第185話 娘が出来た

 私が悩んでいるとアイゼアの調査が終わったのか、こちらに走ってくる。


『主、魔族の行く先が分かりました…彼女は?』

「路地の方から出てきてね。魔族だと分かってはいるんだけど…放っておけなくて」

『隊員の皆様に隠すおつもりですか?』

「そうじゃないと、この子の命が危ういよ。隊員の中には魔族を忌み嫌ってる奴も居るんだから」

『……なら我にお任せください』


 アイゼアは少女に近付き、少女の頬を舐めると角が消える。そして魔力の反応も無くなる

 角と魔力が消えた代わりに腕には腕輪がはめられていた。


 魔力封じか。なんだか姿も相まって奴隷みたいだ。

 帰りに服屋に寄って服を買いに行こう。


「魔力封じなんていつ覚えたの?」

『我が一族にとって魔力封じは初級魔術でございます』

「地獄の番犬らしいね。あっ、大丈夫?腕輪とか出てくると思ってなかったんだけど……苦しい?」

「い、いえ!だ、だ大丈夫です…」

「後で服を買いに行こうか。靴も買いたいな。裸足は痛いでしょ」

「そんな!私の為に…そんな、大丈夫ですよ」

「謙遜しないで。女の子はお洒落しないとね」

『それを主が言うのですか』

「黙らっしゃい」


 もう少し探索したいけど、この子が裸足だから沢山歩く訳には行かないよなぁ。

 馬も連れてきたけど瓦礫が多すぎて馬だと進めなさそうだからな。


 少女一人ぐらいなら乗せれる動物…。

 私は隣にいるアイゼアを見る。


『どうかしましたか』

「この子を乗せて歩く事って出来る?」

『?まぁ、出来ますが』

「よし。ならアイゼアの上に乗って探索しようか」

「えっ!?そんな…申し訳ない、です」

『主の御命令とあらば、どうぞ』


 私は少女をアイゼアの上に乗せる。

 うーん、軽い………ご飯もまともに食べさせてくれなかったんだろうな。


 少女は申し訳ないのか、恥ずかしいのかフードを掴み顔を隠す。

 幼いリリアナとは違う可愛さがある。何だろうか、母性をくすぐられる。


「そういえば君の名前は?ずっと少女とかこの子って言うのもあれだし」

「な、まえ…」


 少女は寂しげな表情をし顔を俯かせる。聞いちゃいけない事だったかな。

 でもこの子の環境を考えると―――――


「私、名前が、無いんです……」


 想像通りの回答が返ってくる。

 普段なら私がつけてあげようかと言えるのだが、契約という訳でもないし生みの親でもないしなぁ。


 私がこの子をずっと保護出来るなら、育ての親としてつけることが許されるのかもしれないが…この子が魔族である事を隠すのだ。


 この子をずっと保護する事は出来ないだろう。


『主、一つ宜しいでしょうか』

「何?」

『我は魔族です。そしてこの子も魔族。我は最初は貴方様に危害を加えましたが、この子は加えておりません』


 そう言われた時、私は思った。

 今更変わらないじゃないかと、元々凶暴なケルベロスを家で飼ってるんだから。


 この子は幼い女の子。魔族だろうが関係無い、親の愛をもらって生活した方が良い子供だ。


 最近養子の話があって面倒くさかったんだよな。


「ねぇ、養子にならない?」

「ふぇ?どう、言う事……ですか?」

「私貴族の子でね。結婚してるんだけど、相手は女性でさ。跡継ぎを考えないといけないの」

「私が養子…」

「そう。私の家は魔術が大好きな家門でね。魔術が得意な子に跡を継いでもらいたいんだ」 

「でも…私、魔術なんて、やった事、ない、、です」


 養子になってくれれば名前だってつけてあげられる。

 私が面倒を見てあげれるし、アルセリア家を継いでくれる子が出来るんだ。


 そもそもアルセリア家を責める家門なんて居ない。

 ルーベン国は、私が作った魔道具アーティファクトに頼りっぱなしなんだから。


 少女は覚悟を決めたのか私を見て言った。


「なり、ます…」

「嬉しいよ。ありがとう、じゃあ名前はどうしようか」

「…何でも、大丈夫、、です」

「う~ん」


 何でもは良くないけどなぁ。


 髪色はホワイトブロンド、ロングだが少し巻かれており穏やかな印象がある。

 目は赤く、強い印象を与える。


 …………定番と言えば定番だが、合うのはこの名前だろう。


「アリスなんてどうかな」

「アリス…ですか?」

「気に入らなかったら別のを考えるけど」


 ドイツ語で『高貴』という意味を持ち、少女の象徴だとも言われている名前だ。


「いえ、気に入りました。ありが、とうございます、」

「それは良かった」


 私はアリスの頭を撫でる。

 子供っていいなぁ。癒やされる…。


 今思ったが、私はお父さんと呼ばれるのだろうか。性別だとお母さんなんだよな。

 でも夫という立場でもあるし…………。


「あ、あの…私は、何と呼べば、良いんでしょうか」

「お父様の方が良いかもね。戻ったらお母様になる人と会うからね。あっ、お祖父様とも会うね」

「わかり、ました。お父様」


 うぐっ。うちの娘可愛い………。

 これがラエルの感じていたものか!


 っていうかラエルがお祖父様か。ふふっ、なんか面白いな。

 まだ四十代だろう?可哀想だな。


 養子とは言えど、娘が出来るとは思って無かったな。でも案外悪くはない。

 リリアナはどう言う表情するかなぁ。ラエルも同じだが。


 遠征が終わったら正式な手続きをしないとな。

 まだ仮養子だからな。

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