足りないなどと、わたしやエルヴェナ様には言わないようなわがままを仰った。
構って欲しがる子供のようなお姿は、何とも胸が苦しくなるほど愛らしい。
「アルガン様は一手にクリシュタンド家の諸々を管理されるご多忙なお方故、お屋敷を毎日空けるというのは難しいですから」
「女王陛下の側付き以上に優先される仕事もないような気もするけれど……新しく使用人を雇えば――いえ、まぁ、状況が状況かしら。この状況で女王陛下のお側によく分からない方を、というのも不安よね」
「そうですね。お立場がお立場でございますから」
女王陛下はどこまでも愛らしい方ではあったが、それと同時に、内外を明確に分ける方でもある。
わたしなどには分からない環境でお育ちになったからだろう。
ご自分の命は狙われるもの、ということが認識の大前提で、警戒心がとても強かった。
本当に些細な変化を気にされるのだ。
例えば王城で部屋を空けた際、茶器の位置が僅かに違う、これが動いた形跡がある、などと、僅かな変化でもあれば警戒を見せるのが常。
利用する部屋はどんな部屋でも常に衛兵を立たせ、王城で過ごす間は王城勤めの使用人さえその出入りを禁じていた。
わたしが気を利かせてこっそり手入れをしていた時には、しばらく無言で部屋中を改めるほど。
何をしているのかと遅まきながらに理解して、自分がやったのだと説明すると、紛らわしいことをするなと随分叱られたことも記憶に新しい。
普段も身につけるものから全て、何をされるか分からないからとお屋敷で保管し、日用品や私物の一切を王城には置かないなど、そうした面では徹底している。
お屋敷にあるときの女王陛下と、その一歩外にある女王陛下は雰囲気が少し異なっていて、外では少しだけぴりついたものを感じることが多い。
そういう方であればこそ、やはり身近な使用人を増やすというのは難しいことであるように思われた。
エルヴェナ様はクリシェ様に奴隷の身分から救われ、クリシュタンド家に強い恩義のある方。
姉君もクリシェ様の重用する私兵であり、そこが信用されているのだと思う。
わたしもクリシュタンドに来たのはあくまでアルガン様目当て。
女王陛下のお側に、などと畏れ多い目的でやってきた訳でもないし、偶然である。
こんなドジばかりの女がお命を狙う刺客にはなり得ない、というお考えもあるのかも知れないが、ともあれ信用して頂いていた。
ただ、そうした事情があって同じ屋根の下に暮らすわたしやエルヴェナ様以外の使用人をと考えれば、やはり相応の理由がなければ難しい所だろう。
人数は確かに少ない。
式典や祭典の際には屋敷を空けざるを得ず、カレン様のような方がもう一人いらっしゃればそうした際に安心とも思えるが、とはいえ、わたしが信頼する先輩使用人などという理由で身の回りに置いて下さるとも思えなかった。
「女王陛下が幼い頃にはそのような話があったそうだしね……何人もの王子が不審な死を遂げられたとか」
「ええ、政治は分からない所ですが……」
王弟殿下が兄弟を殺したのは女王陛下だと流布していたのも先日のこと。
王宮世界は謀略蔓延る危険な場所であり、アルガン様が側にいる際の機嫌の良さはそういう点にもあるのだと思う。
一般的には神経質と思われるくらいだろう。
そんな女王陛下の気を煩わせないよう、本当に細かな所まで手を伸ばして気を配っていたし、アルガン様を側に伴っているときの女王陛下は、お屋敷で過ごす時のように空気が柔らかい。
信用と信頼――わたしやエルヴェナ様を信用はして下さっていても、本当の意味で信頼しておられるのはアルガン様だけなのだろう。
人数が足りない、というのは無い物ねだり――まずは己がそのようになり、人数の不足を感じさせぬような信頼を受ける使用人になるべきであった。
「羨ましいような、羨ましくないような、そういう立ち位置よね。……クリシュタンドは花園だし、殿方もいらっしゃらないし、色々気疲れしそうだし」
「花園……」
「もちろん、女王陛下や王国元帥にお仕えする、だなんていうのは憧れがあるけれど……女性ばかりだもの。あたしみたいなのには気苦労ばかりで旨味がないというか……」
「カレン様は何というか、即物的――」
「うるさいわね。それが普通よ、大抵の使用人は出会いを求めているんだから」
カレン様は睨むように言った。
「普通の使用人からするとあなたが異常なの。使用人として過ごすのが幸せ、だなんて……そのまま一生過ごすつもりなの? 結婚はどうする気?」
「今のところは特に……もちろん家庭に入るという願望が一切ないではないのですが、そういうことはそのような巡り合わせがあってから考えようかと」
「そんなんじゃあっという間に行き遅れよ。あなたは色々残念よね……」
そしてカレン様は顔を寄せる。
「大分抜けてるし天然だし、どうしようもなくドジだけれど、家は地方とは言え歴史ある名家で、働き者だし気立てはいいし可愛いし。……あたしが男なら口説いてあげたいくらいなのに」
頬を染めると、カレン様はくすりと笑って距離を取った。
「わ、わたしなどは全然……もっと素敵な方は沢山――」
「目が肥えてるだけ、あの絵物語みたいなお屋敷に住んでればそうなるのかしら? ケーキはもちろん見た目も豪華で美味しいけれど、クッキーだって美味じゃない。その点あなたは上物のクッキーよ」
「上物のクッキー……」
褒められているのだろうが、何ともよく分からない評価である。
カレン様は嘆息した。
「はぁ、あたしもあなたみたいに、ぽややんと生きられる性格に生まれたかったわ。幸せそうよねあなたって」
「カレン様は十分過ぎるくらい持ち合わせておられると思いますが……お綺麗ですし、器用で頭も良いですし」
「中途半端に賢いくらいならお馬鹿の方が気楽よ。人並み外れた才能があればともかく……セレネ様やクリシェ様みたいにね。……ああ、これからは辺境伯とアルベリネアとお呼びしなきゃかしら」
それはカレン様に限らぬことであろう。
大抵それが一般的な評価で、セレネ様はクリシェ様と同列に語られることが多かった。
亡くなられた先代、英雄であった迅雷のクリシュタンドがご息女。
内戦では名誉の戦死を遂げた父君に代わり、齢十五で軍を掌握、周辺世界で黒獅子と恐れられる王弟殿下に勝利を収め、その仇を討った。
そして今では元帥となり、そうでありながら大きな不満も口にさせることもなく、経験豊富な年嵩の武人達の上に立って堂々と、ごく普通に仕事をこなしているのだ。
高々十五年程度の人生に記すにはあまりに凄まじい経歴である。
ただ、身近で接するわたしの印象は異なった。
無論、すごい方には違いなく、稀な才女であるという意見は同じく。
けれど屋敷では誰よりも遅く帰り、アーネが就寝する際も部屋から明かりが漏れていて、いつも事務仕事か勉強か、何かの書き物を。
ずぼらな方ではなく、むしろ何事もきっちりとこなす方なのだけれど、いつも少し髪はほつれて乱れ、目元には疲れが見えた。
クリシェ様という比類なき天才の隣に立つ。
その苦労がどのくらいのものか、僅かながらにでも理解できるからだろう。
セレネ様のすごさというものはその優れた才覚ではなく、精神性にあるのだとわたしは思っていた。
先代が戦死なされた後も僅かな時間で立ち直り、笑みを浮かべて経験豊富な軍人達を束ね、他人から求められる己を演じるべく無理をして、泣き言を口にせず。
そのような方が自分よりも年下の少女であるのだから、セレネ様を見ると思わず背筋を正してしまう。
「ま、無駄話はこれくらいに。どうあれ出世には違いないし、おめでとう。色々苦労はあるでしょうし、何かあれば頼ってちょうだい。先輩のよしみ、あたしに出来ることなら手伝うわ」
「はいっ、ありがとうございます」
「クリシュタンド家自体はともかく、周囲には素敵な殿方が沢山いらっしゃるでしょうし、あなたに恩を売っておくとあたしにも良いことありそうだしね」
「……率直で正直な所はカレン様の美点だと思っておりますが、その、そういうことはあまり仰らない方が良いのではないかと……」
「あなたを信頼してる証よ」
くすりと笑い、棚から茶葉を少し取り、扉を開く。
「じゃあまた。ドジを踏んで女王陛下達を怒らせないよう気をつけなさい」
「き、気をつけます……」
「そればっかりがあたしも心配なんだから」
そしてひらひらと手を振り、カレン様は去って行った。
相も変わらず素敵な方。
わたしも微笑みそれを見送ると、茶葉を手に取り、小瓶に詰めて倉庫の外へ。
そうして丁度王城の入り口――玄関ホールで鉢合わせるのはセレネ様。
こちらを目に留めると、軽く手を上げながら階段を降りてくる。
「ご苦労様です、セレネ様」
「ええ、あなたもご苦労様。ベリーのお使い?」
「はい、茶葉を少し」
王城の入り口に立っていた門番達――彼らがセレネ様を見た途端、背筋をこれ以上なく正し、両開きの大扉を開くのが見えた。
階段を降りた彼女はそんな兵士達に視線を向けて、微笑を一つ。
そしてアーネを伴い扉を潜る。
ちょっとしたやりとり一つで何とも鮮やか。
まさに人の上に立つべく生まれた方なのだろう。
先ほどわたしが門を潜った時とは明らかなほど兵士達の気配は違い、ぴり、とした硬質な空気。
言葉を交わすこともなく、微笑一つで全てが変わる。
嫌味のない鮮やかさ、凜とした空気。
何とも格好の良い方である。
「どう? あなたにとってはここが古巣だろうけれど」
「来賓用のお屋敷勤めでしたので、古巣というには語弊がありますが……やはり見知った方にお会いすると驚かれますね。丁度先ほども、お世話になった先輩と少しそのようなお話を」
「でしょうね。わたしも違和感すごいもの。つい先日、石像みたいになりながら正騎士叙勲を受けたばっかりだっていうのに」
セレネ様は呆れた様子で苦笑する。
「クリシェもベリーもすっかり馴染んで、まるでここに生まれ育ちましたってくらいの顔で平然としてるし、あなたやエルヴェナがいてくれて助かるわ。普通の価値観持ってくれてて」
「ふ、普通の価値観……ですか?」
「そ。クリシェは見ての通りだし、ベリーも大分おかしいのよ。住む場所も立場も、環境が色々変わってるのに三日もすれば普段通りだもの。病気よ病気」
言い方はともかく、理解は出来る。
クリシェ様はアルガン様やセレネ様がいればどこにいても幸せそうであったし、ご自分のお立場がどうなろうと興味など欠片もなさそう(実際そのような話し合いでは他人事である)であった。
アルガン様はアルガン様で、最初の数日で王領内での生活で関わる門番や倉庫番、使用人達と顔合わせを済ませていたようで、長年ここで暮らしていたわたしが会ったことすらない方達とも付き合いを広げていた。
怖い門番も気難しい倉庫番も、クリシュタンド家のお使いだと口にすればあっさり通したし、見知らぬ年嵩の使用人でさえ、わたし如きに気を遣う始末である。
当然のことを当然のようにこなすというのは、とても難しいことであると思うのだ。
物事を円滑に進めることは理想であるし、当然全てはそうあるべきだが、往々にしてそうはならない。
厳しい方もいれば気難しい方もいて、意地の悪い方もいるものだ。
摩擦はどこにだって起きてしまうし、以前はそれなりに悩まされていた。
だが、王領に帰ってきてからは、何もかもが奇妙なくらい滞りなく。
許可が出ていないと門前払いを喰らうことはなく、在庫が少ないからと欲しいものを出してもらえないこともなく、無関係な雑用を理不尽に押しつけられることもないのだ。
当然を当然のこととして、あっさりとその『当然』を成り立たせてしまうのがアルガン様という使用人。
普通と異なるという意味で、セレネ様の言い分はもっともであった。
「こっちは色々変わって大変、そっちはどう? とか、わたしはそういう極普通の、当たり前の会話がしたいのよ。なのにクリシェもベリーも大変そうですね、なんてもう他人事みたいな顔してるし、環境について行けてないのがわたしだけなんて、何だかわたしが馬鹿みたいじゃない」
「な、なるほど……」
「大体、何でわたしが元帥なのよ。二十にもならない小娘を、元帥閣下、だなんて呼ばなきゃいけない人達の気持ちを考えたら針のむしろどころじゃないわ。……ああ、クリシェの脳天気さを分けて欲しいわ本当」
色々と溜まっているのだろう。
次々に言葉が湧いてくる、といった様子で、セレネ様は嘆息する。
陳腐な想像でしか理解も出来ないが、想像を絶する大変さなのだろう。
凄まじい大出世、とはいえ、我が身に起こって喜べるかと言えば否であった。
例えばわたしが前にいたイルネ屋敷や王城の使用人達、アルガン様さえも顎で使うような立場にある日突然置かれたならば、耐えきれず三日で寝込んでしまうだろう。
いや、半日とて耐え切れまい。
使用人、という括りでさえ恐ろしいというのに、セレネ様は王国の大元帥閣下なのである。
貴族とはそもそも王に仕える戦士達に由来するもの。
例えば同じ爵位の貴族であっても、危険と隣り合わせの戦場に立ち、国防を担うという役目の重さから、王国には軍人貴族を上に立てる習わしがある。
そんな軍人貴族の頂点――元帥ともなれば、役割上の序列で言えば国王陛下の次。
つまるところ王国にある全貴族の頂点と言って相違ない。
それだけに名声轟く先々代、キースリトン公爵や王弟殿下のように血筋や実績が強く重んじられた。
実績はあれど元帥にするには家格が不適当として、姫を嫁がせ無理矢理公爵位を与えられることもよくあること――全貴族の上に立つ存在としてそういう辻褄を合わせたりするのも普通であったし、そもそも辺境伯のまま元帥という立場に置かれること自体、異例中の異例である。
格式や慣例含めた諸々で、客観的にセレネ様が元帥というのは強引で不適当なのだ。
『はぁ、仕方ないですわね。元帥はセレネ様でいいですわ』
『いいですわ、じゃないわよ! お父様ならともかく、わたしじゃどう考えても不適当だって言ってるの! わたしはついこの間に正騎士叙勲受けたばっかりなのよ!?』
『おねえさまは全くやる気がなさそうですし、ヴェルライヒ辺境伯も他の方も、セレネ様が適当だって仰ってるんですもの。そう仰るならもう一度ご自分で説得してきて下さいまし』
『うぐ……』
などと、そのことで議論していたのもつい先日のこと。
それを聞いていたわたしからすれば必然というべきこと――クリシュタンドの貴族の方達は、心からセレネ様こそが元帥に相応しいと思っていらっしゃったようであるし、人員上の都合からも仕方ないことであった。
ただ、それは内々の事情であり、他の貴族達から理解してもらえるかといえばそうはなるまい。
「ファレンさ――ファレンは気を遣ってくれてるし、コルキスも色々走り回ってあちこちに話をしてくれてるから、まだ何とかなってるけれど、他の軍人達と会う度、空気の重さに窒息しそうだわ……」
元帥補佐のファレン辺境伯などは先代ご当主様の元上官。
ガイコツなどと恐ろしい『愛称』でクリシェ様には呼ばれているが、セレネ様とは祖父と孫どころか曾孫であってもおかしくないくらいの方で、クリシュタンド麾下の軍人達は皆凄まじい戦歴の持ち主。
先代のご当主様、その副官として彼らに接していた僅かな間に見た限りでも、セレネ様が父君の戦友としてあの方達に対して強い敬意を向けていたことは理解している。
事情が事情とは言え、そんな彼らの上に立つこと自体、平時に戻れば随分抵抗もあるだろう。
その心労たるやわたしの想像を超えていた。
「……はぁ、駄目ね。こんな愚痴なんて言ってたら」
「い、いえ! 使用人としてそうしたお言葉を零して頂けるのは嬉しい……いえ、その、栄誉であります」
「え、栄誉……?」
「すみません……何と言いますか、主人の心労、その一端でもそうして和らげることも使用人としてのお役目と言いますか。そういう風に仰らず、いくらでも仰って下さい。それで少しでもセレネ様の気が休まるならわたしとしては本望です」
「は、はぁ……」
セレネ様は何とも言えない顔である。
こうした時に気の利いた言葉を口に出来ない自分が情けなかった。
「え、えと……そうして苦労を分かち合い、誰かにお仕えする、ということに実は憧れがありまして、主人の愚痴を聞かせてもらうということも、何やら本当に嬉しくて……以前王領にいた頃はそういうこともありませんでしたし」
「ああ、まぁ……ああいうお屋敷だとベリーみたいに家に仕える使用人とは少し違いそうね」
「……はい。お客様はいらっしゃっても、仕えるべき主人はいらっしゃらなかったので……もちろん、女王陛下がそうだと言えばそうなのですが、今とは違って遠い方でしたから」
セレネ様は少し考え込み、苦笑する。
「ふふ、誰かに仕えたかっただなんて、あなたってちょっと変わってるわよね。まぁ、ベリーに憧れて単身砦に乗り込んでくるくらいだから、今更なんだけれど」
「そ、それは……」
「……でもまぁ、そういうものかしら。わたしも……お父様の側でお手伝いがしたいって無理を言って戦場に出たわけだもの。もちろんそれだけじゃなかったけれど」
少し遠い目で、寂しそうに告げる。
泣き言など許されない、戦争の最中であった。
父を失い、それから僅かな期間で立ち直って軍を引き継ぎ、指揮して。
ただただすごく強い方なのだ、と思っていたものだが、やはりセレネ様がこうして、お父様、と零すときには寂しそうで、年相応の少女なのだと思い出す。
母君も早くに亡くされて、そして父君も。
軍人にとってはそう珍しい話ではないのだと思う。
ただ、珍しくないからと、納得して受け入れられるかなど別の話だろう。
わたしはその点幸せ者。
大喧嘩して家を出たものだが、兄達も含めて皆健在。
軍人ではなかったし、そのような不安を覚えることさえなかった。
例えばその内の誰か一人でも亡くなればわたしはみっともなく泣いてしまうだろうし、そのことをしばらく引きずることだろう。
少なくともこんな風に立派な姿を自分が見せられるとは思わない。
このお屋敷の方達は皆、多くの親しい方を失っていたし、相応の悲劇を経験している。
アルガン様は両親も姉君も亡くしていたし、クリシェ様も育ての親を賊に殺されたと聞いた。
女王陛下も側付きの使用人を失っていたし、軽い経緯を教えて頂いた程度でもエルヴェナ様のこれまでは決して幸せとは呼べない日々であっただろう。
多分、そういう事情もあるのだと思う。
セレネ様は真面目な方で、強くあろうとする方。
愛する父君を失っても、その悲しみを子供のように吐露することはご自分に許さないだろう。
皆相応の悲劇を乗り越えているのだからと、我慢なさるに違いない。
ただやはり、十も半ばの少女にはあまりに辛い立場。
元帥という立場もそう――クレシェンタ様は女王陛下、クリシェ様はアルベリネア、お屋敷の一切をアルガン様が取り仕切り、皆が皆優秀過ぎた。
自分には不相応なのだとあれだけ口にしても、そうと決まればやるしかなく、そしてそれをやろうとしてしまうのがセレネ様なのだろう。
そして無理さえすれば、それをやれてしまうだけの才覚がセレネ様にもあった。
それが良いことか、悪いことかは分からない。
「まぁ、うじうじしてても今更よね。……わたしが愚痴を零してたなんて、みっともないことベリーに言わないでちょうだい」
「ぁ、はい……セレネ様は」
「ちょっと気分転換に素振りでもしてから戻るわ。ベリーにもそう言ってて」
お屋敷の前に到着すると、そう口にしながら鞘から剣を引き抜いた。
真っ直ぐと何かを見据えるように、構えて、立ち――
「うわぁ……」
お屋敷前の庭――剣を握り、刃を振るい、舞い踊るのは優美な金糸。
瞬きの間に数えきれぬ剣閃が走って、風切り音が幾重にも重なり響いた。
振るうだけではなく、想像の中に相手がいるのだろう。
時に何かを躱すように体を動かし、腰を捻り、何とも鮮やかな剣舞。
美しい少女の容姿に不釣り合いな剣技。
けれどその磨き上げられた鋼のような気配と緊張感が、呼吸を止めて目を奪う。
クリシェ様がへたっぴ、と仰るセレネ様の剣は、わたしのような人間からすれば想像を絶する凄味があった。
父も随分な剣達者。
故郷では『ギーテルンス侯爵は文武両道の貴族である』と有名であった。
兄上達や護衛の兵士達に稽古をつけ、圧倒する姿を見れば、客観的にも随分な腕前であったのだと思う。
だからこそ、初めてセレネ様の剣を目にしたときは驚いたもの。
無論武門の家に生まれた軍人貴族、セレネ様と父をそのまま比べる訳にはいかないものの、当時十五の彼女の剣は何とも鮮やかで目を奪われた。
記憶にあった父の剣は五十を過ぎて磨き上げられた剣であったが、セレネ様はまだ十五――子供同然の年頃。
そうは見えぬ気迫と圧に、世の中にはこんな方もいるのか、流石は天下に名高いクリシュタンド家のご令嬢、などと感動したものであった。
控え目に言ってもセレネ様は天才と呼んで差し支えないもので、その上に遙か年配の軍人達からも敬意を集め、才能に驕らない努力家。
事情もあったとは言え元帥にまで指名され、それを当然のようにこなしてきた彼女はまさに、誰一人として文句を付けられない傑人である。
わたしが世界の広さを知ったのはセレネ様を見て、であった。
「ふぅ……どう? アーネも振ってみる?」
「いえ、わたしは……」
「体に慣れるには運動するのが一番よ。わたしも大分、違和感がなくなってきたけれど……」
「セレネ様はもうすっかり慣れたものと思っておりましたが、まだ少し?」
「細かい動作がね」
セレネ様は右手を確かめるように開閉し、両手を上に。
腰を反らして、しなやかな細身の体を左右に揺らす。
女性の魅力というものをぎゅっと濃縮させたのがアルガン様なら、女性の魅力というものをしゅっと洗練させたのがセレネ様であろう。
細い腰と長い手足、飾り気のない訓練着のズボンとシャツであるのに、それだけで十分過ぎるほど美しいのはずるいくらい。
ドレスを着ても軍服を着ても、こんな格好でさえ、何を身につけても似合わない、という言葉が浮かばなかった。
そんなセレネ様は腰を捻ったりしながら、納得の行かない様子でうーん、と唸る。
この二ヶ月ほどでセレネ様もすっかりこの体に慣れたように見えるのだが、しかしまだ若干の違和感はあったりするのだろう。
「服を着替えたり文字を書いたり本のページを捲ったり、これまで魔力なんて使わずにやってたことにはまだ違和感あるかしら。剣を振るのは前から大分筋力に頼らないようにしていたから、慣れるのも早かったけれど……何というかもどかしい感じが抜けないのよね」
「それは確かに……」
前まで使いこなしていたはずの体が途端に不自由になる感覚。
慣れたらそっちのほうが楽で良いとアルガン様は仰っていたし、事実として魔力に依存して体を動かす方が体に負担がなく、力も出ることは理解出来るが、とはいえ慣れないものは慣れないもの。
中々に難しいところがあった。
タオルを差し出すと礼を言って受け取り、セレネ様は顔や首筋を拭う。
汗も掻くし痛みもあり、寝起きには気怠い、髪も伸びる。
感覚の上では以前と比べあまり違和感もなかったが、怪我に対してはとても丈夫に保護されているようで、ナイフを鷲づかみにしても手は切れないし、ハンマーで叩かれようと体にダメージは入らないらしい。
慣れていない頃、階段を降りる際に足を滑らせ後頭部を強打したのだが、死んでも不思議ではない衝撃にも関わらず、衝撃があっただけで痛みはなかった。
中途半端な痛みは以前と変わらず存在するようで、怪我に到らない程度――例えばこけた拍子にクレシェンタ様を押しつぶしてしまう等――の苦痛は変わりない様子。
浴室で小指を打ったらしいリラ様が悲鳴を上げ、涙目で蹲っていたのも記憶に新しい。
呼吸を止めれば息苦しいが、実際の所、呼吸さえ本当は不要であるという。
走れば多少疲れて息も上がるものの、その辺りにも感覚に大きな違いはなく、以前となるべく変わりないように、それでいて『とても丈夫で絶対死なない体』というのがコンセプトであるそうだ。
問題は自壊――認識が薄れて魂の状態に戻ってしまうということくらい。
今でも毎日のようにクリシェ様達がわたし達の体を確かめていて、今後数年は続くらしい。
体に慣れようと心を無に。
魔力に意識を集中させていたわたしが根源と呼ばれる場所に旅立ちかけた時には、それから数日、クリシェ様がぷりぷりと説教を繰り返しながら側にべったりと張り付いて過ごした。
近頃は大分定着してきたと口にしてはいるが、やはり不安が残るのだろう。
あちらの世界にもクリシェ様とクレシェンタ様は買い物に行っているようだが、完全に定着するまでは、と初日には体を使いこなしていた様子のアルガン様の同行でさえまだ認めていなかった。
一度魂に戻ってしまうと最初からやり直しらしい。
わたしが同行させてもらうのはずっと先のことになりそうである。
「別にわたしに付き合わなくてもいいのよ? 好きなことをして過ごしてくれて……ベリーとクリシェが張り切ってるんだし、仕事なんてあってないようなものでしょう? 剣を振ってるところを見ても楽しくはないでしょうし」
「いえっ、そんなことは……セレネ様の剣には見応えがありますし」
「そう言われるとちょっと照れるわね」
セレネ様は苦笑して、手に持った剣を眺める。
身幅は細身で優美ながら、重ねが厚く力強さを感じさせる。
セレネ様の愛剣――先代のご当主様より与えられた剣を今も大切に使っているらしい。
細工も丁寧に磨き上げられ、柄に巻かれた革も新しく、まるで新品のようであったが、確かに残る刃傷が重みを感じさせた。
「わたしの父も剣がお好きで、随分な剣達者でしたから……それだけに凄味も分かるつもりでは」
「ふふ、凄味だなんて。わたしが実戦で剣を振ったのなんて初陣と内戦で数えるくらいよ。剣はまぁ、それなりに達者な方だけれど」
それでもそれなり程度、と口にして、からりと笑った。
涼しい風が抜けるような声の響きと表情は、包み込まれて虜にされてしまうようなアルガン様のそれと真逆の魅力がある。
セレネ様には凜とした、いわゆる覇気と言うべき空気があって、思わず背筋を正してしまいそうな空気をいつも纏っていた。
空気――そう、空気だろう。
聡明で、けれど愛らしい理想の使用人。
若く気高い、そして愛情深い少女元帥。
神の子と呼ばれる才覚を持ち、けれど誰より純粋な二人の王女。
まさに彼女らは物語の住人達。
彼女達自身は穏やかな日常をこよなく愛する人達ではあったが、けれどその存在、生き様そのものがあまりに鮮烈で華やか。
それがきっと、場の空気すらを変えてしまう。
アルガン様と共に歩けば、周囲には心地よい時間が流れた。
例えるならば、ふと目を誘う野花のように。
彼女が醸し出す柔らかい雰囲気に、周囲は不思議と頬を綻ばせ。
セレネ様と共に歩けば、周囲にはガラスのように硬質な響き。
例えるならば、険しい高嶺に根下ろす花のように。
その気高く凜々しい覇気に、周囲は不思議と居住まいを整えて。
クリシェ様と共に歩けば、周囲には何とも不思議な世界。
例えるならば、歩く花でも見たかのように。
幻想的な妖精に、周りの人々はお伽噺に迷い込み。
クレシェンタ様と共に歩けば、周囲にはその足音一つが高鳴り響く。
例えるならば、伝承の大花を目にしたかのように。
ありとあらゆる視線を奪い、華やかな絵物語へと周囲全てを引きずり込む。
――その場にあるだけで、周囲全てを変えてしまうような気配。
わたしが仕えるお屋敷の人達は皆、それぞれがそういう何かを持っていた。
例えば頭上を覆い尽くす星空にあっても、つい目映い月の光に目を奪われてしまうように、鮮烈な輝きは望む望まぬに関わらず人の目を惹きつける。
地位も何もかもがなくなった世界でも、そうした気配は変わらぬもの。
魔力とは別の何かがあるのだろう。
何とも柔らかい空気が包む世界にあっても、セレネ様はいつも凜としていた。
「凄味だなんて言うなら、翠虎に真っ向から立ち向かったあなたのお父様の方が立派じゃないかしら。クレィシャラナの戦士達からも認められるくらいだもの」
軽く舞うように剣を薙ぎ、続ける。
風が孕んだ青き魔力が渦を巻き、螺旋を描く。
「わたしの剣はあくまで趣味みたいなもの。技術や腕前に関してはそれなりに自信はあるし、一対一なら大抵の相手には負けないつもり。でも、そういうのとは別なのよ。わたしは己の全てを賭すような剣を振るったことはないもの」
「でも、内戦では王弟殿下に自ら立ち向かったと」
「十五対一で勝つつもりで、結果は劣勢からの逃走。……ふふ、わたしは戦士として、勇気を振り絞ったことがない半人前なのよ。この先もずっと」
そう語る口振りは卑下するようではなく、不思議と楽しそうだった。
「命を捧げたって届かないかも知れない、そんな壁に真っ向から立ち向かった経験はわたしにはないの。お父様達やギーテルンス侯爵みたいにね。だからどれだけ剣を磨こうと、この先も永遠に半人前……お父様達みたいな人達には敵わないわ」
口にする言葉に反して、その剣技はぞっとするほどに美しかった。
毎日のように剣を振るって百年近く、その鍛錬と努力の程が透けて見えるほどに。
「褒めてくれるのは嬉しいけれど、わたしの剣はそういう剣。この程度で鼻を高くしてたらお父様に笑われちゃうわ」
そうして一薙ぎ、鮮やかに鞘へと剣を。
暗い感情の何一つない、爽やかな微笑みだった。
才覚を持ち、想像を絶する努力を重ねて、それでも真っ直ぐに憧れと羨望、敬愛を口にして、自分はまだまだ未熟者なのだと笑って告げる。
研ぎ澄まされた剣のように、どこまでも美しい方。
凜として、硬質に響くガラスの音のように。
彼女の気配はやはり、ふとした拍子に背筋を伸ばさせる。
やはりそれは、この方が他の誰でもない、セレネ様だからこそなのだろう。
例えば、クリシェ様やクレシェンタ様は特別な存在であった。
あらゆる望みを叶える能力があり、そしてどこまでも純粋な方達。
研ぎ澄まされた刃のようでもあり、透き通る宝石のようでもある。
どこまでも鋭く美しく、だからこそ脆く、傷つきやすく。
お二人を実際に目にすれば、その純粋な在り方を目にすれば、そうした方を守り、癒やし、お側に侍ることがどれほどに大変なことかは理解が出来る。
そんなお二人のお側に平然と侍り、ごく普通の少女のような幸福を与え、全てを受け入れるアルガン様もまた、特別な存在であった。
恐らくは唯一、お二人のような方に自然体で居場所を与えられるのがアルガン様なのだと思う。
ある意味それで世界が完結していて、アルガン様とは『お屋敷』そのもの――きっとそれが貧相な小屋のようなものであっても、アルガン様がそこにいらっしゃれば、そこが皆様の語る『お屋敷』になってしまう。
わたしが思い描く理想のように、特別な方のための、特別な場所。
普通の世界と、異なる世界。
絵物語の中の世界。
クリシェ様も、クレシェンタ様も、アルガン様も、そんな世界の住人であった。
その場にあるだけで、自然と世界を変えてしまうような力があった。
そんなクリシェ様に比べれば、クレシェンタ様に比べれば、アルガン様に比べれば。
見劣りする、という言い方は失礼極まりないだろう。
セレネ様はわたしのような凡人からすれば十分、天才というべき存在で――けれど彼女達と比べた時にだけ、セレネ様は多分少しだけ『普通』に近い存在なのだった。
どんなに難しく思えることでも造作もなく、当然のように解決してしまう。
そんなクリシェ様やクレシェンタ様、アルガン様をすごいと感じるのは、どうしてそんなことが出来てしまうのかと理解さえも出来ないから。
この人達はわたしとは違う特別な人達で、それは当然のことなのだと、そう思わせてしまうから。
けれど、そんな『特別』の隣を目指したセレネ様の努力がどれほど大変なものかは、わたしのような人間にも僅かながら理解は出来たから、すごい、の一言では片付けてはしまえない。
自分は全く特別ではないのだといつも口にして、それでも必死に努力を重ねて、様々なものを積み上げてきて、何よりも、纏う空気がそう語る。
それを誰もが感じていたから、当時誰もがあの若き元帥に紛れもない忠誠を捧げていたのだろう。
セレネ様はやはり非凡で、特別でなかったからこそ、特別であった。
きっと、そういうことなのだろうとわたしは思う。
他人に対しては情に深く、けれど怖いくらいに己に厳しい、そんな方。
誰よりも、血の滲むような努力を重ね続けてきた方。
けれど自分のそんな努力さえ、軽やかに流してしまうその笑みには、ただ、美しさだけがあって。
――ああ。
やはりどうにも、胸が締め付けられる思いである。
「ぁ、あの……なんで泣いてるの……?」
「あ、いえっ、すみません……つい感動してしまって……」
「今の話に泣くほど感動する要素があったかしら……」
ハンカチで目元を拭っていると、頭をぽんぽんと撫でられながら溜め息が響いた。
見ずともセレネ様がいつものように、優しい笑顔で呆れているのが目に浮かぶ。
「セレネ、朝ご飯なのですが……? あの、なんでアーネ泣いてるんですか?」
「知らないわよ、もう……」
「も、申し訳ありません……」
また溜め息が聞こえて、わたしは涙を拭いながら微笑んだ。
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