第181話 消えない不安

 情報収集をしていくと北の方で魔族の侵入があり、復興がまだ終わっていない事が分かった。

 そして魔族は子供を攫い、西側に帰って行ったという証言も出てきた。


「子供を攫うなんて、何をする気なんスかね」

「実験体にするつもりなんだろうか。大人より、子供の方が魔力の吸収率が高いから、魔術関連のものだと思う」

「生贄を使う魔術ッスか。セレア様はそう言う方の知識はあるんスか?」

「あるけどやった事は無いから、どう言う風に使えば魔術が上がるとかは分からないな」

「まぁ、法に触れるものは出来ないッスもんね」

「そもそも、やろうと思わないからね。っと、合流の時間だ。集合場所に行こう」


 十二時を知らせる鐘の音が鳴る。

 オバルと一緒に合流場所に向かう事にした。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 合流したら、私達は集めてきた情報を共有し資材も集めて宿で休む事にした。


 宿の部屋は一部屋だけ、一人部屋が空いていた為、私が一人で寝ることになった。


 私は部屋に向かい、荷物を整理してベッドに寝転がる。

 部屋数が多いだけあってベッドは硬いな。


 いや貴族のベッドがふかふかすぎるのか。弾力性抜群だからなあのベッド。


「そうだ。アイゼア」

『お呼びですか。我が主』


 突如姿を現すアイゼア。便利だなケルベロスって…………。


「この魔族の行動だけど、魔王の命令だと思う?」

『違うかと。魔王様は子供を攫う等という事は致しません』

「そっかぁ。うーん…」

『こんな事を企むのは、魔王様の右腕ガディックぐらいです。彼奴は魔王軍最強の魔術師と呼ばれておりますから』

「魔王軍最強の魔術師か。どのくらいの実力者なの?」

『ドミニク殿十人分程でしょうか』

「……………勝てなさそ〜」


 一気に自信がなくなった。そんな奴が魔王軍に居て、事件の犯人の可能性が高いんだろう?

 そもそも防壁を作って、子供を助けて冬を越せば遠征は完了するんだ。


 子供を助けるという別の目的が出来たが、魔王軍の右腕を倒すという目的は無いから。

 屁理屈か…。


『最近の主は自信が無いですね。どうかしたんですか?』

「自信が無い?そう、見えるかな」

『常に不安そうな顔をしております。楽しそうな表情をしていても、不安が隠しきれておりませんので』

「……そう」


 不安か。まぁ、感じてはいると思う。

 突然領主になり、遠征だって良く行くようになり、命を毎度の様に落としかけるんだ。不安に感じず居られるだろうか。


 未だにイエラを処刑した悪夢を見る。

 彼女はこの国の聖女で、民から好まれていた。


 なのに私は公衆の面前で聖女を殺害した。

 いくら禁忌を犯したとて、民の信仰は変わらなかったはずだ。


 悪の聖女を処刑し、国を救った。そんな肩書きが私にはある。

 他者からすれば、それは名誉な事かもしれない。


 英雄と讃えられるのだから。でも私にとっては、鎖でしか無いのだ。


 本来は処刑され無かったはずのヒロイン。この国を支える人物だった聖女が、私のせいで亡くなった。


 恋せよ乙女の薔薇のヒロインが亡くなったのだ。

 居なければならないイエラが居なくて、居てはならない私が居る。


 もしこの先、この国が不幸に陥るのなら、それは聖女を消した私の責任になるのだろう。


 神がどう思って私をここに転生させたのかは知らない。

 だがきっと神が望んだ未来とは外れた未来を私は創ってしまったと思う。


「きっと不安は一生消えないよ」

『何で悩んでるのかは知りませんが、神が定めた運命に抗っても良いのではありませんか?』

「と言うと?」

『人生は枝分かれしているのです。神様だって全ての人間の未来なんて知りませんよ。例えば、物語の背景の脇役が何をしたって我々読者は気にも止めないでないでしょう?この世界の主人公は誰でも無いんですから、我々脇役が何をしたって良いではありませんか』

「凄いね。まるで私の思考を詠んだみたいだ」

『これでも人よりは生きていますから』


 そうじゃないか。私は脇役だ。主人公じゃない、何をしたって誰も気にしない。

 何故、主人公ぶっていたんだろう。


 元から私は脇役だったじゃないか。何を勘違いしていたんだ。


「ありがとうアイゼア。元気出たよ」

『それは何よりです。そういえば、この遠征……冬を越さなければ帰れないのでしょう?』

「そうだね。それがどうかした?」

『いえ、主の誕生日をアルカディア領で祝えないなと思いまして』

「……確かに」

『奥様が残念がるかと思われますが』

「遠征中は余裕無いし、今年は祝われないかな」


 これは仕方ない。来年まで待とう。

 正直私自身は誕生日なんて興味は無いんだけど、リリアナが自分の事のように喜ぶから、誕生日会をいつも開いていたのだ。


『奥様が主の誕生日を祝う為に、ここにやってくるかもしれませんね』

「んな訳ない。遠いんだよ?…アルカディア領から何キロあると思ってんのさ」

『主は奥様の愛の重さを知らないのですね………。一週間後、この宿に奥様が居ると思いますよ』

「そんな幽霊みたいに言わないでよ」


 リリアナがわざわざここまで来るなんてあり得ない。

 リリアナは寒いのが苦手なんだ。ここは防寒だってしっかりして無いし、寒いのに遠い所に来るわけ無いよ。

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