第190話 さようなら熟睡
子供達を親の元に返して、私達は防壁作りに取り掛かっていた。
アイザックさんは魔法薬を大量に飲んで魔力を回復して魔法で防壁を作っていた。
私は魔術を使ってアイザックさんが作った防壁を強化していた。
騎士団の二人は必要な資材などを持ってきてくれている。
「ふぅ…防壁は作り終えましたよ」
「後は任せてください」
アイザックさんは地面にドカッと座り、私が魔術をかけるところを見ていた。
街を覆うように巨大な術式が展開され街に魔族が入れないようにする防御壁が貼られる。
そして防壁全体に強度を増す魔術を施す。
終わったぁ………。かかった時間は六時間。
この作業が夏じゃなくて良かったな。夏だったら暑くて熱中症になる所だ。
「魔族が来なくなると良いんですけどね」
「二ヶ月もあるんです。どうせまた戻ってきますよ。その時は私達でボコボコにしましょう」
「珍しくやる気が出てますね。俺は後方支援に回りますよ」
「えっ……」
「前線張るわけないじゃないですか。俺は魔法使いですよ?そもそも魔術師が前線出るのもおかしいんですから」
前線行く気満々だった。そうか、普通は魔術師は後方か。
ゴウレス先生の脳筋に侵されている気がするな。
よく考えれば私は近接戦はあまり好きでは無かったな。
リオンと時々勝負するから近接戦に慣れてきたんだよな。
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私達は宿に戻ると誰も居なかった。外で魔族の動向でも探りに行ったのだろうか。
私達が宿内を見渡しているとリリアナが二階から降りてくる。
「皆様なら外で魔族について調べに行きましたよ」
「なるほど、ありがとう。アイザックさん、どうしますか?私達も調べに行きますか?」
「そうですね。行きましょう」
「気を付けて」
リリアナに手を振り宿を出て魔族の動向調べをする事にした。
時間も時間だし、長く調査はできないだろうな。
「街の外を出て魔族の魔力を探した方が良いかと」
「そうですね。早速外に行きましょう」
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馬を連れて街の外に向かうと魔力が濃い所を見つける。
魔族の魔力だ。
「魔力の方向的に街とは真逆に向かってるみたいですね」
「…王都とは逆の位置ですが、王都に連絡をしておきましょうか」
「この方向はラスリィの方向ですね。このまま行くとニャトス国とぶつかりますね」
ん?ニャトス……?待て待て、ニャトスって
しかも主人公なんだろう?これは、ニャトス国に連絡するべきか?
いや…私が報告するのもおかしいか?だって二回しか行ったことが無いんだぞ?
いくら同盟国で所長だからと言えど私が伝えるのはおかしいよな。
ルイスにもトランシーバーを渡しておけば良かったぁぁ!
「悶えてますが……どうかしましたか?」
「あぁ、いえ……はは…気にしないでください、」
「?体調が悪いとかじゃないなら良いですけど……」
むむむ、はぁ。後で伝書鳩を出そう。
魔力を辿って奥の方へ進むと、魔力が途切れている所を見つける。
「途切れた先にはまた魔力の反応がある……。この一時的に途切れている理由は一体…」
「皆に知らせた方が良いですね。日も落ちてきました、そろそろ帰りましょう」
そうアイザックさんが言った時、上の木からガサッと音がした事に私達は気がつく。
私達は護身用に持っていたナイフを手に持つ。
「…動物…では無いですよね」
「えぇ、この感じ…」
周りの音に耳を澄ませて辺りを見渡す。タイミング、そして途切れた魔力……。
身構えた瞬間にそれは姿を現した。
攻撃をナイフで受け止め弾くと衝撃で私は後退りする。
目の前にいるのは二つの角が生えたハルバードを持った女性が居た。
何とか弾く事が出来たが、反動が強すぎる!なんだあの力は…!
「あらあらぁ…強い魔力が近付いてくるから隠れていたのだけど、女の子と男の子が来るだなんて……ふふっ♡良い収穫だわぁ」
女性の魔族は美味しそうと言うように舌で口周りを舐める。
この魔族は他の魔族とは違う…!魔力を一時的に無くすだなんて普通は出来ない。
私は冷や汗をかく。
「そんな怯えないで大丈夫よぉ。お姉さんは怖い者ではないわぁ。だから、その武器を捨ててちょうだい」
私とアイザックさんは本能的に彼女と目を合わせないようにする。
彼女の目を見るな。目を見れば従おうとしてしまう。
「人間さんにも賢い子は居るのねぇ。ふふっ、いいわぁ。そっちの方が楽しいもの♡ほら、私と遊びましょう?」
私はワープをして彼女の後ろに行き魔術で強化したナイフを彼女の首に刺す。
だがそれを予測していたのか彼女は首に刺さったナイフを掴み、私と力比べになった。
彼女はナイフを抜こうとし、私はナイフを深く刺そうとした。
頼む…もっと、もっと深い所に!
力を入れる事に集中していると、彼女の足が氷で固定される。
アイザックさんがやってくれたのか!
私はナイフに力を入れるようにしながら魔術を発動させて彼女に向かって雷を降らせる。
強い音が鳴り、森一面が明るくなり燃える。
目を開けるとその場には赤い血と灰があった。
彼女の姿は無い……。
力が抜けてその場にへたり込むと、目の前の木からぶら下がる無傷の彼女が居た。
恍惚とした表情をする彼女に背筋が凍った。
「中々楽しかったわ。次は一対一で遊びましょうね♡可愛い魔術師ちゃん♡」
そう言って彼女は姿を消した。
彼女が最後に言った言葉は…私の事を指しているのか?
「マークされましたね…良かったですね、綺麗な女性ですよ」
「最悪ですよ……」
色んな意味で最悪だ。
後二ヶ月もあると言うのに、熟睡する日はもう来ないだろうな。
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