第188話 魔術は想いが大事

 部屋に戻り、私は明日の準備をしてから椅子に座って本を読む。

 リリアナは私の後ろに立ちぷにぷにと頬を押す。

 アリスはそんな私達を見ながらアイゼアを撫でていた。


「お父様、とお母様…は仲が良いん、ですね」

「私とセレア様は愛し合っていますからね♡」

「愛し…合う……」

「いつかアリスにも分かる日が来ますよ」

「はい…。あの、質問があるんで、、すけどいいですか?」

「何?問題ないよ」


 アリスは深刻そうな顔をしてそう言った。


「本当に…私が、お二人の…娘に、なっても、、いいん、ですか?」


 もじもじと腕を掴み下を向くアリスに私とリリアナは目を合わせる。

 思っている事は同じだろう。


 私はアリスの頭に手を乗せ撫でる。

 アリスは私の行動の意味が分からなかったのかキョトンとした表情をする。


「…何か不安な事があるの?」

「え?…あの、私は、、出来損ないです。魔法どころか魔術、なんて使え、ません。なの、にどうして私を娘にしようと言うの……ですか?」

「そうだねぇ。こっちにおいで」


 私はアリスを抱き抱えてベランダに出る。

 涼しく月が綺麗に見えていた。


「アリスは魔術に興味はある?」

「…?ま、まぁ…無い、と言えば、、うそに、なります」

「魔術はね。興味を持てば誰だって出来るんだ」

「そう……なんですか?」

「あぁ。魔術に必要なのは魔術に対する想いだ。どれだけ技術が優れていようが、魔術に対する興味が無ければ、魔術を扱えないんだ」

「技術がある人でも、扱えない…んですか?」

「魔術というのは魔術師が命を削って作ったものだ。一つ一つの魔術にその魔術を作った魔術師の想いが込められているんだよ。その魔術を作った魔術師の想いを汲み取らないと魔術というのは扱えないんだ」

「そん、なの、聞いた事…ありません、」

「魔族が扱う魔術と、人間の扱う魔術は少し違うからね。人間のはその魔術が持つ魔術師の想いを汲み取ってから使うんだよ」

「……私に、出来るでしょうか」

「出来るよ。少なからず、魔術に興味を抱いている君ならね」


 どれだけ非情な魔術師でも、その魔術に対する想いは人一倍強い。

 魔術を作ってくれた祖先に魔術師である私達は感謝を忘れない。


 私は昔に開発した魔術を披露する。

 手の上に術式を描くと魔術が発動し、私の手のひらに綺麗な小さい月が出てくる。

 目の前にある月とほぼ同じものだ。


「これは…月?」

「どう?驚いた?魔術はこんな事が出来るんだよ」

「…この魔術は、誰が…作った、んですか?」

「私だよ。昔開発したんだ」


 勿論、この月は偽物だ。触ることは出来るが、触り心地は悪い。


 私が何故これを作ったかを話そうとすると、リリアナが私の肩にもたれかかりながら代わりに話しだした。


「昔、私が月を掴んでみたいと言ったんです。無理難題なのは分かっていましたが、セレア様は真剣に悩んで目の前で突然術式について考え始めて、この魔術を私に披露したんです」


 そんな話を聞いたアリスは私の顔をマジマジと見てくる。

 私はリリアナの話で少し照れくさかった。


 娘の前で堂々と惚気話を喋るなんて……恥ずかしいな。リリアナは何も思わないのか?


「お母様が、お父様の事をとても愛しているのだと、、思ってました、が……お父様は、お母様の事が、とても愛している、のですね」

「そりゃあ…初恋……だからなぁ。十数年以上も想っていた訳だし」

「いつ両想いになった、んですか?」

「……私が十六歳でリリアナが十三歳の頃かな」

「…学生の頃って、事…ですか?」

「そうだね」


 懐かしいなぁ。ゲームのスチル集めとかしてたな。勝手に見ていただけだけど…アリス、お父様は覗き見をしていたんだよ。

 絶対言えないけどね!


 両想いになったとか言っても、リリアナに押し倒されてバカデカイ感情を押し付けられてたんだよな。


 当時はストーリーの影響力に怯えていたけど、最後までリリアナは私の事が大好きなままだった。

 逆に考えれば、バカデカイ感情を持っていたからこそストーリーの強制力に勝てたのかもしれない。


「…お父様、私……二人の、娘に…なり、たいです」

「既に私達の子供だよ」

「私達の大事な娘ですよ」


 私とリリアナがそう言うと、アリスは嬉しいのか私に抱き着く。

 リリアナもそれを見て私に抱き着く。


 身動きが完全に取れないが……今はいいか。


 アリスは純粋な気持で抱き着いているが、リリアナは私の匂いを嗅いでいた。

 何をしてるんだ。どさくさに紛れて匂いを嗅ぐんじゃないよ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 アリスを寝かせて、リリアナは二人きりの時間を楽しみにしていたのか勢い良く抱き着いてくる。

 椅子が!椅子が壊れちゃうから!


「うへへ♡セレア様を独占できる♡」

「いつもしていたでしょうが」

「つれない事言わないでください♡私はいつだってセレア様を独占したいんですよ」

「独占したいからって手錠をかける意味はあるんでしょうか」

「逃げないようにです♡」


 今日は寝ることが無理なんだと私は悟った。

 …アリスが居るから襲われる事は無いだろうけど……キスだとかハグだとか、沢山イチャつく事になりそうだなぁ。


 どんな時でも通常運転なリリアナに、私は羨ましさと可愛さを感じた。

 こんな独占欲丸出しな妻を可愛いと思ってしまう私はまともな父親になれるのだろうか。

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