第192話 寒い遠征の日

 アイゼアのお陰で逃げる事ができ、街にワープする。

 宿にワープしても良いがまだ安心は出来ないからな。


「寒いし暗いし…冬の夜は嫌だな」


 宿にワープすれば良かったかも。今の時間帯にやってる店なんて居酒屋ぐらいしか無いしなぁ。

 寒いけど散歩しながら宿に戻るか。


 にしてもクロエは何を思って私をメイドにしたいと言ってきたんだ?

 そもそも私に執着する意味が分からない。


 アイゼアの言っていた強い女性が好みっていうのに当てはまってると言うのか?

 結婚済みですとか言っても好みとか返される始末…はぁ、これからも絡まれるのかと思ったら幸先が不安になってきた。


 ため息をこぼす私の前に影が現れアイゼアが出てくる。


『クロエに魔力封じをして帰って来ました。それと、外出の際は必ず我を同行させてください』

「え?アイゼアを……?」

『彼女の対策が出来るのは我だけですから。何処からともなく出てくる化け物ですので』

「わ、分かったよ。っていうか魔力封じをしたのに出てくるの!?」

『一時的な拘束です。どうせ一日もしたらまた現れます』


 ケッと不満そうな顔をするアイゼア。

 魔力封じを一日で解くだなんて、相当な実力の持ち主だな。


 尚更厄介な魔族に絡まれたみたいだな。


『それと今回の魔族騒動にクロエは関わっていないようです』

「聞いてきたの?」

『直接ではありませんが、長年の勘です。彼女が指導者なら幼児どころかこの街の女性はおりませんよ。それは指導者じゃなくても同じですけどね』

「うわぁ…背筋がゾワッとしたよ。ヤダなぁ、ほんと」

『この遠征が終わっても絡まれる可能性はあるかと』

「何で私の人生は波乱万丈なんだろう」

『とても楽しい人生ですね』

「何処が楽しいだ。真逆だよ」


 全く、主人を誂いおって魔族らしいと言えば魔族らしいがな。


 そういえばどっかの本で読んだな、魔獣は普通の魔族と違って悪戯が好きだが忠誠心が高いって。

 良いんだか悪いんだか分からないな。


「アイゼアは犬って呼ばれるのが嫌なの?」

『下等生物と同等にして欲しくないだけです。我は偉大なるケルベロスですから』

「流石は魔族…プライドが高いんだね」

『ムッ。ケルベロスを甘く見てはいけませんよ。ケルベロスは代々魔王様の直属の部下で、最も信頼されていた種族なのです』

「そんな種族が易々と魔王を裏切って人間側についたんだけど…?」

『そ、それはっ………!ソップの魅惑…げふん!やはり力の強い方につくのが魔族の誇りでございますから!』

「そんな安い誇り今すぐ捨ててしまえ、主を簡単に変える部下なんて不安すぎる」


 こんな種族が最も信頼されていた?魔界は大変なんだな。

 下剋上が普通の場所らしいし、人間で良かったと心底思う。


 さっきの発言なんだ?強い人につくのが誇り?待って、私って魔王より強い判定なの?

 いいや違うな。これはソップが好きなだけだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 宿に着き、椅子にもたれかかる。

 あぁ〜やっと休める。


 アイゼアは体を丸めてベッドで寝る二人の間に入る。

 良いなぁ〜ズルいなぁ〜私もベッドで休みたいなぁ〜。


 正直、ベッドに転がっても寝れる気はしないんだよな。

 硬い椅子で頑張って寝るしかないのか。


「ハンモックでも作ってやろうかな」

『ここは宿ですよ。変な事はしない方が良いかと』


 ぐぬぬ。正論はキツイよアイゼア君。

 主が疲れてるのを見て何も思わないのかね、薄情者なペットだな。


「疲れてんのに椅子で寝ろって言われてるんだぞ?私の身にもなってくれ」

『自ら望んだのでは…』

「仕方ないじゃないか。アリスを椅子で寝かせる訳にはいかないし、かと言ってリリアナを…とはならないし」

『なら受け入れてください』

「そうだ!アイゼア、私の枕になってくれない?枕があれば少しは寝れると思うの」


 アイゼアは何も言わぬ顔で机に乗り、丸くなって私の枕代わりになった。

 もふもふ…素晴らしい、安眠できそうだ。


 こういうのやってみたかったんだよ。ペットに顔を埋めて寝るの。

 大型犬好きだったからやりたくて仕方なかったが、今叶うとは…。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 起きると極寒に見舞われる。

 さっっむ!何だこの気温!昨日の三倍は寒いぞ!


 外は豪雪で今日の調査は無いという事が見て分かる。

 昨日との落差が酷いな。確かに雪は降っていたがこんなでは無かった。


 起きて珈琲を淹れようとするとコーヒ豆が切れている事に気付く。

 最悪だ。こんな時に切れるだなんて、うぐぐ買いに行くしかないか。


 私はコートを着て暖かい格好をしてから部屋を出る。

 人は誰一人も居なかった。


 皆、外に出る気は無いんだな。


 試しで外に出ると一瞬で私は白くなる。

 雪で前が見えないな。


「ヘクチュッ!ズズ…早く買いに行こう」


 カフェイン中毒である自分を恨んだ。そもそもこんな雪の中、店はやってるのか?

 やってなかったらどうしよう…。結構遠いし。


 あれ?外出の時はアイゼアを連れて行かないといけないんだっけ?

 流石にこんな雪の中には現れないだろ。


 寒くて魔力が乱れてワープ出来ないし、珈琲を飲む回数をなんとか減らさないとな。

 こんな事は二度とごめんだ。

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