第186話 毒入り珈琲に妻の目は合わせるべきではない

 街を歩いていると、奥の方は攻撃をされていない事が分かった。

 長時間の攻撃では無かったようだ。


 人の姿が見えてきて街の様子も良くなっていっていた。

 範囲は広くなかったと考えると別の目的がありそうだな。


「アリスは子供達の場所を知ってるんだよね?」

「あそこの喫茶店です」


 アリスが指を指したのはモダンな喫茶店だった。

 あんな所に子供達が?


 店の人が魔族という事か?あるいは協力者か…どちらにせよ、敵が複数人居るのは確定だな。


 魔族が居るとしたらアリスを連れて行くとバレる可能性がある。

 でも先に下見はしておきたい。


「アイゼア、アリスの事頼んだ」

『御意』


 私は二人に手を振って喫茶店に入る。

 ケルベロスであるアイゼアを中に連れて行く訳にはいかないし、二人には待っていてもらおう。


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 喫茶店の中は寒く長居するのには向いていない。

 ゆったりさせるつもりは無い温度だな。人も少ないし、栄えてる訳ではなさそうだ。


 店員は六人。多くは無いが、キッチンの方にも複数いるだろう。

 見た目は普通の人間……だが魔力量がおかしい。


 六人中三人は魔族だなこれは。キッチンの方には二人だな。

 ここは平民の街だ。貴族が居るとは考えられないし、そもそも店員に扮する意味が分からない。


 となると魔族は計五人。他は何も知らない人間の可能性もあるが……その可能性は薄そうだな。

 ここに子供が居るという事は、全員が共犯の可能性が高い。


「何になさいますか〜?」

「オススメでお願いします」

「分かりました〜」


 店員はそう言って珈琲を淹れに行く。

 あの店員は魔族か。魔力の量的にサキュバスっぽいな。


「お待ちしましたぁ〜」


 私は匂いを嗅いでから珈琲を一口飲む。何かを感じるがゆっくり飲む。

 ドラゴンの鱗のおかげか、珈琲に入れられた薬の影響が無い。


 影響は無いとは言えど気持ち悪いな。

 吐き気がする。あの店員がジッと見てくるあたり、私の様子を伺っている。


 長居するのは危なそうだな。


 私は空になったコップを置き、店を出る。

 ここは明日、皆と来よう。私一人で来る場所じゃないな。


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 喫茶店を出るとアリスが私に抱き着いてくる。

 可愛い…………。この手はどこにやれば良いんだ!


 行き場の無い手をアリスの頭に置き、アリスの頭を撫でる。

 人を虜にさせるのが上手いぞ!これが魔族か…!


「心配、しました」

「大丈夫大丈夫。何とも無いよ」

『主から変な匂いがします。何か盛られましたか?』

「あー…盛られはしたけど、気持ち悪いぐらいで特には無いよ。多分毒だろうね」

「何とも無いって、嘘!…じゃない、ですか!」

「命に関わることじゃないから!落ち着いて…」


 目の前で泣かれるとどうしたらいいのか分からなくなる。

 うーん、小さい子の扱いには慣れてないんだ。


 私はアリスの頭を撫でる事しか出来ず。アイゼアに助けを求める。


『我が主はドラゴンの鱗で身体を強化しております。そこらの毒は効きませんよ』

「ほ、ほんとう…です、、か?」

『えぇ。我が主は死ぬ事はありません』


 アリスはホッとした表情をする。

 別に私は死ぬ事はあるよ?人間だもん、死ぬよ。私を勝手に不死にしないでくれ。


「…中は……どうなって、いました、か」

「魔族が五人居た。フロアに三人、キッチンに二人居たからキッチンの方に何かあるかも」

『明日また来る予定ですか』

「そうだね。明日は隊員の皆と来れるから」

「わた、しは、どうなるんですか?」

「アリスはお留守番かな」

「…っわかり、ました」

「さーて、アリスの服を買いに戻ろうか。アイゼア、頼んだよ」


 アイゼアの背中にアリスを乗せて、私は馬に乗って宿屋近くの服屋に向かう事にした。


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 服屋に着き、私は店員にアリスに似合う服を十着ほど選んでもらった。

 やはりアリスは可愛らしい見た目をしているからなのか、店員は張り切っていた。


 自分は親バカになっている気がするな。

 本当は二十着買ってもらうつもりだったんだが、アリスに止められてしまった。


 私達は服屋を出る。

 アリスは新しい服に胸を躍らせながら、私と手を繋ぎながら宿に戻る。


 まだ時刻は七時半。既に皆が集まっていた。その場にリリアナも居た。

 皆はアリスに注目していた。


「その子…誰ッスか?」

「孤児……ですか?にしては、綺麗ですけど」

「なーんか嫌な予感すると思ってたんだよね」

「それでセレア様、その子は一体」

「…………私の子」

「「「「え?」」」」


 私の発言に皆が同じ反応をする。

 魔族です!とか言えないし、養子とは言えど私の子なのは事実だし…。


 そう思っているとリリアナが私の肩を強く掴む。


「誰との子ですか?私はどうしたんですか?私だけですよね?何でですか?私を愛していたのではなかったのですか?私との関係は…」

「ストップ!ストップ!落ち着いて!私の実子じゃない!」

「………と、言いますと?」

「北の方に行った時に会った子なんだ。自分の勘だけど、この子を養子に迎えたいって思ったの」

「何だぁ。びっくりしたではありませんか。てっきりどこぞの馬の骨とシたのかと」

「ありえないよ」

「そうですよね♡セレア様は私の事、だ〜いすきですもんね!」


 リリアナは笑顔でそう言った。怖い、笑顔が怖いよ!

 いくら焦ってても正しく伝える事を学んでてよかった。


 下手したら私の命どころかアリスの命も危うかったような気がする……。

 うっ…飲んだ毒入りの珈琲が今、急に刺激してくる。痛いし、気持ち悪い。

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