第184話 悲惨な場所に住む少女

 チラシを配っていると、色んな人と会った。

 身だしなみを整えてから話しかけてくる女性や、小さな声で話す照れながら男性。


 彼等が私に向ける感情は様々で、好意が一番多かったのを覚えている。


「チラシ……無くなったな」


 ものの数分でチラシは無くなり、自分の顔面の良さに感謝をした。

 チラシ配りから解放され、私はカフェに向かう事にした。


 そこまで苦痛な時間では無かったな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 椅子に座り、珈琲を嗜む。

 暖まるなぁ。寒かったのが嘘みたいだ。


 エアコンも何も無いのに、店内が暖かいのは魔法によるものだろう。


 店内の人は私だけで、賑わっている様には到底見えなかった。

 ご飯も美味しいし、珈琲の味わいも良いのに何故人が居ないんだ?


 そう疑問を持ってる私に店の人が話しかけて来る。


「客が来るなんて久しぶりだよ」

「…そうなんですか?」

「あぁ、魔族の侵入が酷くてね。人かと思えば角が生えてきて、この街を襲ったんだ。王都から優秀な人材が送られてくるとか言ってたけど、それも怪しいさ」

「他の街から来る人を拒んでいたのはそれが理由ですか」

「今じゃ誰も信用できないからね。派遣される人もそうだ。いくら王都とは言えど、こんな端の貧乏街なんて気にしないだろう?」

「………」


 私は何も言えなくなった。

 今考えれば、ここに来て私達は何をしただろうか。


 情報を集めるだけで根本的な解決をしようとしていない。

 街の人が不安に感じるのも無理はない。


 私は本来こんな所で珈琲を嗜んでいる場合では無いのだ。

 珈琲を一気に飲み干して、席を立つ。


「ど、どうしたんだ?」

「…珈琲とても美味しかったです!有難う御座いました!」


 それだけ言ってお金を机の上に置き店を出る。


 時間はまだある。夜八時までに出来ることは沢山あるはずだ。


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 私は共有した情報を脳内でまとめ、北に向かう事にした。

 本来なら明日行く予定だけど……街の人をこのまま不安にさせる訳にはいかない。


 馬屋で愛馬を出して、北に向かう。


「進んでいくにつれて道がボコボコしてきてるな。瘴気も濃いし…街の人は大丈夫なのか?」


 木々は倒れ、穴が空いている道を進み森を抜けると悲惨な光景が私を迎え入れた。


「なに…これ……」


 生活が行われていたとは思えない悲惨な光景…緑は無く、家は半壊したものが多く、人の気配なんてものは無かった。


 私はこの光景を見た時、真っ先に出てきた言葉は戦争だった。

 別に戦時の人間ではないが、人が想像する戦争後のイメージそのものが目の前に繰り広げられていた。


 罪なき人を巻き込むもの………。

 私は左右を確認しながら歩く。


 所々魔術が残っている。見かけない術式であるのを見るに、魔族のものだろう。


「アイゼア」

『なんでしょうか、我が主』

「ここに来た魔族が何処に行ったか分かる?」

『一時間あれば出来ます』

「なら頼んだ。私は子供の痕跡を探す」

『分かりました』


 アイゼアは走り去って行き、隅々を探索しに行った。

 私は子供が何処に行ったのかを調べる為に、更に街を調べる事にした。


 ここらへんの魔術…殺傷能力が高い魔術だ。

 子供を攫うのが目的ならこんな魔術は使わないはず。


 子供を攫った目的が他にある…でもその目的は何?

 ひとまずは子供が何処に行ったかを考えよう。


 この魔術を見るに、魔族と共に行動しているとは考えられないから何処かに隔離されている?


「あの……」


 声の方を向くと、ボロボロな服を着た悪魔のような角が生えた少女が居た。

 魔族…?でもどうしてここに?


 敵意があるようには見えない。

 私はかがんで、少女と目線を合わせる。


「君は?」

「あっ…え、えと………」


 おどおどと、少女は腕を強く握る。


 少女の腕を見ると、虐待されたような痣に最近のものでは無さそうな火傷の痕があった。

 こんな小さな女の子になんて仕打ちを…。


「大丈夫、ここに君を傷付ける者は居ないよ」

「……その、あ、私は…悪い人じゃ、なくって」

「うん、」

「かく、れてて………」

「そっか。もう大丈夫だよ」


 私は着ていたコートを少女に着せてあげると、少女は口を開いた。


「あの……!子供…たちは、向こうの、、監獄…に居る、の」

「それを私に伝えて大丈夫なの?」

「…私に、出来るのは、これぐらいしかない、から………でも、あの人達にみつ、かったら、、、凄く、怒られちゃうかも、」

「あの人達というのはここに戻って来る?」

「わから、ないけど…私を探しにくる、かも」


 この子の言うあの人達というのは、ここを襲った魔族だろう。


 私は何も考えずに、自然と少女に手を差し伸べていた。

 少女は理由が分からなかったのかきょとんと、不思議な表情をしていた。


「一緒に来る?」

「でも…私が行くと、人間さんに迷惑、かけちゃ」

「私が良いって言ってるんだから大丈夫だよ。その角はフードを被って隠そうか」


 コートについていたフードを被せて、少女の角を隠す。

 一般の人には向けて、この子を隠す事は容易だろうけど隊員の皆にはこの子が魔族だって直ぐにバレるだろうな。


 魔力の質や量が、人間のものではない。そもそも平民が魔力を持つなんておかしいからな。

 どう隠すべきか。

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