第151話 平凡が似合うよ
私は仕事を短時間で終わらせてしまう。
その後も変わらない時間が過ぎ、あっという間に一日が終わってしまった。
私はソファにもたれかかって、イエラが処刑されたあの日の事を思い出してしまった。
何故思い出したのかは分からない…刺激が足りなかったのだろうか。
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イエラは禁忌を使い国家を混乱させたとして、国家反逆罪の罪を着せられることになった。
私は陛下に呼び出された。
「…セレア。君にイエラの処刑の権限を与える」
「…えっ。それは、騎士団長であるリオンがする事なのでは…」
「今の彼にそれが出来るとは、到底思えない。だから君に託す」
今のリオンは部屋に籠もり、食事も稽古も何もしていない。
原因がイエラが禁忌を使っていた事なのか、簡単に魅了にかかってしまった事なのか、イエラが処刑される事なのかは分からない。
私はセントラ家に行き、リオンに会いに行こうとしたが門前払いを食らった。
従者によると、リオンは「セレアは連れて来るな」そう言ったらしい。
私は連れて来るな…ね。親友に酷いこと言うじゃないか。
あの騒動の時は普通に話せていたが、時間が経つに連れリオンとの距離は遠くなっていった。
イエラの処刑…自らの手で人を殺す。私は手を血で染めたことは無い、染めたくない。
だが今はそんな事を言ってられない……。
なら私がとる選択は
「お任せください」
「…すまないな」
私は部屋から出て帰宅の準備をし終え、屋敷に戻ろうとするが気が晴れない為、私はある場所に向かうことにした。
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私が向かった場所はお母様とお父様が幼い私に教えてくれたオススメの魔術の練習所だ。
大きくなったらここで魔術の練習をしなさいとそう言ってくれた。
私はその言葉を思い出し、毎夜毎夜…私は魔術の練習をしにここに来る。
夜空が見え時には流れ星だって流れ、私と同じように成長し、成長が止まった巨木、枯れた葉、何の音も聞こえないこの空間が…私の心を鎮めるものだった。
私は傷だらけになった巨木を撫でる。
「人を殺すなんて………私には、速いよ」
遠征にだって行ってきた。いろんな困難にだって立ち向かった。
でも……殺したのは全て魔物だ。
反王国派のあの髭の人だって…結局は死んでいない。証拠もつかめず八方塞がり。
人を殺すなんて…、こんな不安になるなら受けなければよかった。そう頭によぎる。
私が巨木にもたれかかった時、巨木から何かが落ちてくる。
それは赤い林檎だった。
今までここに来て髪がなびくほどの風が吹くことは無かったが、この時だけ風が吹く。
「まるで自然全てが私を励ましているみたいだ」
私は林檎をかじる。美味い……。
私は幼い遠い記憶を思い出す。この場所を教えてくれた両親を、あの二人はいつも私にこういった。
「何をしようが、どんな姿になろうが、セレアは
私はヴィータ、レディオの娘だ。挫けない負けず嫌いなあの二人の娘なんだ。
大丈夫やれる。
私は屋敷に戻り何度も両親の姿を思い浮かべた。忘れないよう、二人がずっとついているとそう思えるように、思い出せるように。
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処刑実行日となった。私は不気味な程にこの日を待ちわびていた。
理由は分からない。
縛り上げられたイエラが台の上に上げられ、公衆の面前に出される。
この世界には処刑の権限を持った人間の職業によって処刑の仕方が変わる。
王家ならギロチン。騎士団長なら愛用の剣を振りかざす。錬金術師なら自分の作った最高のポーションを使う。魔術師なら、自分の思う相手に見合った魔術を放つ。
何故、魔術師には相手に合わせる権利があるのか。それが魔術の礼儀だからだ。
最悪な人間に最高の魔術は似合わない…それが魔術師の考えだ。
なら目の前でもがくイエラにはどんな魔術がいいだろうか。
聖女として貢献したイエラに最高な魔術を…?
禁忌を使用した大罪人に最悪な魔術を…?
…私はどちらでもない。イエラに似合うのは最悪でも最高でも無い、見栄えの無い誰にもなれないそんな魔術だ。
「今から大罪人イエラの処刑を開始する!」
歓声をあげる人々。イエラに石を投げる人、まだイエラを信じ私に石を投げる人。
私は全てを無視してイエラの前に立つ。イエラは私を睨み叫んだ。
「この悪役!貴方さえ、貴方さえ生きてなければ私は成功してた!幸せだったのに!今更どうして生きようと足掻くのよぉ!」
「……二度目の死を味わいたくないだけだよ」
「ふざけないで!私は死ぬ訳にはいかないのよ!私が中心なの、世界は……あぁ、」
「この世界の中心は誰でもない。貴方の人生の主人公は貴方かもしれないけど、この世界の主人公はこの世界の皆だ。間違えても自分が中心だと思わない事だな」
「良い子ぶって…どうせ直ぐに捨てられるわよ!貴方みたいな自分が強いと、自我が強いやつなんて!」
悪役はそうじゃないと生きていけない。自分が正しいとそう思い、信じるんだ。
私は手をイエラの頭に乗せる。魔力を手に込め活用も威力も存在も普通、薄すぎて人々から消えてしまった基礎の魔術を放つ。
魔術が放たれた時、その場に皆がポカンとする。期待していたものと違ったからだ。
音も五月蠅い訳でなく静かな訳でもない、光も、何もかもが平凡だったから。
私はイエラに向かって手を合わせ目を瞑る。
強欲な聖女に最低限の敬意を…。
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