第四話『長期バイトの始まり』

「ほら、これが報酬だよ」


 ミアは先程の依頼主から貰った、いかにもな宝袋をかかげていた。見た限り重さはなさそうである。

 中を見てみると銀貨が入っていた。地球で使われていそうなモノは無かったため、この国独自のものだろう。

 路銀の管理をしているのはミアなので、じっくりとこの国の貨幣を見るのは翔にとって初めてである。


「……これって日本円でいうならいくらくらいなんだ」


「え? そうだなー、千円くらいかな」


「一時間も働いてないのにそこまで稼げるのか」


「すごいでしょ? 難易度が高いと額も上がるし、アイテムを貰えたりもするよ」


「へえ」


「さあさあ、やれるオファーをどんどんやっちゃうよ!」


 その後、二人はあらゆるオファーをこなした。おつかいに行ったり、運送業の手伝いをしたり、また虫を倒したり――まさに単発バイトといったところだ。その分、お金を順調に貯めることができていた。




「――働き続けるってほんと大変なんだね……大人を尊敬します……」


 時刻は、街が暗くなり街灯が灯り出した頃。

 宿に戻りベッドに倒れ込みながら、ミアがそうぼやいた。翔たちも働いたといえるかもしれないが、実際職に就いて働く事と比べると労力は桁違いだろう。


「けど、この調子なら予定通り明後日には宿を出られるね」


「いくら取られるか分かんないけどな」


「まあ、大丈夫でしょ」


 どこからその自信がくるのかは分からない。

 そんなこんなで、翌日もオファーをこなし、いよいよ宿を発つ日が来た。




「おばちゃん、宿代はいくらですか――?」


 朝からミアは絶賛おばちゃんと睨み合い中。翔はそれを遠くから眺めている。


「このくらい支払ってもらわなきゃ、かえせないね」


(返すと帰すをかけてんのか)


 くだらない事を翔が思っていると、ミアは余裕の表情を見せていた。


「ここに確かに」


「……受け取ったよ。持っていきな、あんたの大事なモン」


「ありがとう!」


 こうして無事、ミアは杖を返してもらい二人は宿を出ることができた。


「いやー良かった、ちゃんと返してくれて」


「結局いくらだったんだ」


「もとの値段知らないけど、多分倍くらいは払わされたね。まあ杖が戻ってくればオールオッケー」


 ミアはの表情がいつもより明るくなった気がする。

 しかし、翔が気にするのはそこでは無く――


「これからはどうすんのさ。野宿?」


「ふっふっふっ。甘いね、カケルくん。私がそんな無策で突っ込むわけないでしょ」


 どこに突っ込むつもりかは知らないが、ミアはあ・る・オファーの張り出しを手にしていた。

『工事現場作業員募集中。長期採用だと、ボスが喜びます』

 ミアのニヤつきを見て翔は、ミアが何を考えているのかが少しだけ分かった。




「すみませーん。オファーから来たんですけどー」


 翔とミアは張り出しに書いてある案内を頼りに工事現場の事務所のような場所へと辿りついた。

 ミアが声をかけると、中に居たガタイのいい大男がこちらを向いた。その強い視線に負けじと、ミアはその場に仁王立ちしている。少し震えている気もする。


「待ってたぜー、新人! ほら、そんなとこ立ってないで入れ入れ!」


 大男は、表情をいきなり明るくして二人を招いた。さっきまでの顔つきとの差に、二人は目を丸くしながらも中へと入った。


「いやー驚かせて悪かったな」


「驚いてなんかない……」


「はっはっはっ。まあいいさ。それで長期を希望でいいのか?」


「はい。是非とも」


「わかった。じゃあ二人とも長期で採用だ」


「え? そんな軽く……?」


「やる気があれば採用さ。まあ辞めたくなったら辞めてくれていい。俺はここのボスをやってるエバレット・モラレスだ。エバレットと呼んでくれ」


 エバレットは握手の手を差し出した。


「私はミア・バーンシュタイン、彼はカケル……ガルシア」


 翔はたった今、勝手に改名された。本当の事を今言うものでも無いので翔は新たな名『ガルシア』を、黙って受け入れる事にした。

 そして二人はエバレットと握手を交わした。エバレットの手は厚く、太い。




 翔たちはエバレットに案内されて現場へと来た。場所的には翔が初めて降り立った街の隣の街にあたるらしい。

 そこでは、あらゆる建造物が破壊された痕がのこっており、その修復をエバレットの仲間たちが行っていた。


「な、何があったの……?」


「詳しい事はわかってない。誰かがやったって事くらいしかな」


「そうなんだ……」


「死者が出なかったのが不幸中の幸いみたいだけどな。さあ、作業を教えるからこっちへ来い。お前たち、魔法は使えるな?」


「あ」


 ミアが一言もらすとエバレットは「なんだ?」と様子をうかがった。


「俺、魔法使えない」

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