第三話『初めてのオファー』
「ふわぁ……おはよーカケル」
次の日の朝。太陽のような星の明かりで、ミアは眠い目をこすりながら身体を起こした。隣に居ると思っていた翔が居ない事に気づき、ミアは一気に目を覚ました。
「あれ、カケル!?」
ミアはベッドから飛び起き部屋中を探し回ったが、どこにも翔の姿は見当たらない。
「まさか出て行った? 私との旅なんか嫌だって思って――」
ミアが狼狽えていると、おもむろに部屋の扉が開けられた。そこにいたのは他の誰でもない、翔だった。
「どうした」
「……どうしたもこうしたもないよ! 翔がいなくなってたから探してたの!」
「ちょっと散歩に」
飄々としている翔を見て、ミアはため息をついた。
「まあ、無事で良かった。とりあえず準備しておいて。私の準備が終わったら出発するから……」
そう言いながら翔の方を見るが、翔には荷物など一つもない。翔の顔は「とっくに準備なんて終わってますが」と言いたそうである。
(荷物無いのは当たり前か……)
ミアはそう思いながら小さくなって準備を進めた。
二人は宿を出て再び街へと到着した。
「今日も人が多いねぇ」
今日がいったい何曜日(まず曜日というものがあるのか知らないが)か知らないが、商店街はたくさんの人で賑わっている。ただ全員が全員、善人ではないということをつい先日思い知らされたので、翔の疑いの目は鋭いままだ。どこに異界人の事を良くないと思っている人がいるか分からないのだ。
「そういえば、あの宿には何日泊まるつもりなんだ」
「そうだなぁ、長居しすぎるとお金がもったいないからあと二日くらいかな」
「別に俺だけ野宿にすれば、出費は抑えられるのに」
「夜は結構冷えるんだよ? 風邪ひいたらその方が余計にお金かかるよ」
「……そ」
(この世界にも、風邪ってあるのか)
そんなくだらない事を考えながら、二人は目的地へと着いた。
それがオファーである。ミアによると短期バイトみたいなものらしく、お金を稼ぎやすいらしい。
「オファーはこうやって色んな人の依頼が張り出されてるの。で、受けたいオファーがあれば簡単な受付をして依頼を達成させる。成功すればすぐに報酬が貰えるのです」
「了解」
「試しにこれをやってみよう」
そう言ってミアが手に取った紙にはこう書かれている。
『ムカデを倒してください』
(ムカデってここにもいるのか)
こうして二人は依頼主の元へとやって来た。依頼主もどうやらこの街の出身らしく、近場であった。
ドアベルを鳴らせば、一人の若い女性が出てきた。
その女性によると、ムカデを家の中で見たがどこに行ったら分からなくなってしまって不安らしいので、依頼したとの事。
虫嫌いの人からしたら緊急事態だろう。
「お任せ下さい! うちのカケルがあっという間にムカデを退治しますとも!」
「ありがとうございます!」
女性のきらきらとした視線が翔に集中している。
翔は自分の耳を疑った。
「……ん?」
家主の女性はミアと一緒に外で待機するという。
「なんで俺が?」
「私も虫は嫌いなんだよね……」
「じゃあなんでこれを受けたんだよ」
翔はため息をついて、家主からの情報を頼りに捜索を開始した。ムカデは暗くて湿気の多い場所にいるはずという、なんとなくの地球での知識を頼りに捜索していると、やつはいた。
見た目は特に地球のやつと変わらない。ただ少しでかく見える。
(まあ、緊急でオファーを出したくなるのも分からなくはないか……)
翔はとりあえず用意しておいた熱湯をかけてみた。しかし相変わらずの生命力で、やつは逃げようとしている。埒が明かないと思った翔は、次に用意してもらったトングでムカデを捕まえ、バケツに入れて頭を潰した。
それでやつは息絶えた。
「――本当に助かりました! ありがとうございました! これ、今回の報酬です」
「ありがとうございます。またいつでも駆けつけますよ。それでは!」
ミアは大きく手を振りながら、女性の家を後にした。まるで自分が事を成し遂げたかのように。
こうして翔は初めてのオファーを終えた。
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