第198話 スパイとしてなら仕えよう

 街から離れた所で、足を止めて二人と向き合う。

 今考えれば二人は最初から私を誘き寄せるつもりだったのかもしれない。


 あんな肉眼で見える場所で二人が話すわけがないからな。…まんまと嵌められたって言う事か。

 考えてから行動すればよかったな。


「逃げるのはやめたのか?魔術師」

「お姉さんと一緒に遊びましょう?魔術師ちゃん♡」

「さっきから魔術師、魔術師って…私はセレアっていう名前があるんだけど?」

「ふむ。なら俺も自己紹介をしよう。俺の名はエヴァンだ」

「私はクロエよ♡」


 調子が狂うな。


 私はナイフを持ち、戦闘態勢にはいる。

 それを見たエヴァンは片手剣を抜き、クロエはハルバードを持った。


 この二人に近接戦を挑むのは馬鹿のすることだって分かってる。

 隊長であるエヴァンはきっと近接戦が得意だろうが、クロエは魔法が専門な気がしてならない。


「ナイフで対抗するの?お得意の魔術でいいのに…♡」

「全力で戦おうではないか」


 従うな。まずはナイフで少しでも怪我を負わせるのが先だ。

 私はナイフをクロエに向けて振りかざす。


 ナイフは華麗に躱され、エヴァンの片手剣が私の頬を掠る。

  アクセサリーにつけたはずの回復魔術が発動しない…魔術封じの片手剣か。


 エヴァンは私が魔術封じに気付いた事に気付いてお前に勝ち目は無いという目線を向けてくる。


「魔術師相手に魔術封じ…なるほどね」


 私は詠唱ありで光魔術を発動させる。


 大量の光の剣は二人を囲むようにカーブを描いたり、一直線だったり不規則な動きをしながら二人に向かう。


 エヴァンとクロエは余裕そうな顔をして剣を弾き消そうとするが魔術で作られた剣は消える気配は無い。


「何故だ!?」

「魔術封じが効いてない…!?」


 二人は次々と出てくる剣が体中に突き刺さる。剣の勢いは変わらず、二人は重傷を負っていく。


 魔術師に魔術封じ、普通ならそれは魔術師の負けだ。でも相手が普通の魔術師じゃないならどうだろう?


 私はレディオ・アルセリアの娘だ。そしてラエル・リボルトの娘でもある。

 所長という座を持ち、不可能と謳われた事でさえ可能にする魔術師だぞ?


「魔術には形式があり、魔術の形式は五種類。攻撃型魔術なら円、回復型魔術なら三角、強化型魔術なら四角、防御型魔術なら二重丸、付与型魔術なら星。魔術封じの種類は五種類でそれは魔術の形式に合わせている」

「それが何だと言うのだ」

「魔術封じは同じ形式にしか意味が無いんだよ」

「違う形式を作ったとでも言いたいのか?そんなのは無理だ…!攻撃、回復、強化、防御、付与…それ以外に何があると言うのだ!」


 私はニヤッと笑みをこぼす。


「禁忌魔術だよ」


 相手は思うだろう、禁忌魔術など使ったとバレれば確実に私は殺される。

 でも王宮魔術師が禁忌魔術を見破れない訳がないと……。


「魔界と違って、人間の世界で公認された禁忌魔術があるのを知ってる?」

「公認された禁忌魔術…?」

「魔族を殺す為だけに発明された魔術【ノアフィナーレ】。第四次境界大戦で使われた魔術だよ」

「もしや、第四次境界大戦が一瞬で終わった理由は…!」

「そう、ノアフィナーレを使ったからだよ」


 ノアフィナーレを使える魔術師は現在、世界で二人だけだ。

 私とドミニクだけである。


 本来、ノアフィナーレを使えば使用者は体中で反発し合う魔力に耐えれず死亡してしまう。

 私はドラゴンの鱗で調和し、ドミニクは使徒だからだ。


 私が今回使ったノアフィナーレは改良しまくった物で、本来のノアフィナーレは大陸一個滅ぼすほどの威力がある。


 そんなのを使えば魔族どころか人さえ消えてしまうからな。


「どうする?私には他にも手があるけど?」


 私が片手を上げると、エヴァンとクロエを大量の銃が囲む。

 私は銃を大量生産し森中に仕掛けておいたのだ。


「勝ち目がなかったのは我々と言う事か」

「危機的状況に陥るのも悪くないわ♡」

「二つの選択肢をあげるよ。ここで死ぬか、魔王を裏切って私に従うか」


 この二人は魔王に対しての忠誠心が高そうだ。私に従うという選択肢を取るはずがない。


 二人に逃げられないよう、改良したノアフィナーレを二人に向ける。

 まるで脅迫してるみたいだな。実際そうなのかもしれないけど。


「セレアよ。魔族についてどう思っている」


 こんな時に思想の話か?


「…所長という立場なら、憎むべき存在、敵かな。セレア・アルセリアとしてなら尊敬する存在だろうか」

「魔族に尊敬ね。理由を聞いてもいいかしら」

「魔術は元々魔族の技術、魔族が存在しなければ魔術は存在しなかった。この世界に魔術というものを生み出してくれた種族に尊敬の意を抱くのは魔術師としておかしいかな?」


 そんな事を言う私に二人は笑った。

 種族は違えど尊敬するくらい許してくれ。魔術は私の人生に欠かせないものなのだから。


「魔王様を裏切る事は出来ない」

「だろうね」

「だが、貴殿に仕えたいという気持ちも我々にはある」

「だから私達をスパイとして魔界に派遣してくれないかしら?」

「それは魔王を裏切ってるのと一緒なのでは?」

「魔王様には仕えてるから裏切ってないわ♡」


 何だその屁理屈は。通っていいのかそれは。

 本当にスパイとして雇えるのなら、こちらとしては利益しかないが…信じて良いのか?


「三ヶ月後に魔王軍は王都に侵入し、ルーベン国を支配下に置こうとする。その時、我々ともう一度戦い我々に勝ったらセレアに寝返ろう」

「三ヶ月後まではスパイとして見定めって事か。良いよ。その代わり、有用な情報を持ってきてね。情報で報酬を考えるから」

「お任せください」

「任せてセレアちゃん♡」


 にしても三ヶ月後に侵入か。良い情報だな。

 陛下に報告したほうが良さそうだな。


 仲間とは言えないけど、良い情報収集源をゲットした。利用させてもらおう。

 必ず勝たないとな…。

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