第189話 喫茶店の中は血だらけ

 起き上がると全身が痛かった。

 リリアナにつけられた手錠を力技で外して、着替えてから扉を開ける。

 今日は子供を助けに行く日だ。後は防壁を作る日でもあるな。


 階段を降りていくと隊員の皆が既に居た。

 北に向かうのは私とアイザック、騎士団二人の少人数である。


「人数が少ないが…大丈夫かい?防壁も作るのだろう?」

「防壁作るぐらいならアイザックさんが居れば直ぐに終わりますよ」

「まさかとは思いますが…俺に魔法で防壁作らせようとしてませんか?」

「え?そうですけど」

「他力本願すぎませんか?働いてくださいよ」

「魔術で壊れない防壁にするから…」

「傍から聞いたらこの会話化け物ッスよ?気付いてるッスか?」

「魔法で広い範囲に防壁を作って壊れないように魔術をかける…まぁ、普通に考えたらありえない話だね」


 オバルとラエルの話に私とアイザックさんはえ?と言う反応を返す。


 私は何故そう言われるのか気付いているが、アイザックさんは本当に気付いていないようだった。

 これが本当の天才か……!格が違うぜ。


 私達が外に向かおうとすると影がユラユラと動き、ケルベロスであるアイゼアが顔を出した。


『我が主、我はアリス殿の面倒を見れば宜しいのでしょうか』

「そうだね。アリスとリリアナの事を頼んだよ」

「何だか久しぶりに見た気がするッス」

『気安く触るな貧弱者』

「俺何かしたッスか!?」

「何でか知らないけど、アイゼアは騎士団の皆の事嫌いだからね。仕方ないよ」

「……犬好きなんッスけどねぇ……」

『我のことを犬と言うな。我は偉大なケルベロスだ』


 可哀想なことにオバルはアイゼアにめちゃくちゃ嫌われている。

 何が理由なのかは分からない。


 アイゼアは騎士団を毛嫌いしている。過去に騎士団関連のことがあったのだろうか。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 馬で向かって昨日来た喫茶店の場所まで向かった。


「確かに魔力反応的に五人居ますね」

「私は顔を覚えられている可能性が高いから、魔力反応が強くなったらそっちにワープしますね」

「分かりました」

「それと、出された物は飲まないでください。毒か睡眠薬が入ってるので」

「…よく無事でしたね。人やめてませんか?」

「お腹は壊しましたよ」


 私にドン引きしながら騎士団二人と喫茶店の中に入っていく。

 反応が来るまでぶらぶら歩いてこようかな。


 今はワープが使えるようになったから、別行動が楽になった。

 まぁ欠点はあるけどね。知っている場所か、どんな場所かという細かい情報が無いとワープ出来ないのである。


 だがしかし、魔力反応さえあればその場所に飛べるのだ。

 これも私が開発した魔術だ。開発するの楽しいんだ。


 研究員の血が騒ぐんだよね。本当、魔術って楽しい。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 朝飯をとっていない事に気付いた為、私は店で適当にパンを買って食べていた。

 食べ終わったと同時に魔力反応が強くなった事に気付く。


 私は魔術を発動させてアイザックさんの所にワープすると、血みどろのキッチンに出た。

 殺人でも起きました?凄い血の量なんですけど。


 白かったであろう壁は真っ赤で、地面は血でベタベタしており人から出た量とは思えなかった。

 何人…分なんだろうな。考えない方がよさそうだ。


 っていうかアイザックさん達どこ!?


「あぁ!ここに居たんですね!」

「いやいや!ここに居たんですねじゃないですよ!魔力反応があったらここにワープしたのに…」

「すみません。こちらも急いでまして」

「…とにかく、その血なんとかなりませんか?」

「……………」

「え?何で黙るんですか?」

「まぁまぁ、とにかく着いてきてください」


 私はアイザックさんの事を睨みながら着いていく。

 納得しないんだけど…えぇ?何で答えてくれないんだ。


 着いた場所は大きな扉がある部屋だった。

 扉は開いており、アイザックさん曰く先に騎士団の二人を向かわせたらしい。


 どうせ中は狭いだろうし、範囲攻撃が多い魔法と魔術が先に行くよりかはいいか。


 一緒に中に入ると、さっきの血だらけのキッチンより酷い匂いがした。

 腐った匂い…?息がしづらいな……。

 歩いていると前から騎士団の二人が走ってくる。


「所長!魔法長!子供達を見つけました!」

「直ぐに保護しよう。数を確認してくれ」

「了解!」


 周りには家族に愛されていたのだろう、綺麗な服を着た子供達が居た。

 痩せ細っているのを見るにまともな食事は与えられていなかったのが分かる。


 アリスを見た時も思ったが子どもの扱いが酷すぎる。

 こんな劣悪な環境に子供を放置するなんて…。


「行方不明になっていた子供十五人!全員居ます!」

「私が子供達を外に送るから、君達は外で子供達を親の元まで連れて行ってくれ」

「「了解!」」


 私は一人ずつ子供を外にワープさせる。

 早く親の元に戻って、また幸せな家庭を築いてもらいたい。


「俺は魔族の処理をしていますね」

「あ、はい。気を付けてください」


 魔族の処理…?ここに来る途中、魔族のまの字も無かった気がするんだけど……血の印象が強すぎるのだろうか。


 魔族の姿なんて見なかったぞ?

 こういう所を見ると、エルトンさんと本当似てるなぁ。

 流石は夫婦………暗殺向いてるよアイザックさん。

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