第183話 市街調査に出向いたけど…

 リリアナは私の頬にキスをして、元から居たかのように部屋で過ごす。

 ガサガサとデカいバッグから箱を取り出し、私に渡す。


 箱は赤いリボンで飾られており、開けてみると高そうな万年筆が入っていた。

 良く万年筆を壊すから、有難いんだけど…。


「本当にこの遠征中、こっちに居るの?」

「はい♡」

「仕事は?リリアナが欠けたら向こうも大変なんじゃ」

「こっちでも仕事は出来ますし、私の後輩は優秀なので大丈夫です♡」

「この事を陛下は知ってるの?」

「陛下とカラルナ宰相に許可を貰ってから、来てますので心配要りませんよ」

「そ、そうなんだね。でも私達の調査とかにはついてきたら駄目だよ?危ないから」

「私が戦力外だと言いたいのですか?」

「そうじゃなくて、この遠征は思ってる以上に危険が伴うんだ。リリアナに怪我はさせられないし、瘴気に耐える訓練だってしてないんだから」

「…分かりました。ですが非常時には呼んでください。闇魔法が使えるので、ある程度は助ける事が出来ますから」

「その時は頼りにしてるよ」


 この遠征に行く事が許されるのは瘴気耐性がある者だけだった。

 王城でアイゼアの助けを借りて、瘴気にどれだけ耐えれるかという訓練をし長かった者で実力がある者達を遠征に向かわせている。


 魔族と戦闘になれば、その場は瘴気で包まれその中で戦うことになる。

 何時間も瘴気に耐えられる人間でなければならない。


「セレア様は何時間、瘴気に耐えられるんですか?」

「どうだろう、最低でも五日は耐えられるよ」

「最低で五日ですか。長期戦に向いてますね」

「長期戦はしたくないけどね」


 瘴気耐性が一番強いのはラエルだった。

 何度も瘴気のある所に調査をしに行ったりしているからだろう。


 アイゼアがいる限り、何日でも耐えられるんだけどね。

 だが側に居ないと瘴気は溜められていくから、安心は出来ない。


「私がこちらに来る事をお義父様は知っていますよ」

「え?」

「この遠征の隊長はお義父様ですので、許可をもらったんです」


 ラエルが許可したのか……しないと思ってた。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 チュンチュンと小鳥が鳴く声が聞こえ、起きると隣には寝息を立てるリリアナが居た。

 一人用の部屋なのに二人で寝るってどういう事なんだ。


 今の時刻は五時、一時間後には市街調査に出向かなければならない。


 だが寒くてベッドから出たくない。布団が離してくれないんです。


 無理矢理体を起こして窓から外を眺める。

 昨日よりも雪が降ってて、外は白い景色だった。


「寒そうだなぁ」


 宿内も寒いし、外に行きたくないが調査の為に出ないとな。

 私は外套を着て部屋を出る。


 部屋を出るとラエルが迎えに来てくれていた。


「中々起きてこないからまだ寝てるのかもと思ってたけど、起きていたか」

「寒くて外に出たくなくて」

「相変わらず寒いのが苦手だね。今日はいつものように情報を集めるだけだから、情報が集まるなら何をしても良いよ」

「じゃあカフェで暖まろうかな」


 殆ど情報は集まってるし、ゆっくりしよう。

 明日はこの街に残り魔族の行動を監視する人と北に向かい、被害を確認して防壁を作る人で分かれる。


 私は北に向かう人だ。

 だからこそ、今日はなるべく体力を温存していきたい。


「集合は夜八時で問題ないよね」

「暗いから気を付けるんだよ」

「子供じゃないんだから…大丈夫だよ」


 私はラエルと分かれて外に向かった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 外は想像通りの寒さをしていた。

 もっと着れば良かった。結構厚着してるのにな。


「イケメンな嬢ちゃんじゃないか!今日は一人かい?」

「八百屋のおばちゃん……よくその格好で外に出れるね」

「今日は比較的暑いさ。全く…王都から来た子は体が弱いね」

「寒さに弱いもあるか!それで、私に何か用が?」

「ちょいとチラシを配って欲しくてね。ほらぁ、あたしみたいな、おばちゃんが配っても誰も貰ってくれないだろう?あんたみたいな、女ウケも男ウケも良い子に配ってもらいたくてね」

「本音とか隠さずに言ったな。別に良いですけど」

「じゃあ頼んだよ!」


 私はおばちゃんからチラシを貰い、チラシ配りをする事になった。

 身分を隠しているとは言えど、所長がチラシ配りだなんて……王都ではあり得ないだろうな。


 ってかおばちゃんが暑い日だって言ってたけど嘘だろ。

 ここの人は感覚がバグってるのか?


 チラシを配っていると、男性が私に声をかけてくる。


「お姉さん一人?俺と遊ばない?」


 ナンパだ…。初めてされたかもしれない。

 とにかくチラシを貰ってもらうか。


「すみませんがこのチラシ貰ってくれませんか?早くこの寒さから抜け出したいので」

「何?チラシ貰ったら遊んでくれるの?」

「別にそういう訳では無いですけど、考えてはおきますよ」

「マジで!?はい、これ待ち合わせの住所ね。じゃあ待ってるね〜」


 男性はチラシを一枚貰って私に住所の書かれた紙を渡して去っていく。

 私は住所の書かれた紙を破り、魔術で燃やす。


 考えておくとは言ったが、行く気はないからな。

 初めてナンパされたなぁ。


 そう思いながら、無心にチラシを配っていく。

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