第125話 錬金術師の気持ち

 ティアが沢山アイスを頼み、テーブルの上には合計何万とするアイスが並べられていた。


 この量食べきれるのか?

 私は一個だけ頼んだアイスを食べながら思う。


「美味しいです〜!」

「この量食べきれるの?」

「勿論です!あたしが大食いなの知ってるですよね?」

「お腹壊さない程度で…食べてね?」


 不安だなぁ。

 頭痛ッ!キーンってする………。ここに転生したと気付いてからアイスなんて食べたことなかったな。


 ってそりゃそうか、アイスが出来たのは私が冷蔵庫を作ってからだもんな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ティアがぺろりとアイスを全て食べ終え、会計に進む。


「お会計、金貨二十枚でーす」

「たっけぇ…」


 金貨二十枚かぁ。あぁ、何とか足りた。

 私は財布から金貨を二十枚を出す。


 私のお小遣いが一気に消えた、恐ろしや高級アイス店…。

 私は隣を見ると幸せそうなティアがいた。


 お礼だし、ティアが嬉しそうだからいいか。

 私は会計を済ませて店から出ようとすると、店員さんに止められる。


「あれ?良く見たらセレア様じゃございませんか!?」

「え?あー…」

「そうですよね!?セレア様ですよね!?我々がこの店を開くことが出来たのはセレア様が考案した冷蔵庫のおかげなんですよぉ!ありがとうごいますぅ!」

「そ、それは…どうも」


 何だ急に。確かに冷蔵庫を作ったのは私だが、アイスを作ったのはあなた方では?

 これは素直に感謝を受け取るのが正しいのか?


 店員が私をセレアだと大きな声で言ったからなのか、店にいた客や外にいた人達がゾロゾロと集まってくる。


 なんの集まりだこれは!私は別にただの魔術師なんですが!?

 いやまぁ所長だけどもさ、そんな人気アイドルを見つけたみたいな感じで来られても!


「すみません取材を…!」

「いやいや私から!」


 様々な新聞社が押し寄せてきて取材をさせてくれと聞いてきたり、通行人が質問をさせてくれと迫ってきたり…私は引きつった笑顔で答えた。


「何にも答えません!では!」


 私はティアの手を握り走っていく。

 ティアは驚いた表情をしていたが、何処か顔が赤かったような気がする。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 何とか逃げ切れたか?

 私とティアは人混みの少ない路地裏に来る。


「ふぃ〜、いやぁびっくりしたね…ってティア?どうしたの?」

「……………………」


 ティアは顔が林檎のように赤くなっており、下をうつむいていた。

 ん?何かした?ってか顔が赤すぎるけど…。


 ティアは今までためていたものを全て吐き出すように私に訴えてきた。


「あぁぁぁぁ!もう!何なんです!?鈍感にも程があるってんですよ!全く気づかねぇですね!?よくそれで、リリアナ嬢と両想いになれたですよ!」

「えっちょっ、ティア?どうしたの!?」

「噴水前に来た時、ずっっと思ってたんですよ!リリアナ嬢の魔力に染められすぎです!なーにイチャついた後に来てるんです!?オメェ、人との付き合い苦手です!?」


 すっごい罵倒されてる気が…。

 魔力に染められてる?イチャついた後?ん?あれ…確か、人を自分の魔力で染めるためにはキスをする必要が………。


 今日の朝、体の調子が良かったのはリリアナの魔力のおかげで、リリアナの肌がツヤツヤだったのは、リリアナが私にキスをしたから?


 何をしたのかと聞いた時に焦っていたのはこういう事か。


 確か、魔法の才能がある人は相手の魔力の色がハッキリ見えたりするんだよな。


 私には見えないし、相手の魔力とか感知できないし…こう考えると魔法は全く向いてないな。


「まさか…オメェ、リリアナ嬢に魔力で染められているって気付かなかったです?朝とか一緒にいるんですよね?」

「今日起きた時、妙に体の動きが滑らかというか、よく動くというか。別にグッスリ寝た訳じゃなかったのになぁと………」

「オメェマジで鈍感です。よくここまで刺されずに生きてこれたですね」

「そこまで!?」


 刺すって…刺されるとしたらリリアナに刺されるだろうな。

 それかイエラが忍ばせた暗殺者か、反王国派の人間かだな。


 あれ、結構私って命狙われやすい?


 こうも正面から鈍感だと言われると心にくるものがあるなぁ。

 乙女ゲームじゃ鈍感は直せないんだな。


 前世で研究員仲間からお前って鈍感だよなって言われていた記憶が蘇ってくるな。


「もう…なんか自分が惨めに思えてるくるです。オメェにあたしの気持ちなんか分かるわけ無かったですよ」


 ティアの気持ち?さっき顔を赤らめて……あっ。

 私は今までのティアの行動を振り返る。


「もしかして……………ティアって私の事…」

「あーー!もう!黙れです!やめろです!この鈍感野郎!馬鹿!アホ!」

「あっ!ちょっ!」


 ティアは慌てて走り去っていく。

 ………まぁ、そう言われても仕方が無いよなぁ。


 全く、何で気付かなかったのか。

 自分のことだが鈍感にも程があるな。何も言い返せない。


 私は一人。路地裏でうずくまる。


「はぁ〜………馬鹿だなぁ。私」


 明日、謝れるかな。いや無理に近づかないほうがいいか?

 どうやって顔を合わせれば良いんだろう。


 悩む私の気持ちを表すように雨が降ってくる。

 雨だ。昨日の鳥は低めを飛んでいなかったのに…。


 私は雨に濡れても一歩も動かなかった、いや動けなかった。

 何してんだろ私。

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