第196話 戦にお人好しは要らない
リリアナが呼んだ人が誰なのか分からないまま、二日経った。
アリスに絵本を読み聞かせていると術棟の一人が扉を叩く。来客が来たようだ。
「アイゼアとここで待っててね」
「はい…気を付けて、ください」
さて来客はリリアナが呼んだ人だろう。こんな所に来るなんて、どこの人だ?
リリアナと関わりがある…私とも関係があるのは分かるが、人が多すぎて分からないな。
下に降りるとそこには、王都で市民の味方、彼女こそが聖女なのだと祭り上げられているティアがいた。
「来客はティアだったのか」
「何です?不満なんです?」
「いいや、王都じゃ聖女だとか何とか言われてて下手に動けないんでしょ?なのにここに来るとは思わなくて」
「聖女と言われるのは嫌いだけど、親友を助けるぐらいなら助太刀するです」
「だから聖女とか言われるんじゃ…まぁいいや。ティアは回復担当って事になるの?」
「光魔法使えるし表立って戦いたくもないし、裏で回復に専念するです」
ティアの光魔法はかなり強い。彼女が来てくれるのありがたいな。
「そういやオメェ、父親になったってマジです?」
「色々あって…ね」
「オメェが子守とかぜってぇ無理です。しかも魔族とも聞いたです!王都で何て言われるか…」
「ティアが心配しているような事にはならないと思うよ。今回の遠征が成功すれば、私に歯向かう人は少なくなるから」
「それでもプライドの高い奴はちょっかいかけてくるです。子供に悪影響です」
ティアの言う通りではある。
本来、貴族の子供となれば八歳の時には社交界に出てなければならないのだが、アリスには難しいだろう。
今でさえネチネチと私に向かって様々な事を言ってきている人がいる。
その人らが新しく来た子供に害を及ぼさないとは考えられないからな。
アリスは六歳らしい。
社交界は正直何歳からでも良いとは思っているが、リリアナはどうだろうな。
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外から襲撃の鐘の音が鳴る。ついに始まるのか。
ここ一週間、出来ることを全てしてきた。負けるわけにはいかない。
アリスとリリアナに無事に戻って来るとだけ言って私の立ち位置に着く。
作ったスナイパーライフルで敵を密かに狙う。
魔族は徐々に街に近付いてくる。
魔術が魔族を探知し、発動される。全ての光魔術を組み込んだせいか眩しく、つい目を瞑ってしまう。
数分後、目を開くと景色は真っ赤だった。肉塊になった魔族達が無造作にばら撒かれている。
…悲惨な光景だな。
「前まで人を殺すのを躊躇っていたのが嘘みたいだ。こんな殺戮魔術を作るだなんて…私も変わったと言う事だろうか」
殆どの魔族は壊滅。向こうは驚いているようだ。
こちらもこんな火力なのかと、驚いている。何人かは私に恐れを抱いているだろう。
私だって驚いてるよ。
だが士気は高まったのか一斉に皆が動き出す。
私もスナイパーライフルで応戦しよう。
にしてもクロエはどこに居るんだ?隊長の位置は割れているが、クロエだけ見当たらない。
彼女は神出鬼没、常に気を配らなければならないのに見つからないなんて…。
『主、報告が』
「何?」
『クロエですが魔王城に戻っています』
「この戦には参加しないって事?」
『はい。隊長の指示かと思われます。援軍を呼ぶではなく、クロエのみの安全を案じたかと』
「お人好しな魔族だね。戦で人の身を案じるなんて…でも嬉しい誤算だ」
クロエが居ないことさえ分かれば、活発に動ける。
ならば狙うは隊長の首。ライフルで。撃ち抜いてやる。
隊長は森の中だ。防壁の上からでは狙えない。
狙える位置はこの前偵察してきたから問題無い。
敵に見つからずにその場に辿り着けるかは不明だが…向かわかないと何も変わらない。
私はスナイパーライフルを背負って森に入る。
木の上を走っていると暗殺者にでもなった気分だな。
にしてもスナイパーライフルが重いな。見つかるのが怖い。
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バレずに位置につくことが出来た。ここからなら隊長を狙える。
照準を合わせる。私は指に力を入れる。
「恨むならお人好しの自分を恨むんだな、隊長さん」
トリガーを引いた。
鎧さえも貫通し隊長の頭を貫く。部下の魔族は隊長が攻撃された事に気付かなかったのか、後ろで倒れる隊長に驚いているようだ。
「任務完了かな。私は無傷だけど……前線組は結構負傷してそうだな」
私は光魔術を発動させ、森に残っていた魔族を殲滅する。
また来られたら困るからな。
冬が終わるのは後一ヶ月、あの複合しまくった魔術の術式をまた組み直さないとな。
一回きりの魔術はこれが大変なんだよな。少し改良を入れるか。
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戻るとリリアナが熱烈なハグとキスでお迎えをしてくれる。
このキス魔め…私が振りほどけ無いことを分かっててやってるのか?
「おかえりなさいセレア様♡」
「ただいま」
キスのチュッチュッという音が常に聞こえてくる。
こっちの方が子供に悪影響だな。
リリアナのキスを阻止していると、目の前にアリスが立っていた。
「え、と……無事、で良かった…です、」
私はアリスの頭を撫でて抱きかかえる。
こう家族が迎えてくれるのは中々良いものだな。
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