第182話 遠征中の誕生日
調査も順調に進み、一週間経った。
隊員達は戦闘が近づいてきていると言う事に気付き、ソワソワしていた。
それが嬉しさなのか恐怖なのかは分からないが、私やラエル、オバルにアイザックは楽しみという感情があった。
不安に感じていた私だが、今はこの遠征を楽しんでいる。
自分は死地に立たされるのが好きなようだ。
決してMでは無い。
私達は街の居酒屋で晩飯を食べていた。
私は酔うと大変なので、お茶を一人で飲んでいる。
「そうだセレア!今日は誕生日なんだから、お父さんに何を言っても良いんだよ!」
「えっ!?セレア様って今日誕生日なんスか!?」
「俺は知っていましたが、今祝うんですか?」
「いやぁ魔法長!今祝わないと駄目じゃないですか!あの所長の誕生日ですよ?」
「お前、所長とそんな関わりあったか?急に馴れ馴れしくすると気持ち悪がられるぞ?だから彼女と別れるんだよ!」
「うっせぇ!それは関係ないだろ!」
私の誕生日を祝おうと皆が物をどんどん頼み、私に次々と飯を食べさせようとする。
少食だって知ってるだろ君達!こんなに食えないよ!
私は食べれる量だけ食べて、残った物は皆に任せると一瞬で料理は無くなった。
皆一口がでかいなぁ。
いやアイザックさんとラエルは小さいな、行儀が良いと言うのか?貴族らしいと言うか。
「はい、セレア。誕生日プレゼントだ」
「遠征に持ってきたの?別にいいのに」
「いやいや、娘の誕生日を祝わないなんぞ父として失格だ」
そうなのか?
ラエルは手のひらサイズの箱を私に渡してくる。
箱を開けるとそこには私が欲しかった魔術書があった。
「これはっ…………!選ばれた一級魔術師にしか与えられない魔術書!?貰ってもいいの!?」
「勿論」
「セレア様は一級魔術師になって無いんですか?セレア様なら余裕でしょう?」
「いやぁ、時間がなくてね。なりたいんだけど、試験日に仕事は被るし事件があるしで中々ね」
「仕事に関しては有給使えばいいじゃないですか。そろそろ使わないと陛下からお叱り喰らいますよ」
「使うタイミングが分からなくて…」
本当にそろそろ消費しないと陛下から直接怒られてしまう。
一級魔術師になると出来る事が増える。
買える魔術書が増えたり、一級魔術師になった時に貰えるバッジにより使える魔術や魔力が増える。
冒険者協会では受けれるランクが上がったり等の冒険者にとっては有難い支援が貰えたりする。
今年の冬にも試験があるらしいが、まぁ無理だな。
次は来年の秋か。秋は忙しくなるから…また無理になるだろうか。
「でも今日が誕生日で良かったですね。今日は。幸福の日と言われてますからね」
「建国記念日であり、初代聖女様が瘴気を晴らし、初代魔王を討伐した日ですからね」
「幸せな事詰めましたみたいな日だからな。まるで計算されたみたいだ」
「セレア様は今日が誕生日で誇らしくは無いんですか?幸福な子って言われるでしょう?」
「…どうかなぁ。私にとっては最悪なく日だよ」
私がそう言うと、ラエルは気付いたのか反応する。
何故今日が最悪な日なのか。
今日は我が父、レディオ・アルセリアの命日だからだ。
世の中ではレディオ・アルセリアの命日は五月二十四日となっている。
アルセリア家がわざと宣言を遅らせ、命日をずらしたのだ。
幸福な日に亡くなったと宣言し、幸福な日が汚されたと非難されるのを防ぐ為に。
私が誕生日の日に父は自ら自殺をした。
私に『お誕生日おめでとう』と書かれたケーキと、屋敷、遺言書を残して亡くなった。
自分の誕生日を祝おうと思わないのは、このせいなのかもしれない。
四歳までは、私は誕生日が待ち遠しかった。楽しみで仕方が無かった。
お父様がこの世から去った日からは、誕生日という物に関心を抱かなくなった。
「まぁまぁ、とにかくセレア様の誕生日を祝ってカンパーイ!」
オバルが場の雰囲気を明るくし、皆も気持ちを切り替えて盛大に私の誕生日を再び祝った。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
妙に疲れたな。
私は宿に戻り、部屋の扉を開ける。
するとそこにはあり得ない光景が広がっていた。
私は目を何度も擦る。
徐々に近づいてきて彼女は私の手を取った。
「そんなに目を擦ったらバイ菌が入ってしまいます。セレア様の目を汚れさせるわけにはいきません♡」
「………何で、ここにリリアナが…」
「夫の誕生日を祝いに来ただけですよ?」
「何万キロ離れてると思ってるの?別に手紙でも」
「もう限界なんですよ!ただでさえ、仕事が忙しくてセレア様成分が足りないと言うのに、遠征で二ヶ月は確定で会えないんですよ?しかも誕生日を祝えないなんて……耐えられません!」
リリアナは悶々しながらそう言った。
「ここには一人で?」
「はい♡それと遠征中は常にご一緒します」
「は?」
「どうかしましたか?」
私の耳が壊れたのかな。遠征中は常にご一緒します?
うーん、幻聴かな。
疲れすぎたのかな。
「私の耳は壊れたのかもしれない」
「正常ですよ♡」
自分の妻をナメていた。そうじゃないか、リリアナは好きな人の為だったら何でもする子だった。
何でその事を忘れていたんだ………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます