第147話 踊りは苦手であり得意なもの
リリアナは狼のぬいぐるみが気に入ったのかギュウと強く抱きしめていた。
熊のぬいぐるみよりも抱きしめてるな…。熊より狼派なのか?
「随分気に入ったんだね」
「えへへ♡だって、セレア様に似てるんですもん」
「私に?」
「はい!知ってますか?巷では、セレア様は月夜の狼って呼ばれているんですよ」
また二つ名増えた。私が知ってる限り、今のところ三つあるんだけど?
「何で月夜の狼なの?」
「セレア様はよく夜中に外出するでしょう?その事が広まって、夜中に情報収集や様々な人間を懲らしめているんだっていう風で月夜、セレア様は何かに挑む時、必ず自分を強くします。それが狼の大きな獲物に挑むための身体的適応と似ているから狼と表されています」
「リリアナから見て、私は狼?」
「うーん。甘えん坊な狼でしょうか」
「それは犬なのでは?」
「でも戦ってる時は狼という表現がよく似合うと思いますよ」
「そ、そっかぁ」
月夜の狼ねぇ。狼なんて表現されるとは思ってなかったな。
誰だってそうか。
私はあまり納得がいかないまま祭りを楽しむ。
「セレア様?あれは何ですか?」
「チョコバナナだね。食べる?」
「食べたいです」
ルーベン国ではチョコは高級品。バナナは友好国から輸入をしている。と言うことは、ルーベン国のお祭りでバナナチョコが出ることはない。
懐かしいな。前世で幼い頃によく食べたよ。
「お姉さん。バナナチョコ一個」
「はーい。銅貨一枚よ」
私は銅貨一枚を取り出してお姉さんに渡して、チョコバナナを受け取る。
私はリリアナが持っていた狼のぬいぐるみを持ち、リリアナにチョコバナナを渡した。
リリアナはチョコバナナを頬張る。美味しそうに食べるなぁ。
「ん〜!美味しいです!」
「それはよかった」
リリアナはぺろりとチョコバナナを食べ終わる。早っ!?食べる速度早くないですか?それだけ気に入ったということなのだろうか。
「ゴミ捨ててくるね」
私はゴミをゴミ箱に捨て、リリアナのもとに戻ると周りの人がある方向に走っていく。
何だ何だ?何か始まるのか?
「向こうに何かあるんでしょうか」
「行ってみよう」
私とリリアナは、はぐれないよう手を繋ぐ。
周りの人たちと同じ方向に向かうと、そこで大和様が踊っていた。
鳴り響く和楽器に合わせて大和様は踊る。周りは大和様の美しい無駄のない踊りに夢中な人や大和様のように踊る人がいた。
これは…………風月祭の醍醐味なのかな。
私とリリアナは戸惑っていると後ろから聞いたことのある声が私達の名前を呼ぶ。
「セレア殿〜!リリアナ殿〜!」
「楼河に緋花さん!」
「ふふっ突然皆さんが動くから驚いたでありんしょ?」
「まぁ…そうですね。何事かと」
「これは風月祭の伝統なんでありんす。帝と民の関係を深める踊りなんでありんす」
「踊りは簡単でござる。一回、拙者と緋花姐さんの踊りを見てみるでござる」
楼河と緋花さんはペアになり音に合わせて踊りだす。
それは華麗で周りの人を魅了するような踊りだった。顔がいいから絵になるな。
私とリリアナは見様見真似で音に合わせて踊ってみる。これでも伯爵家当主なんだ踊りの練習はしている。
まぁ…最初は嫌で、リリアナに教えてもらったりしていた頃もあったけど。
王妃教育を受けていたリリアナには劣るだろう。
「リードが上手いですね」
「そう?」
「経験者ですか?」
「まさか。初めて踊ったよ」
「やはり、セレア様は天才ですね」
「そんな褒めても何も出ないよ?」
「そう言って、宿に戻ったら沢山甘やかしてくれるくせに」
「どうかなぁ」
「あっ!目を逸らしましたね?」
私とリリアナは見様見真似だが余裕を持って踊っていた。
その光景を見ていた楼河と緋花さんは驚いていた。
何だその珍しいものを見たみたいな反応は。
一曲終わり、お互いお辞儀をする。
「本当に初めてでありんす?」
「初めてですけど…」
「そうなら相当才能あるでござるよ」
「えっ」
「初めて踊る人はそんな喋りながらしかも美しく踊れないでござる」
「やはりルーベン国では舞踏会で踊るでありんすから、その影響…なのでありんすかね?」
「リリアナは王妃教育を受けていたし、私は当主だから踊りのレッスンはしていたから…それかも」
ルーベン国とは違う踊りで戸惑ったが、やはり前世のお陰か日本風の踊りと言うのだろうか、和に関するものは得意なようだ。
「セレア様のリードが上手くてびっくりしました」
「やはりセレア殿は経験者…?」
「違うから!」
あまり探らないでくれ。ボロが出たら困るんだ。
前世のことはまだ誰にも言うつもりは無いし、心の準備も出来てないんだから。
私達が話していると、大量の護衛を振り切ったのか疲弊している大和様が来る。
「申し訳、ありません…セレア様!お時間を頂い、ても…宜しいですか……ハァハァ…」
「分かりました…。とりあえず部屋で休みますか?」
「それなら銀月の客間を貸してあげるでありんす」
「す、すみません…」
楼河が疲弊している大和様を担ぎ、私達は銀月へと歩いていく。
まるで帝を攫っているみたいだ。
にしても護衛無しで良いんだろうか…。帝だろう?そんな国の主を、護衛無しでは連れて行くなんて。
「心配はいりません、セレア様。きちんと護衛には伝えてきましたから」
「その割にはキョロキョロしている護衛をよく見ていましたよね」
「うぐっ……そ、その事は…忘れてください」
おいおい、本当に大丈夫なのかね。私は不安に思いながら、銀月に向かった。
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