番外編 保護者

ガーゲインのクリシュタンド屋敷。

まだ十も数えぬ、幼い金の髪の少女は不機嫌そうに机の上にある布を眺めた。

木板の上に布が伸ばされ、木炭で細かく記されるのは長い数式。


勉強の際に使うのは基本的に、洗って使い回すために布を使った。

羊皮紙もただではない。

父も母も無駄な金を使うことを嫌っており、セレネにとってもこれが普通だった。


「式も順序も正しいですが、ただ、ここの計算が間違ってますね」


赤毛の髪の使用人――ベリーはセレネが詰まった問題を一目眺めると、悩む時間もなく修正点を指摘する。

長々とした式の中、瞬きの時間で。

ベリーはいつだってこの調子で、セレネは唇を尖らせる。


「……ベリーは何でもわかるのね」


家庭教師から教わった算学の復習。

母は人にものを教えるのが下手で、勉強を見るのは大抵ベリー。

聞けば何でも答えるし、セレネが理解出来ない問題を見ただけで容易く解いた。

式を書くでもなく、複雑な計算すらを造作もなく。


「そんなことはありませんよ。分からないことの方が多いくらいです」


いつも困ったように笑う人――それが彼女の印象だろう。

セレネが何かを言ったりすると、決まってベリーは困ったような笑みを浮かべた。

得意げな顔を浮かべるでも、馬鹿にするでもなく、どうしたものか、と考え込むように笑うのだ。


「ベリーが分からない事って何?」

「……そのご質問のように、漠然としたものでしょうか」


また、少し困ったように。

ベリーは笑みを浮かべて告げる。

控え目で清楚で、ベリーが母のように大声で笑う所を見たことはなかった。


「例えば、この算学は単純です。順序を守り、計算を積み重ねていけば答えが自ずと出ますから。要点は一つ一つを丁寧にすること。お嬢さまの式は正しいものですし、今回は初歩的な計算ミス。わたしがいなくとも計算しなおせば正しい答えは出たでしょう」


指先で唇をなぞる。

彼女が考えごとをするときの癖。

美しい彼女のそんな姿は、どこか色気があった。


母の妹――顔立ちの雰囲気こそ似ていたが、赤毛を除けば一目に姉妹とはわかるまい。

明るく華やかで分かりやすい母とは真逆、ベリーの気性は大人しく――悪く言えば暗く、何を考えているかも分からない。

賢くて何でも出来るのに、何一つ誇らず、ただ当然のようにその場にある、そんな人。

物心ついた時から一切変わらぬ姿は、無機質でどこか人形染みていて、だからこそそうした些細な癖や仕草に視線を奪われるのかも知れない。

色のない絵画がぽっと色づくように。


「けれど、世の中には答えのない問題の方が沢山あります」

「答えのない問題?」


ベリーは頷いた。


「例えばそうですね……世界で一番美味しい料理は何か、だとか。お分かりになりますか?」

「……、ミートパイ?」


少し考え込んでセレネが答えると、ベリーは苦笑した。


「では、お嬢さまの夕食は今日から毎日ミートパイでもよろしいでしょうか?」

「む……」

「ふふ、少し意地悪でしたね。でも、そういうことです」


木板から布を外すと、新たな布を張り付け丁寧に伸ばし。

その四方を留めながらベリーは言った。


「何が良くて何が悪いか、何をすれば喜んで、何をすれば怒るのか。数字で表わすことの出来るものに答えはあっても、人同士の関わり合いとなれば正答はなく」


そして木板を机に置き直すと、外した布をくるりと翻し、何とも鮮やかに畳んで籠へ。

洗濯前の布を畳んでどうするのか、といつもセレネは思うものだが、これは彼女の性分なのだろう。

母とは正反対、ベリーはとても几帳面だった。


「そこに答えが一つだけならば、お嬢さまにミートパイだけを作って差し上げれば良いでしょう。でも、世の中というものはそう単純ではありません」

「……ベリーはいっつも、そんな小難しいこと考えながら料理を作ってるの?」

「いつも、ではありませんが……」


時々です、とまた困ったように。


「お嬢さまのお好きなミートパイでも、毎日食べれば飽きるように。正しいことがいつも正解ではありません。正しさは単なる指標であって、それ以上のものではなく……答えの出ない問題というのはそのようなものでしょうか」


彼女の言葉は分かりやすいようで難しく。

腕を組んでむぅ、と考え込むと、ベリーはくすりと微笑んだ。


「話のついで。今考えずとも、いつかお嬢さまの前にもそのような問題が出てきますよ。お悩みになるのはそれからで十分でしょう」

「心構えというものは重要だってお父様が言ってたわ。そういう大事そうな話は知っておくべきだとわたしは思うの」


大人ぶってセレネは腕を組み、言って。

ベリーはじーっとセレネを見つめ、木板を眺め。

何も言わずに用意したばかりの木板から布を取り外し、綺麗に畳んで片付ける。


「今日はこれで復習も終わりとしましょう。勉強疲れもお有りでしょうし」


ポットから紅茶を新しく、部屋に置いていたクッキーを机の上に。

勉強に飽き飽きというセレネの気持ちを見透かしたのだろう。

セレネは何やら恥ずかしく、頬を赤らめつつその様子を眺めた。


「……例えば法は一つの正しさ。法を犯せば悪人で、悪いことです。……これは正解でしょうか?」

「……、正解じゃないの?」

「一つの正解ではありますね。社会的に見た場合、それは紛れもない悪で、それを行う人は悪い人、犯罪者です」


紅茶を注いで、カップをセレネの前に。

椅子を持ってくると斜め前に彼女もまた腰掛ける。


「ただこれも一つの視点でしかなく、社会から見た悪いことでしかありません」

「……?」

「……そうですね、飢え苦しむ貧民が、我が子のためにパンを盗んだとしましょうか」


ベリーはクッキーを一枚取って、手の中にそれを隠した。


「社会的には悪でしょう。けれどその個人にとっては選択肢もなく、我が子の飢え死にを避けるためにはそうした手段しか存在せず。……この方は果たして、悪と言うべき方なのでしょうか?」


セレネは眉間に皺を寄せて、ベリーはそれを眺めると苦笑する。


「きっと、そうだと断定出来る方はいらっしゃらないでしょう。ある面で見れば悪であっても、個人としてその方が悪人という訳ではなく、その子供からすれば罪を犯してまで自分を守ろうとする立派な親かもしれません」


視点なのです、とベリーは言った。


「世の中には無数の視点があって、その数だけ正しさがあり、善悪があり。……戦もそうですね、アルベランからすれば悪しきエルスレン、しかしエルスレンの民も同じくこちらのことを、悪しきアルベランと思っていらっしゃるでしょう」


セレネは黙ってそれを聞き、考え込み。


「正しさなどというものは、視点や立場によって変わるもの。飢えたことのない立場から盗みを働く貧民を非難するのは簡単ですし、敵国民を悪し様に言うのも容易いこと。けれど正しさは決して、たった一つの正解という訳ではありません」


答えのない問題ですね、とベリーは言い、クッキーを更に一つ手に取ってセレネの口元に。

それを咥えると、ベリーもまた手の内に隠したクッキーを口にした。

蜂蜜の甘味にほんの少しの塩気――ベリーの作るシンプルなクッキーは、不思議なことに飽きがない。


今日はいつもより少し塩気が強かった。

セレネが剣の稽古をして汗を掻いていたからか、それで適量に思え、美味しく。

気付こうとしなければ気付かぬ程度の、些細な心遣い。

彼女の語る言葉もあるいは、そのようなものなのかもしれない。


「望む望まずに関わらず、お嬢さまもそのような問題にも直面するでしょう。その時貴族として、正義を振りかざす事はきっと一番簡単な選択です」

「……簡単?」

「はい。簡単で選びやすいからこそ、そんな正しさに振り回されることなく、様々な視点からその場に応じた正しきを。それを考えられる事が何より重要で、大切なことだと言えるでしょう」


とても難しいことですが、とベリーは言って、セレネは考え込む。

父の言う、安易な道に逃げるのは良くない、という言葉と似たようなものであろうか。

半分ほど理解は出来ず、曖昧に頷き。

ベリーは苦笑して、優しくセレネの頭を撫でた。


「ふふ、まだ少し、お嬢さまには難しい内容でしょうか。今お悩みにならずともいずれ、法学を教わる際に同じようなお話を聞くことになるかとは」

「むぅ……」

「……お嬢さまにこんなお話をしていると、また余計な事を吹き込んでるだなんてねえさまに叱られてしまいますね」


それからくすりと、どこか幸せそうに微笑み。

その瞬間、扉がばーんと勢いよく開かれた。


「全く、その通りよベリー。またセレネに余計な事を吹き込んで。セレネまで頭でっかちになっちゃったらどうしてくれるの?」


両手を腰に当て、胸を張ってふんぞり返り。

赤毛の長い髪を揺らしながら、座るベリーを見下ろしながら。

美しい母は不機嫌そうに眉根を寄せてずかずかと、部屋の中へと入室する。


「ねえさま、人を責める前にご自分を省みてください。……盗み聞きは感心しません」

「盗み聞いた訳ではなくて、たまたま疲れて扉にもたれ掛かっていたらあなたたちの声が聞こえてきただけよ。失礼ね」

「それを普通は盗み聞きだと言うと思うのですが……」

「あなたの視点ではそう見えるだけじゃないかしら。いいかしら? ベリー、正しさというものは世の中に沢山あるのよ」


う、とベリーは弱々しく、頬を染めて母を睨み。

しばらくして嘆息すると、立ち上がり、開けっ放しの扉を閉めに行く。


「あの、お母様、お仕事は……」

「あなたたちが楽しそうにお勉強会してる中、わたしだけ一人で寂しく仕事するのに飽きたの。ベリー、手伝ってちょうだい。計算しなきゃいけないことが多いの。紅茶も欲しいわ」


母は手に持っていた羊皮紙の束をベリーの座っていた所に置くと、椅子を適当に持って来て自分も座り、クッキーを頬張る。

そんな母を見てベリーは呆れたように嘆息し、新しいカップを手に取った。


「んー、おいし。駄目よセレネ、ベリーの言葉を真に受けていると頭でっかちなお馬鹿になっちゃうわ」

「……ねえさま、ですからそのようなことを仰るのはやめてくださいませ。色々とやりにくいです」

「仕方ないじゃない、事実だもの。ベリー、ついでに肩を揉んでちょうだい」

「……もう」


少し拗ねた調子で肩を竦め、ベリーは母の前に紅茶を。

それから特に嫌がりもせず、母の肩に両手を当てて揉み始める。


二十歳を過ぎたばかり――けれどベリーはセレネと比べるとずっと大人だった。

しかし母と接するときのベリーはほんの少し幼く見え、叔母と言うよりはお姉さんと言った調子で、ほんの少し雰囲気が柔らかく。

何でも出来る彼女は、不器用で大雑把、何ごとにも適当な母にだけは弱かった。

彼女の唯一の弱点はきっと、そこにあったのだろう。


「……これは?」

「魔水晶はしばらく塩漬けしておいた方が良いでしょう。魔術師が買い集めているという噂を聞きました。……それよりも高騰気味の小麦を南部から流通させることが重要ではないでしょうか。この数年、北部の気候は乱れていますから」

「お金がないわね」

「クリシュタンドの小麦をそのまま管理領地に流して、対価に人夫を雇っては? 戦も終わって、しばらくは右肩下がりです。街道が整備されれば多くの問題は解決しますから、今のうちにそちらへ手をつけておいた方が良いと思うのですが」


ボーガンに言ってみるわ、と母はそのまま報告書の束を捲る。

手に取ると戦での戦功、その褒賞として与えられた管理領地からのものだった。

ここからそれほど遠くはない小さな鉱山であるらしいが、セレネは見たこともない。


母はベリーに肩を揉ませながら、その羊皮紙の束をぺらぺらと捲り質問し。

ベリーは母の肩を揉みながらその質問にさらさらと答えた。

ほとんどは数字の羅列、少なくともセレネにはそのようにしか見えないもので、けれど二人のやりとりは淀みなく。


何やら置いてけぼりにされた気分で、セレネはクッキーを食べつつ頬を膨らませる。

こういうことは一度や二度ではない。

時々二人は大人の会話というものをして、その度セレネは蚊帳の外。

――算学もまともに出来ないお子様だから仕方がない。

そう理解はしつつも、何やら納得いかないものがあった。


母は時々妹だからとセレネから使用人を奪い。

ベリーは時々妹だからとセレネから母を奪うのだ。


二人の邪魔をしないよう黙ってクッキーを頬張り、紅茶を飲みつつ、気付いて欲しくてぱたぱたと両足を揺らし、ますます頬を膨らませ。


「ベリー、これはどうしたら良いかしら?」

「え、ええと……そうですね……」


わからない質問があったのか。

声色でベリーが困り顔を浮かべているのに気付き、いい気味だ、とクッキーを歯で砕く。


「こういうとき、直接的なアプローチを行うか、間接的なアプローチを行うか、わたしは迷うことがあるの。とても悩ましいわ」

「ねえさまが間接的なアプローチを行うところを見たことがない気がするのですが……」

「失礼ね。今日のわたしは違うわ、ベリーに任せようと思うの」

「えぇ……?」


ますます困った様子であるらしいベリー。

若干の興味がそそられたものの、そちらには目を向けない。


「ほら、ベリー。姉の命令よ」

「あ、あのですね……」

「ほーら、いつものわたしみたいにやるの。早く。じゃないと拗ねるわよ」

「うぅ……」


自分は不機嫌なのである、という態度を作りつつ、セレネはただただクッキーを食べ、頬をただただ膨らませ――


「申し訳ありません、お嬢さま……」

「……ぅにっ!?」


その頬を背後から、両手で優しく押し潰される。

ぷひゅーと間抜けな音が響いた。


「ふふっ、セレネったらおかしな顔……っ」


顔を上げると愉快げに母が腹を抱えて笑っており、ねえさま、と頬を押し潰したベリーが呆れたようにたしなめて。

セレネは顔を真っ赤にしてベリーを睨んだ。

ベリーはお許しください、と苦笑しながらセレネを横抱きに、そのまま膝の上に座らせる。


「申し訳ありません、お嬢さまをのけものにしたつもりはなかったのですが」

「……わ、わたし、別に怒ってないもの」

「本当セレネは素直じゃないわね。どこかの誰かを見ているようだわ」

「……ねえさま。そういう茶々を入れないでください」


呆れたように言いながら、嫌がるセレネの体を押さえ、頭を撫で、頬を撫で。

セレネが諦めると優しげに、ふふ、と小さく笑みを零した。

どこまでも優しげな笑みで、何やら恥ずかしくなって目を逸らし、また頬を膨らませ。


「まぁ、お冠ですね」


くすぐるように頬を指で押し、ぷひゅる、と再び間の抜けた音。

不満を浮かべて睨み付けると、興味深そうにベリーはそれをじっと見つめ。

何がおかしいのか、楽しげに肩を揺らしながらセレネをぎゅっと抱きしめ豊かな胸に押しつけた。


「ふふん、セレネの可愛さにめろめろかしら? あなたは色々と屁理屈を捏ねる前に、まず目の前にあるものを愛でるべきだわ」

「……、いつも屁理屈を捏ねてらっしゃるのはねえさまだと思うのですが。ねえさまはどうしてそう……」


ベリーは首を振って、それから続ける。


「……でも、そうですね。ふふ、ねえさまと違ってとても、可愛らしい方です」

「なんだか失礼な言い方だわ。この世で一番美しいおねえさまになんてこと」

「ご自分でそんなことを仰って、どうして恥ずかしくないのかいつも疑問に思います」


抱かれながらも再びのけ者にされているような、そんな感覚。

胸から顔を上げて睨みつけると、ベリーは小首を傾げて見返し、それからふっと微笑んで。

セレネの頭を優しく撫でつつ、胸の中へと押しつける。

そうされるとどうにも出来ず、セレネは黙り込むしかなく、撫でられるしかなく。


多分きっと、そうした記憶があるからだ。

叔母であれ、姉であれ。

セレネにとってベリーはいつでも自然と上にあって、知らず知らずと甘やかされるそんな存在で――それは苦手意識と言うべきものか。

真っ向からは勝てない相手、とどこかで思ってしまっているのだろう。


生まれた時から、ベリー=アルガンはセレネ=クリシュタンドの保護者であった。







ぷひゅー、と頬から空気が抜ける音。

間の抜けた音を響かせた、ストロベリーブロンドの少女は「何をしますの!」と実に不機嫌極まりない顔で頬を突っつく赤毛の使用人を睨み付ける。

今日は何で怒っているのだったか――クレシェンタが拗ねるのも、ベリーを罵倒するのもいつものこと。

何にせよ大したことではない。


「あなたはこのアルベランを統べる女王をなんだと思ってますの? 身の程を弁えるということを知らないのかしら?」

「まぁ、お冠ですね」

「むぐ……っ」


クレシェンタの頭を撫でつつ胸に押しつけ、くすくすと笑い。

それを眺めつつセレネは呆れたように言った。


「……あなたってやっぱり、昔から全然変わらないわよね」

「……?」


ベリー=アルガンは少女の如く、不思議そうに小首を傾げてセレネを見返す。

性格は少し明るく――悪くなったくらい。

良いことか、悪いことかはわからない。

クレシェンタはじたばたともがきつつも、ベリーの上から逃げ出す様子はなく、撫でられるがまま。

大昔の自分を外から見ているような気分であった。

口ではともかく、クレシェンタはクリシェと変わらぬ甘えたがり――セレネは膝に乗るクリシェにクッキーを与えつつ、苦笑する。


自分の保護者を奪われたような寂しさがあり、けれどこういうものだという納得があり。

何とも言えない気分であった。

あるいは、これが大人と言うべきものか。


「クレシェンタ様、そろそろお昼寝の時間でしょうか。お体がぬくぬくしておられますね」

「お子様扱いしないでくださいましっ」


子供をあやすようにクレシェンタを撫で、持ち上げ、セレネに視線で問いかける。

セレネは少し考え込み、まぁいいか、と同じくクリシェを持ち上げた。


「わたしもたまには昼寝しようかしら。クリシェも寝るでしょ?」

「えへへ、はい……」


ベリーがセレネの保護者であったように、今はセレネも二人を愛でて。

立派な大人と呼ぶにはまだ早く、けれどきっと、セレネも確かに歳を重ねたのだろう。


「だそうです。クレシェンタ様が眠たくないと仰るのであれば、わたしもお付き合い致しますけれど……」

「……、あなたとお話しするのなんて真っ平ですわ。寝てる方が有意義ですわね」

「ふふ、では失礼を」

「あなたの添い寝を許した覚えはないのですけれど」

「あら……つい、いつもの癖で。申し訳ありません」

「あなたの謝罪からは誠意が見えませんわ。本当出来の悪い使用人――ぅにっ」

「もう、口が悪い子ですね。クレシェンタ、嫌ならクリシェが二人と一緒に寝ますから一人起きておけばいいんじゃないですか?」

「うぅ……」


楽しげにベリーが肩を揺らし、茶色の瞳と視線が合う。

しばらくそれを見つめて、ふと笑みが零れて笑いあい、互いに抱いた少女を撫でた。


ベリーは大して変わっておらず、そしてセレネも。

変わったものと言えば精々、互いの関係と立場くらいのものだろう。

とはいえ保護者同士というものも不思議と悪いものではなく、それはそれで幸せなものであるのかも知れない。


この先、気の遠くなるような時間を共に過ごして苦にならないと思える程度に。

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