第191話 お気に入りの魔術師

 宿に戻りラエル達に今日の事を全て話した。

 今回の出来事で魔族はまたここに来るだろうと予想した。


 警戒を強くしないとな。いつ攻められても良いように。


 色々作戦を立てた後は各自部屋に戻り、就寝することになった。

 私は安心して寝れず窓から夜空を眺めている。


 ベッドには熟睡したリリアナとアリスと眠れない私を見つめるアイゼアが居た。


『眠れないのですか』

「あの魔族の事が気掛かりでね」

『どのような見た目でございましたか』


 魔族の中でも中心人物だったアイゼアなら彼女の事を知っているだろうか。


「紫髪のロングで赤い目をしていたよ。服は……露出が多かったかな。赤い角が二つ生えていたよ、ハルバードを持ってた」

『彼女ですか、』

「知っている人?」

『えぇ。彼女の名前はクロエ・ブリアンナ。我とは犬猿の仲でした』

「アイゼアと?やっぱり彼女も魔族の中だと良い位に着いてるの?」

『魔王軍の元団長でしたからね。彼女は相当な女好きで強い女性が好みらしいですよ』


 そう言われた瞬間背筋が凍った。はぁ〜…厄介な魔族に目をつけられたみたいだなぁ本当に。

 ため息を吐く私にアイゼアは御愁傷様と言うような目を向けてくる。


 犬猿の仲のアイゼアを連れて行くと更に厄介な事になりそうだし、被害を考えると彼女の事は私一人で対処した方が良さそうだな。


 そんな事を思っていると薄っすらと音が聞こえてくる。

 私よりも耳の良いアイゼアは聞こえないようだ。


「留守は頼んだよ」

『御意』


 私は窓から外に飛び出て音のする方に走る。

 徐々に音がデカくなっている。近くなっているという解釈で間違ってなさそうだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 音が一番デカくなる所まで来ると、そこはクロエと最初に会った場所だった。

 それに気付いた瞬間身構えると木の後ろからクロエが出てくる。


「本当に一人で来てくれたのねぇ。ふふっ…嬉しいわぁ♡」

「…っ!」

「そんな身構えないで頂戴♡私はねぇ、貴方と話がしたいのよぉ」


 クロエはハルバードを木に向かって振りかざし、木を倒しハルバードを地面に捨てて、倒れた木の上に座る。


 クロエの目からは確かに殺意は感じられなかった。

 だが私は手に持ったナイフだけは離さなかった。

 そんな私の姿を見たクロエは気に食わないのか、ナイフを魔法で振り落とした。


「ナイフが…!」

「普通にお話がしたかったのよ。そんな物騒な物は持たないで頂戴♡」

「…何を、する気…」

「ふふっ♡大丈夫よ、貴方に傷をつけるつもりは無いわ。ほら、座って頂戴♡」


 クロエはそう言って私の背後にあった木を魔法で倒す。

 彼女はそこに座れと指で指示をする。


 彼女の言う事に従って良いのか?誘導されているのでは?

 どうしても信用する事は出来なかった。


「し、失礼…します、」


 身構えながらも木に座ると彼女は満足そうな顔をした。

 一体何が目的なんだ…。


「単刀直入に言うのだけれど魔術師ちゃん、私のメイドにならない?」

「は…?」

「ちょっ〜とご奉仕するだけの簡単なお仕事だから♡駄目かしら」

「ふざけた事を言わないでくれますか?私は貴方の世話なんかするつもりは無いです」

「え〜?お姉さんと一日一回キスしてくれるだけでも良いのよ?」

「すみませんが結婚済みですので」

「あら!そっちの方が好みだわぁ……」


 駄目だ…。常識が通じない!

 クロエは立ち、私にジリジリと近付いてくる。威圧感で立つ事が出来なかった。


 追い詰められ逃げられなくなる。

 座っているから逃げようにも逃げられない。


「そういう顔…好きよ♡」


 私はクロエの手を振り解き、クロエを押して走る。


 恍惚とした表情をしたクロエは私の事を追いかけてくる。

 追い付かれる!


 そんな時にクロエの前に黒い霧が現れ霧は徐々に姿を変えて見知った姿になる。


『貴様!』

「クソ犬…どうして貴方がここにいるのかしら」

『主を守るのは忠犬の務めだ』

「なるほど……。知っている匂いがすると思ったら、クソ犬、貴方だったのね。そこを退いてくれるかしら」

『主に汚物を近付かせる訳にはいかないからな。無理なお願いだな』


 バチバチと鳴っている気がする二人に背を向けて私は足音を立てないように歩いていく。

 遠くまで行って魔術でワープしよう。


 アイゼアが来てくれて助かった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 真っ暗な森の中、綺麗な女性とケルベロスが睨み合っていた。


「ちょっと!魔術師ちゃんが逃げちゃったじゃないの!」

『ふん!貴様が我に夢中だっただけだろう』

「キモいこと言わないでくれるかしら?っていうかクソ犬が魔術師ちゃんに飼われているだなんて…」

『何だ?羨ましいのか?』


 アイゼアは嘲笑うように言うとクロエはアイゼアを掴み近くで強く言った。


「魔術師ちゃんの側にいれるだなんて…羨ましいに決まってるじゃないの!あぁ、私の魔術師ちゃん……どこに行くのよ」

『他にも良い候補が居るだろ。そっちに乗り換えろ』

「無理よ!あの子一番好みだったのよ!お姉さんが甘やかしてあげたかったのにぃ……あの眼差し…ふふっ♡」

『…………とにかく主に近付くのは止めろ』

「そんな事、私に言って良いの?魔王様に貴方が人間側に裏返ったって言うわよ」

『好きにしろ』

「魔王様に忠実だった貴方がそう言うだなんて、何だか面白いわ♡ますます魔術師ちゃんの事好きになっちゃった」


 物珍しそうにするクロエにアイゼアは魔力封じをかけて影になって逃げる。

 クロエは魔力封じの腕輪をかけられたまま、ニヤッと笑った。

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