第152話 映し出される恐怖

 目の前でイエラが魔術により血が弾け飛び、バタリと息を引き取る。私の手に血が付く。

 私は自分が怖くなった…。

 何故………私は笑っている?何故喜んでいるの?


 目の前にいた目障りな女イエラが消えたから?リリアナと私の邪魔をする者が消えたから?大罪人が消えたから?


 分からない。ただ不安は全て消えていた。

 妙な開放感に包まれた。


 内心安堵した、喜んだ私は膝から崩れ落ちた。

 下にはイエラの血が流れ、私の白い服は赤く染まる。


 血だらけの私にある人が駆け寄ってくる。


「セレア様!」


 愛らしい声で私の名前を呼ぶ、可愛い妻の姿を見た時、私に赤いドロドロの液が足に伝わりリリアナの姿が一瞬消えた。


 消えた時に私の手の中にリリアナが着けてくれた指輪が映る。

 まるでその景色はリリアナが処刑された日のようで、私は息が詰まった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「はぁっ!…はぁ………」


 私は飛び起きる。呼吸を整える。


「…嫌なものを見た」


 心臓がうるさい。そうだ…リリアナは…。

 私はあれが夢だと分かっている、それでもリリアナが居ると確かめたかった。


 私はリリアナの私室の扉を強く開ける。


「セレア様…!?」


 リリアナは本を読んでいたのかソファに座っており、私の事を見て驚いていた。

 私は安心して壁にもたれかかる。


 リリアナは察したのか私の側に駆け寄り私を抱きしめくれた。


「大丈夫ですよセレア様。私はここに居ます。生きてますよ」

「…うん……」

「ほら振動を感じれるでしょう?」

「……」


 リリアナは私に何も聞かず、自分は生きているんだと証明した。

 私はリリアナを強く抱きしめリリアナが居るという事を感じる。


 リリアナが死なないために頑張ってここまでしたのに、不安になるのは私の努力不足だろうか。

 リリアナは生きてると言うのに、本当は死んでるのではと思ってしまうのは私の悪い癖だ。


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 セレア様はイエラさんが処刑された日から私が生きているのか時々確認してくるようになった。

 最近は少ないが、前は毎日毎日、体調は悪くないかや私が呼吸してるかなど確認することがあった。


 セレア様が私に何か隠し事をしているのは知っていますが、こんなに私の事を心配するなど…私関連の事なのでしょう。


 でもまだその隠し事を聞く時ではない。知りたいが、まだ知る事は出来ない。

 セレア様が話したいとそう言った時に聞こう。


 私はセレア様が私の所に真っ先に来て、私の存在を確認してくる度、嬉しくてたまらなくなる。


 私の存在がセレア様の中で強くなっているのだと、セレア様にとって私は欠かせない存在なのだと。


 大丈夫ですよ…私はいつだってセレア様のことを見てますし、セレア様を置いて死ぬことはありませんから♡


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 チュンチュンと鳴く小鳥の声で起きる。

 …昨日は恥ずかしい所をリリアナに見せてしまった気がするな。


 私は朝食が並べられているはずの食卓に向かう。


 食卓にはサンドイッチが並べられていた。

 おぉ〜、美味しそう〜!


「目が腫れておりますが…泣かれたのですか?」

「あぁ、ちょっと…ちょっとね」

「ちょっとですか」


 メリーが悪い顔をする。とても嫌な予感、凄く嫌な予感がする。


 メリーが大袈裟に息を吸い、大きな声でこの屋敷に響かせる。


「セレア様が泣いてしまったらしいですよぉ〜!誰かぁ!セレア様を慰めてあげてくださぁ〜い!」

「はっ!?ちょっ!メリー!」


 真っ先に飛び出してきたのはラエルとリリアナだった。

 出てきた途端、ひしっと私に抱き着く。動けねぇ。


 ラエルは私の頭を撫で、リリアナは私に強く抱き着く。


「大丈夫だセレア。父さんがついてるからな…怖い夢でも見たのか?何でも言ってごらん?悪夢を見なくなる魔術をかけてあげよう」

「私がついてますから、嫌な事でも怖い事がありましたか?それは誰のせいですか?教えてください」

「……………離れて」

「「…?」」

「いいから離れて!そんな過保護にされなくても大丈夫だから!」

「まだ不安な事があるんだろう?この魔塔の管理者に何でも良いなさい!解決してあげるよ!」

「妻に何でもお話ください!人殺しでも何でもしてきますので!」


 もぉー!こうなるから嫌だったんだ!

 メリーは遠くでクスクス笑ってるし、ふざけるな!


 こうなった二人は止めるのが面倒くさいんだから!


 私の朝はいつもより大変になった。ただ、騒がしかったせいか不安は消し去った。


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 疲れたぁ。

 私は私室で当主として仕事をしていた。


 これはオリカさんとの試作品の書類か…。先にこっちを処理しよう。

 私は何も気にせず仕事をしているが、傍から見たらこの景色はおかしい。


 何故か?それは明白だ。

 リリアナが私に構ってほしいから頬をつねったり、キスしてきたり、ハグしている中、私は仕事の書類しか見ていないからだ。


 日常茶飯事になったせいなのかリリアナの行動に疑問も驚きも感じなくなった。

 だから私はリリアナに好き勝手してさせている。


 リリアナは拗ねてブツブツと何かを言いながらソファに座る。

 チラチラと私の方を見て様子を確認したりしている。


 仕事が一段落ついたら構ってあげよう。夜のお誘いも……出来たらいいな。

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