第179話 残業後の私達

 リオンに叱られ、気分が落ちている私は気分転換に王城の廊下を歩いていた。


 視線を感じる。廊下を歩く度に色んな人に見られるんだよな。

 特に女性の方が多いけども。


 何だっけ、ファンクラブがあるんだっけ?


 リリアナが作ったのかと思って聞いてみたけど、違うって言われてしまったからな。

 注目を浴びる人間になるつもりは無かったんだけど。


「セレア所長!あ、あの、今お時間良いでしょうか」

「何ですか?」

「その少し、お話したくて…」


 照れたように言う女性。三人居り、全員法棟の者のようだ。

 別に用事もないし、話すくらいならいいか。


 もともと気分転換で外に出たんだから。


「問題無いですよ」

「ありがとうございます!セレア所長の好きな物って何ですの?」


 古典的なものきた〜。好きな物?

 好きな人ならリリアナって言えるけど物じゃないしな。


「ハンバーグとかですかね?甘い物は大抵好きですよ。少食なので沢山は食べれませんけどね」

「少食…そうなんですか」

「だからハンバーグ定食を良く頼まれるんですね!なるほど…」

「甘い物好きって乙女ですわ〜」


 これは好感度が上がったのか?いや上がっても上がらなくても正直どっちでも良いんだけど。


 その後、何度も質問をされ私は一部濁しながらも答えた。

 プライベートは守らなければならないからね。全て完璧に答える必要は無いんだ。


「あっすみません。話し過ぎましたね。私達はこれで失礼しますわ」

「お気をつけて」


 早く人目につかない所に行こう。変な体力を使った。


 リリアナに職場の人と関わり過ぎるなって言われてるけど、これは、ただの世間話…どうせ数日したら忘れてるだろ。


 挨拶のようなものなのだ、多分…。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私は書類をカラルナ宰相の所へ運ぼうと思い、廊下を歩いていると、女性三人とすれ違う。


「ハンバーグ好きって結構幼い感じしない!?しかも甘党だなんて、可愛い〜」

「真面目なセレア所長にそんな一面あるとは思わなかったわ」

「今度クッキーでも作ろうかな…受け取ってくれるかしら」

「一緒に作りましょ!」


 そんな会話が私の耳に入る。親しくしないでほしいと言ったのに……。

 しかも昨日は連絡無しに残業して!向こうから来たってことはこっちにセレア様が居るって事ですよね。


 丁度、カラルナ宰相の執務室はこっちですし、セレア様を探しましょう。


 どうせ寝ずに仕事をしてたんでしょうで、もともと残業するつもりだったのか、おにぎりを作って欲しいって言ってきましたし。


 私は執務室の扉を開け、書類を机に置く。


「何やら急いでいるみたいだね」

「仕事馬鹿の夫を探しに行こうかと思いまして」

「セレア殿の事か。多分、休みに裏庭のベンチに向ったのではないかな」

「有難う御座います。カラルナ宰相、それでは」

「無理をし過ぎないよう言っといてくれ。働き過ぎて心配だからな」

「お任せください」


 カラルナ宰相の執務室を出る。

 裏庭はここからさほど遠くは無いですね。


 裏庭にはセレア様のお気に入りの休み場所があるって言ってたはず。どうせそこに居るでしょう。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 向かえば予想通りの場所に寝息を立てているセレア様が居た。

 仕事で疲れているのは分かりますが、無防備な姿をこんな所で晒しているだなんて。


 確かに人目につかない場所ですが、知っている人は良く来る場所でしょうに。


 ここは王城の裏庭にある日陰で、木々で廊下側からは見えない場所になっている。

 風通しも良く気持ち良く寝れるとセレア様は言っていた。


 私はセレア様の頬をぷにぷにと押すが、反応は全く無い。

 眠る時間は短いのに、眠りは深いんですよね。


 ショートスリーパーと言うんでしたっけ?セレア様がそう言っていましたが、一体どこからそんな言葉が出てくるんでしょうか。


 それも前世の日本という国のものなんですかね?

 いずれ分かるでしょう。


「起きてください」


 声を掛けるが反応無し。私はセレア様の事を叩く。

 すると、痛そうな顔をして起きる。


「何でここにリリアナが?」

「居ては駄目ですか?」

「い、いや…そんな訳では………」

「なら良いですよね?何か私に言う事ありませんか?」

「今日も可愛いね」

「それじゃないです。昨日、何しました?」


 私が言うとセレア様はあっ…と言って目を逸らす。

 心の準備が出来たのか、言いづらそうに私に告げた。


「昨日は無断で残業してすみませんでした」

「次からは無しですよ?連絡手段があるんですから言ってください。帰ってこないの心配するんですから」

「うぐっ。ごめんなさい」

「そうだ。昼食は済ませましたか?」

「いや、まだ」

「なら食堂に行って一緒に食べましょう。新しいデザートが追加されたらしいですよ」

「気になる。早く行こう」


 食堂にルンルンで向かうセレア様の背中を見ながら、私も食堂に向かう。

 こう言う所、可愛らしくて好きなんですよね。


 楽しそうなセレア様を見るのは癒されますね。


「デザート何かなぁ」

「ハンバーグ定食を頼むとプリンしかついてきませんよ?」

「そう…なの……?」

「そうですよ。だから別の物を頼まないといけませんね」

「何にしよう…」


 オススメの食堂飯を教えてあげましょう。

 ハンバーグしか頼まないからこうなるんですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る