人物紹介――番外編 ※ネタバレ含む

・属性

秩序――規則と規律、普遍的概念を重んじ、整えられた社会と法を重視する。

混沌――個人とその感情思考を重んじ、社会的規律、道徳よりも意志を重視する。

中立――中間。


善――利他的気質。自身の利益よりも自分の信じる道徳を重要視し、それに殉じる。

悪――利己的気質。自身の利益を重要視し、そのために他者を蹴落とすことを厭わない。

中立――どちらにも振れない中庸の気質。



・王国貴族の名前の見方

例:1,ギルダンスタイン=2,カルナロス=3,ヴェル=4,サーカリネア=5,アルベラン

1,名前:ギルダンスタイン

2,管理する地域の中で最も大きな土地:カルナロス。

本来は管理地域全てが入るため非常に長く、簡略化される。

3,王位継承権を持つ男性の王族はヴェル、女性の王族はヴェラ

4,名誉爵位:サーカリネア

5,姓:アルベラン


正式には4と5の間に元帥や将軍などといった軍階級、宰相など王宮での役職を示す言葉が入ったり姓の後に大公爵などといった爵位を示す言葉が入ったりします。

ただ、既に横文字が長くて目が滑るので、文中ではわかりやすさ重視でその都度必要な階級役職を末尾につけ漢字表記しています。


基本的に姓以外は必ずしも子供に継承されるものではないですが、特に問題ない限り慣習的にその嫡子が土地や爵位を引き継ぐことが多いです。

ただ、戦士としての武功を示す4の名誉爵位だけは引き継がれません。


姓を持たない人間がネア=準騎士の略式叙勲を受けた場合、大抵は出身地を名乗る場合が多いです。

(例)ガーレン=ネア=カルカ。





○番外編内で生存

●番外編内で死亡


■――『月明かりの遺産』の登場人物

●エルゲインスト=クライネル=アルベリネア=ラミル 『中立・善』

アルベリネアの狂信者系男子。魔術研究院院長。魔導帝国クラインメール初代皇帝。ねむねむ。

子供の頃からクリシェの魔水晶に触れ、その刻印の美しさに取り憑かれた天才。

幼少から魔術研究院に出入りしており、訪れたクリシェ自身にも一目惚れしている。

そこそこ優秀と彼女に褒められたことを何より誇りに思っており、彼女に認めてもらうためにその時間と才能の全てを魔術に注ぎ込んだ。

彼に取ってクリシェは神そのものであり、彼女に近づくため、彼女の残した魔水晶の解明に日々を研究に費やす。

瞼が閉じ気味で、何やら眠たそうだとねむねむと名付けられた。


☆お引っ越し後

彼女が消えてからは失意に打ちひしがれたが、彼女の行った『天変の大法』こそに全ての鍵があると再び立ち上がり、彼女が戦場で用いた雷光の槍など、魔水晶に頼らぬ術式刻印が存在することを突き止め、魔法の研究とその安定化に力を注いだ。


彼女の魔水晶は暗号化され、解析のために干渉しようとすると周囲を巻き込み自壊する仕組みがあったが、研究院にはそのプロテクトのない、勉強用と称された一つの魔水晶が長年置かれていた。

彼は数十年の歳月を捧げて魔導解析器を作り上げ、魔法と組み合わせることによってようやくそのプロテクトを突破する。

彼の前に現れたのは魔力で出来たクリシェの虚像。

『ふよふよに術式を刻めば簡単に解けるよう作りましたが、中々です。じゃらがしゃなんかはまともに解けないようにしてますから諦めて下さい。魔法は悪いことではなく、平和のために使うように』

指を立てて彼女が語るはそんなメッセージ。

『……あ、多分ないとは思いますが、クリシェがまだ近くにいるなら、言いに来てくれたらクリシェが直接褒めてあげましょう』

ただそれだけを残して魔水晶は霧散した。


魔法の力は平和のために。

彼女の残した言葉を繰り返し、周囲を眺めてみれば、女王とアルベリネアの不在に王国は揺れ始めていた。彼女の残したこの平穏がいずれ崩れることは間違いなく、そしてそれを新たな形にするのはきっと、己の役目なのだと理解する。

密かに魔導兵器を掌握し、彼女の大いなる力を手にすると、魔術師達と魔術結社『月明かりの遺産』――クラインメールを組織。軍部の友であったワルツァ=レーミンに協力を求め、大陸の安定のため動き出すことを決意する。


神と呼ぶべきアルベリネアを己が名乗り、利用することには抵抗もあったが、人心を束ねる名はこの他になく。自分達が反逆者ではなく、彼女らの意志を継承するものであると知らしめるにこれ以上の名はない。

建国後皇帝を名乗り、大陸を平定。

政務に追われながらもその後も日々を研究に費やす。


彼があの日に見て記憶に焼き付けた『天変の大法』の術式。

彼だけはあのアルベリネアが実験の失敗で死んだなどと思っておらず、今もどこかで生きているのだと確信していた。

彼女と再び出会い、ただ一言、声を掛けられるためだけに研究を重ね、そしてその百年後――逃れられぬ死を前に最期の力を振り絞り、最後の実験を。


ほとんど骨と皮の老人となっていた彼が目にしたのは、どこまでも美しい世界。

少しするとふわふわと、空から舞い降りる一人の少女

――おお、誰かと思いました。久しぶりですね、ねむねむ。

彼女とほんの少し会話を交わし、世界は平和なままであること、そして彼女の残した魔水晶を解いたことを伝えると、彼女は微笑み頭を撫でる。

その感触に目を閉じて、もはや未練はないと、そのまま彼は満足そうに眠りについた。


△歴史上

千年帝国クラインメールの初代皇帝にして、魔導の神髄を極めたとされる偉大なる魔術師であり、その頂点、法術師として名を刻まれる。

ただ一人で軍の戦略を左右する程の力を持ち、極東平定の際、その力を振るい十人で万の軍勢を壊滅させた逸話は有名。

歴史上では彼と彼の率いた大魔導をはじめとする『魔法刻印者』、魔導師達の登場が英雄の時代を終わらせたと見る場合が多い。

女王とアルベリネアに匹敵する魔術師とされることもあるが、エルゲインスト自身は、自分が二人の足元にも及ばぬ存在であると語っており、「アルベリネアを己が名乗ること自体あまりにおこがましいことだ」と口にしていたことが当時の手記に残されている。

事実として現在までアルベリネアの魔水晶を解明出来たものはいないことから、アルベリネアがその言葉通り別格の存在であったと見なす場合が多い。


決して私心によるものではなく、大陸の平穏のために立ったのだと常々語っており、彼の代において大きな改革は行われず、政治はアルベラン末期と変わらず議会を中心に行われ、彼自身は象徴としての皇帝であるとしている。

議会には拒否権を手にしながらも、基本的にはそれを取り纏める議長として参加し、議会が安定した後はその決定に口を挟むことはせず、その拒否権を行使することもなかった。

女王クレシェンタ同様、華美を好まず、己のために贅沢をせず、そうした姿から次第に民衆からも受け入れられ、彼女の正しき後継者であると見なされるようになる。

それを模範として次代からの皇帝も強権を持ちながら振るわぬことを美とし、その慣習を数百年に渡り受け継いでいくことになり、彼が歴史に名を残すべき名君であったことを疑うものはいない。


政務の傍ら日々を個人的研究に費やしていたことを知られており、退位の後はそれに没頭。実験の失敗により死亡したと考えられている。

その目的に関して口にすることはなかったが、偉大なるアルベリネアにもう一度お目に掛かりたいと語っていたことがあり、死者の復活や時間移動を目的としたものであったのではないかとされている。

非常に長い期間その若さを保ち、二百年を生きたが、特別な延命術を確立していた訳ではなく、晩年は老化が進んでいた。

この二百年が純粋な肉体の魔力掌握による一つの寿命限界と考えられることが多い。


外見:床に垂れるほどの長い白髪。茶の瞳。病的な痩せ身。開いていても閉じているかのような目。長い髭。

→クリシェ:女神。輝ける道標。自分に目標を与えてくれた存在。

得意:魔術。魔法。魔導解析。魔導兵器設計。

好き:アルベリネア。アルベリネアの魔水晶解析。

嫌い:アルベリネアの叡智を悪用するもの。

悩みごと:なし。




●ワルツァ=タルク=ガシェアリネア=レーミン 『混沌・善』

真面目な青年の悪友系男子。公爵。魔導帝国軍大元帥。

クラインメール皇帝、エルゲインスト=ラミルの幼なじみ。

祖父であったアレハに引き合わされてからの付き合い。剣と外を好むワルツァとは正反対で、不健康に昼夜引きこもり、人と関わらず魔術研究にのめり込むエルゲインストを心配し、無理矢理外に連れ出したことが切っ掛けで仲良くなる。

家庭教師から逃げ出す度エルゲインストの所へ入り浸る生活が続き、最終的にエルゲインストを半ば家庭教師として招き、学問を教えてもらうことになった。

エルゲインストは学問においてもその吸収力から学者に近い知識を持っており、彼に教えてもらうならば文句は言われず、友人同士なれば堅苦しくもない。

そう考えての打算的提案であったが、誰かに知識を教えることで自分の理解が深まるとエルゲインストは認識。良い機会と熱が入り、その教育は最終的に家庭教師以上に厳しいものとなって行き、そのことを深く後悔することになる。


クリシェを失ったエルゲインストを生かすための方便として、祖父達の願いでもある速やかなクーデター――そして建国戦争という目標に意識を向けさせ、象徴としての責任を負わせたが、彼の望む生き方とそぐわぬ役目を押しつけたことを最期まで悩んでいた。

彼自身、無責任に国を放り出したクリシェやクレシェンタに思うところがあり、特に王国の未来のため、民衆のためという強い理想があった訳ではなく、その大部分は敬愛する祖父や父の遺言という個人的な想いからの行動。

彼を奮起させるため理想家振り、これがクリシェの望んだ願いでもあると口にしながら背中を押したものの、結果として友人を逃げられない立場に追い込み、大きな重荷を押しつけた事を申し訳なく思っていた。

慣れぬ皇帝という立場に心を殺し続ける友人の姿を眺めつつ、その立場に追いやった自分が口にして良いものかを深く悩んだが、自分の死が迫り、そんな彼のその後を案じて決心すると、最期にそれを打ち明ける。


お前は十分に働き、クリシェの望みを叶えた。

だから次は人として、お前の本当の望みを叶えるように、と


△歴史上

クラインメール魔導帝国初代大元帥にして、初代魔導皇帝の腹心。

クラインメール建国戦争における英雄の一人であり、クーデター、そしてその後の戦争における主体となった。

軍略、そして実際の戦闘においてエルゲインストが誰より信頼したその右腕であり、ジャレィア=ガシェアをはじめ多くの魔導兵器を手にしていたとはいえ、二十七の会戦において無敗の戦績は彼の軍事的才覚とその造詣の深さを示しており、アルベリネアが失われた当時、一、二を争う名将であったことは疑う余地がない。

魔導兵器運用に重点を置いた多くの軍事教本を残していたと思われるが、大部分が消失しており、原本は残っていない。

ただ、クラインメール時代の軍事関連書籍にはそれらを参考に作られているものが多く、その引用が多く記された。


初代皇帝エルゲインスト=ラミルとは幼い頃からの親友であったと語られ、エルゲインストと彼を主役とした歌や物語がいくつも残っている。



●クーラン=ラミル 『秩序・善』

一歩足りない苦労人系男子。研究院副院長。

魔術研究院、院長ティル=ラミルの長男で、魔術師夫婦の間で生まれたサラブレット。

血筋故か、幼い頃から優秀な少年であったが、王国中から天才と呼ばれる者達が集まる魔術研究院という場所を見せられて育った結果、自分に自信が持てない性格。

失敗を強く恐れ、術式の刻印は神経質な性格もあって不必要なまでにこだわってしまい、実力は十分ながらもその気性から院長の座を逃した。


非常に丁寧な刻印を行える人間であるため、クリシェからは評価が高く、そのため直々に指導を行なってもらうことも多かったが、その非常に細かい指導が逆に彼の神経質な面を助長させ、悪循環に陥った(当然ながらクリシェは気付いていない)経緯がある。

そうした事情から若い頃にはクリシェに苦手意識を持っていたが、副院長という座についたことで自分はこの辺りが丁度良かったのだと諦めもつき、それも次第に薄れ、子供のような彼女を敬愛する一人となっていった。


△歴史上

エルゲインスト=ラミルの父。アルベラン王国魔術研究院副院長。






■――『ヴァーカス』の登場人物


●クラーゼ 『混沌・中立』

家族を作りたい小悪党系男子。グランメルドの兄貴分。ヴァーカスのリーダー。

慈愛の神アルメラを祀る神殿に併設された、孤児院の出身。

軍人の父は戦死、母も病死したことである孤児院に身を寄せることになるが、孤児院は奴隷商人と裏で繋がり、人身売買を行なっていた。

姉代わりだった少女が売られたことが切っ掛けとなり、彼女を捜すため、弟と共に金を盗み孤児院を出ることになるが上手く行くはずもなく、最終的には貧民街に流れ着き、そこで生活していくことになる。

母は商家の娘で、幼少期に良質な教育を受けて育ったこともあり、スラムで子供達のリーダーとして頭角を現すも過酷な生活。弟が病で死んだこと、薬を買う金も医者に診せる金もなく、それを助けられなかったことがトラウマとなり、その日暮らしではない安定した生活を強く欲するようになった。

『ヴァーカス』という名の少人数のグループを維持し、身内と外を明確に分ける理由もそこにあり、身内を失う悲しみを恐れていたためという面が強い。

――これほど元気ならば、自分よりも先に死ぬことはないだろう。

身内を増やそうとしない彼がある日出会った子供を拾った理由はそのようなもので、臆病で穏やかだった弟とは真逆の性格であったが、弟の名を与えた理由もそこから来る。




○カーリス=デアド=リネア=トーヌ 『混沌・中立』

豪快な荒くれ者系男子。ヴァーカス軍将軍副官。元野盗。

かつてのガルシャーンとアルベラン、その競合地帯の出身者で、シャーン人との混血。

故郷では両方の言葉が飛び交っており、西部共通語とシャーン語二種を操れる。

短気な性格もあり、親と喧嘩し細工師の実家を出て隊商護衛となり、二カ国語が話せ腕っ節が立つことから重宝されるも、そこでも喧嘩続き。

ガルシャーンからエルスレン、そしてアルベラン北部へと喧嘩別れを繰り返した結果、人に雇われるに向かないと賊になった。

経験から隊商に対する知識が豊富で、大樹海で通行料をせしめ、他の賊を狩り縄張りを広げていたが、賊狩りのグランメルドの噂を聞いて決闘を申し込み、それに圧倒され敗れたこと、そして自分以上に自由に生きるグランメルドの生き方が気に入り傘下に加わることになる。


筋骨隆々の大男で大斧を扱い、『大雑把な顔』と表現される何もかもが大きい見た目にそぐわず、非常に頭が切れ、グランメルドからも信頼される部下の一人。

べーギルが異動してからはグランメルドの副官として戦場を駆けた。

大きい鼻を気にしている。


△歴史上

グランメルド=ヴァーカスの副官。

彼に似た大男で、大斧を自在に振り回す猛者の一人として知られた。

軍属前から彼に付き従った部下であるとされ、元は同じく野盗であったと考えられている。




●トクスレニア=リネア=アールジア 『秩序・悪』

暗黒面に堕ちたお坊ちゃん系男子。大隊長。

北部では長く続いた名家、アールジア家の次男。

歳の離れた優秀な兄と比較されて育ちながらも、元々は心の優しい青年であり、自分の役割は兄を補佐するもの、として穏やかな日々を送っていた。

しかし敬愛した長男が戦死。彼の代わりに嫡男として軍に入ったことでその重責に押しつぶされることになる。

大隊長は兄の元副官。その縁と家柄から大隊予備の百人隊長という地位を与えられたものの、荒事に向かないその性格や能力も把握していた大隊長はトクスレニアを信頼せず、名家の出身者、元上官の弟として危険を遠ざけた。

隊員達もそんな彼に対して家柄だけのお坊ちゃま貴族、素晴らしい大隊長であった兄とは似ても似つかぬ軟弱者であると陰口を叩き、そしてそんな彼の目に映るは輝かしき武勲を挙げる百人隊長ガーレン。

兵も百人隊長達も、大隊長ですら手放しで称賛する叩き上げで、平民出身者にもかかわらず、下流とは言え彼の部下である貴族達も心からの敬意を向けていた。

部下達はトクスレニアではなくあんな上官が欲しかった、と口々に語り、強い劣等感と焦りに苛まれていた頃、大隊本陣への強襲。

大隊長達の戦死によって転がってきた機会に死に物狂いで飛びついた。


だが、手柄を強引にもぎ取り大隊長となってからも、軽蔑は日々強まった。

何故ガーレンではなくトクスレニアが大隊長なのか、と彼らは皆その目で語り、どれだけの努力をしようと消える事もない。

次第に劣等感はガーレンへの敵意に代わり、権力を用い、合法的に彼を始末することを考えるも、ガーレンは死地から当然のように帰還し、信じられない手柄を挙げ続けた。

百人隊中の百人隊、兵士達の英雄として彼らの名声が高まるほど、トクスレニアの悪評は強まり、その頃にはもはや、トクスレニアには責務以上に彼をどう軍から消し去るかということだけを考える。

そうして高潔と知られる彼に村焼きを命じ、軍を追い出すことに成功したが――僅かながら彼へ憐憫の情を抱いていた者達にさえ見放され、その次の戦、本陣強襲を受けたトクスレニアは孤立したまま戦死することになった。


無能な上官はいないに限る、と密やかに語られて。



○ロシーネ=ヴァーカス 『中立・善』

押しの弱い押しかけ妻系女子。グランメルドの妻。

グランメルドに管理領地を任される能吏の娘。

彼の父は元々ヴァーズラー商会の商人で、ノーザンに引き抜かれ彼の下で資産の運用や商取引を任されていた。

母親もまたヴェルライヒ家の遠縁で、ノーザンはボーガンが好まぬパイプ作りに余念がなく、そうして地盤を固めて盤石のものとしていったが、問題はグランメルド。

地盤固めや領地運営に全く興味もやる気もないグランメルドに頭を悩ませたノーザンが彼を送り込んだことから、ヴァーカス家全体のことを任されるようになる。

ロシーネはその頃に生まれ、ぶっきらぼうながらも穏やかなグランメルドに懐き、父と同じくヴァーカス家に仕えるため猛勉強を開始。

半人前ながらも父を手伝い彼の側で過ごす内にそれが恋心となったことを自覚し、猛烈(彼女の中で)なアピールを開始する。

食事、飲み物の好みを把握し常に細心の注意を払い、帰りは必ず出迎え、酒を飲めば率先してつまみを作り、ちょっとした用事で彼の所を訪れ相談しつつ、何かと遅くまで残って仕事を行い、週の半分は屋敷に泊まった。

しかし緊張から表情は硬く、笑顔の一つを見せることはなく。

グランメルドは単に生真面目な性格なのだと感心こそすれ、そうしたアピールには一切気付かず、十年近くをそうして過ごす。

グランメルドが時折口にする些細な気遣いや褒め言葉。

気持ちは少なからず伝わっているはずと自信満々であったが、「家のためを考えているなら安心して好きな男の所へ行け」と言われたことに衝撃を受けて泣きだし、グランメルドを非常に困らせた。


生活に女性にと、色々だらしないグランメルドに小言を口にしながらも、その妻として世話をする生活が非常に気に入っており、その後も平和な日常を彼と共に過ごした。

そんな二人の姿を見たノーザンも『首輪で繋がれ犬になった』と、かつての狂犬を示して笑った。



■――『かつて神の座にて』の登場人物


○ボロク=リージア=アンドルゼア 『混沌・善』

不世出の山男系男子。登山家。伯爵。

世界で最も高き場所、グレイビャルベ(クリシェ達の時代にはグラバヤールベ)における単独登頂を成功させた偉人。

それまでも数々の山、世界樹を制覇しており、登山界に知らぬものはいない。

非常にストイックな人物で、他者に驕ることなく己をただいじめ抜き、鍛え上げており、並の魔術師とは比べものにならない高い身体能力を誇る。

無数の頂点を極め、出版した書籍で莫大な利益を得たが、生活も質素倹約そのもの。登山具の改良と制作、旅費や聖地や私有地入山のための賄賂に惜しむことなく注ぎ込み、出版した書籍から得た利益のほとんどを登山のために費やした。

グレイビャルベ登頂後はその人脈を活かし、故郷の発展と繁栄に全力を注ぎ込んでおり、これと決めたら突き進む猪突猛進タイプ。

『ニルカナ売りの姉妹』とエプロンドレスを見たことで、『かつて神の座にて』という本を出版。

それまでの山行を振り返った自伝を兼ね、以前記さなかった女神達との出会いを記すことになったが、一部のアルベラン研究者の興味を引き、遠方から直接彼の所へ話を聞きに来た。


△歴史上

秋季グレイビャルベ単独登頂で知られる不世出の登山家。

不可能と思われていたグレイビャルベへの登頂。アンドルゼア南壁ルートは多くの登山家達に夢を与えたが、その後三百年もの間、グレイビャルベ唯一の登頂者として君臨し続けた。

死と生の狭間にある克明な山行記録は物語性も強く、登山に興味のない一般層にも好まれ、グレイビャルベ登頂後は特に絶大な人気を誇ったとされる。

数十年の後に綴られた『かつて神の座にて』にはグレイビャルベ登頂の真実、女神との邂逅についてが記され、物議を醸した。

神となったアルベリネア達であったのではないか、と一部のアルベラン研究者の中で今なお語られている。



■――『少年とおねえさん』の登場人物


○キューリス=エニス 『中立・善』

昔は腕白小僧だった系男子。貸本屋。剣術指南所師範代。

アルベリネア伝説に憧れ黒旗剣術指南所に通う少年。

ただ、いざ対面したアルベリネアはまさに近所のお姉さん。剣に欠片の興味も示さず、差し入れに手作りクッキーを持って来てはのんびりと隊員達と過ごし帰って行く謎の人物で、数々の逸話に描かれるアルベリネアとは似ても似つかぬ存在であった。

来る日も来る日も剣など振りもせず、エプロンドレスで紅茶を注ぎ、クッキーを食べつつ歓談――ある日、少年はそんな彼女に長年(二年)の疑問を尋ねることになる。


アルベリネアの次元が違う強さを見てからはしばらく、彼女を見ると緊張していたが、あちらはいつも通りのクッキーお姉さん。

再び以前と変わらず、『少し変わったお姉さん』として接するようになった。

その後は家業の貸本屋を継ぎ、指南所では師範代として少年少女に剣を教え、クリシェがいなくなってからは彼女についてを教え聞かせた。


△歴史上

黒旗剣術指南所の当時を手記に残しており、アルベリネアの姿について記された貴重な記録の一つとなった。

子供のように幼げな気性、子供達にクッキーを配り微笑む姿は『気高き鷹の館にて』他、アルベリネアについて記された一部の史料と一致しており、アルベリネアに関し非常に好意的な印象を抱いていた様子が窺える。

また、館長であった黒旗特務中隊隊長、ミアに関しても一度だけ見た投槍の凄まじさについて語られ、本来はカルアに匹敵する戦士であったのではないかと憶測を交えて記された。




○シェリシア=キルスベーグ(エニス) 『中立・中立』

巷で噂の高嶺の花系女子。剣術指南所筆頭師範。

クリシェとカルアに憧れ、剣術指南所に通う少女。

父子家庭であったこともあり一人で過ごす事も多く、自分の身は自分で守るという意識が強くあり、軍人であった父からは小さな頃から剣の手解きを受けていた。

目が良く頭が切れ、才覚に恵まれている。

特にカルアの剣を目に焼き付けて真似、試行錯誤を繰り返していたが、交流会でクリシェの剣を見たことで花開き、そこから目覚ましい成長を遂げた。

それからクリシェに強い憧れを抱くようになり、二本の尻尾のように髪をくくり、剣と料理に力を注ぐようになる。


父子家庭であったこともあり、父が不在の時にはキューリスの家に泊まることが多くなり、仲を深めた。

ただ、結婚するなら自分より強い相手と冗談交じりに口にしてしまった上に、実力差がついてしまい、強くなりすぎたことを後悔。

最終的に敗北を繰り返すキューリスに痺れを切らして、館長達に相談。

『剣が強かろうが弱かろうが、好きな人は好きで良いと思うのですが』

というあっさりしたクリシェの言葉を聞いて、わざと負けた。


後にカルアの後継者として筆頭師範を継ぐ。


△歴史上

黒旗剣術指南所、二代目筆頭師範。

キューリス=エニスの妻、その手記に剣達者な美女であったと記される。

手記においてはアルベリネアとカルアの剣、その一端を受け継いだとされ、二人に似た剣を操ったと残された。




○メルケス=キルスベーグ 『中立・中立』

若さ故の過ち系男子。百人隊長。シェリシアの父。

解体戦争では軽装歩兵隊の新兵として従軍。ジャレィア=ガシェアの破壊力を目の当たりにしたこともあって、勝ち戦と功を焦って深入り。ジャレィア=ガシェアの作った死体に足のつま先を引っかけ、敵の眼前で転倒した。

偶然側をクリシェと黒旗特務が蹂躙したことで眼前の敵が逃亡し、九死に一生を得る。

無謀で拾った幸運に二度目はない、と上官に強く説教され、その後はそうした失敗を糧に軍人として着実に戦果を挙げて行き、統一戦争後、百人隊長に昇格した。


妻が病死した後、笑顔の少なくなったシェリシアが指南所へ通い始めてから友人を作り、再び笑うようになったことを喜び、結婚後は孫の顔に相好を崩した。

クリシェには若干の恐怖心と苦手意識があり、最後まで慣れなかった。




○ウェスリアル=ザイン 『秩序・中立』

巨人の一歩で踏みにじられる系男子。ザイン式剣術正統後継者。ザイン剣術道場館長。

剣の家ザインに生まれ、物心ついた頃から剣の道を歩んだ達人。

ザイン家は貴族として名を残す名家であるが、技の追究と継承を第一とし、『剣技をもって王家に仕える』という方針から随分前に爵位を返上。その継承者達も貴族達の剣術指南役としてその多くが各地に散らばっている。

技の継承が途絶えることを恐れ、特に一族のものは戦場に出ることはあまりなく、王家や公爵家など有力貴族の家に招かれ、剣術指南や道場経営で生計を立てた。


その時代一の使い手が正統後継者を名乗る、という決まり事は今もなお受け継がれており、代替わりの際は各地のザイン継承者に声が掛かり集められ、最も強きザインの使い手が選ばれる。べーギルのように何かに縛られることを嫌ったり、参加しないものもあるものの、数代に一度はザイン家ではない正統後継者が現れる公正な戦い。

そこで勝ち残ったウェスリアルも達人中の達人と呼ばれる腕前の持ち主だが、クリシェを前に手も足も出ず実力の隔たりを思い知らされた。

その後は彼女の剣に剣聖アルカラスの求めた究極の剣、その実在を感じ、数代振りに秘伝の書へ、アルベリネアの教えを噛み砕き、書き加えていくことになる。

彼女をよく知るベーギルからも話を聞こうと交流が増えたが、話は常に脱線し、あまりその方向では役に立たなかった。


△歴史上

アルベリネアの強さを語る逸話の一つとして出てくる、ザイン式剣術の達人。

その後は彼女の弟子として剣の指導を受けたと記される。

現在もその流れを汲む流派には、かつての秘伝書にアルベリネアの剣について記されていたと残され、その奥義を受け継いだとされる流派も残っているが、その原本はクラインメール崩壊時に焼失した。

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