第123話 新しい攻略対象

 翌日、エントが今の婚約者と別れたことを話してくれた。

 そしてオバルが所長室に訪ねてきた。


「セレア様!エントに何か言ったスか!?」

「何があったの?」

「いやぁ…実はエントに告白されまして…」


 オバルは照れくさそうにした。

 オバルがこんなに照れるのは初めてだな。そんなにエントの事が好きなんだな。


「私のおかげって言ったらどうする?」

「靴舐めるッス」

「それは遠慮する」

「じゃあ、仕事手伝うッスよ。俺が休みの時だけッスけど」

「それいいねって言っても、私はちょっとアドバイスしただけだしなぁ」

「それでもありがたいッス。これでようやく長年の恋が叶ったッス」

「いつでもエントに会いにきなよ」

「マジッスか!?ありがとうございますッス!」


 嬉しそうだな。部下が幸せになるのは私も嬉しいなぁとおもっていると、扉がバーンと開かれる。


 そこには頬を赤らめたエントが居た。婚約者の登場だ。


「所長!何を許可してるんですか!そんなの許可したらまたサボってしまいますよ!」

「それで怒られるのはオバルだし……私には何もないからいいかなって。エントもオバルと沢山会えるの嬉しいでしょ?」

「な、何をいっ、言ってるんですかっ!」


 エントは焦った様子で噛み噛みだった。

 オバルは期待したような目をエントに向ける。


 目の前でイチャつかれるってこういう気分なんだな。

 よく分かったよ。


「じゃっ!私は錬金棟に行ってくるね」


 私はティアの居る錬金棟に向かうことにした。

 あんな甘ったるい空間にいたら死ぬ気がするからな。


 私がリリアナの摂取不足で死んでしまう。

 私だってリリアナとイチャつきたい!早く帰りたい…。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私には錬金棟に来た理由があった。

 錬金棟には攻略対象がいるからだ、そして今私の目の前にいる。


 目の前にいるのは茶髪のロン毛、ひとつ結びをしている全体的に暗いイメージの男性だ。

 彼の名前はシグル・ホーデル。

 ホーデル侯爵家の次男で後に伝説の錬金術師と名を馳せることになるキャラだ。


 彼はまだイエラと接近していない。だからまだイエラに惚れていないはずだ。


 彼は錬金棟で孤独だった。そんな自分に話しかけてくれたイエラに一目惚れをする。

 そのままシグルはイエラにぞっこんになり執着をするようになった。


 イエラはシグルが自分に執着しているとは思っておらず、シグルに常に優しくしてきた結果、シグルルートではイエラは監禁される。


 ホーデル家は昔から魔法使いの家門と言われている中、人体実験などをすると良くない評判ばかりの錬金術師になったシグルはホーデル家でも孤立していた。


 そんな所に光の化身のようなイエラが現れ、救われて執着するっていう風なのだが…私にはあまり響かなかったけど…。

 でも人気だったんだよなこのルート。


 やっぱりヤンデレというのは強いのだろうか。


「そ、それで…ぼ、僕に何の、用、でしょうか」

「今度、古代遺跡に行くんですが一緒に来て頂けませんか?」

「僕に…ですか?そ、そんなの恐れ多いです…。その遺跡探索には、聖女候補のい、イエラ様だって来るって…う、う噂じゃないですか」

「大丈夫ですよ。お知り合いのアイザックさんも居ますし」

「な、な、何故知り合いって知ってるんで、ですか?」

「以前話しているところを見ましたので」


 アイザックさんとシグルさんは友達だ。

 アイザックさんが彼なら王宮錬金術師に相応しいとシグルさんを推薦させた。


 シグルさんもアイザックさんと居る時は少し気が楽なのか所々抜けている部分が見えたりする。


「アイザックさんには既に話を通してあります。来ていただけないでしょうか」

「わ、わ、わ分かりました」


 それだけ言い捨ててシグルさんは逃げていった。

 随分緊張していたんだろうな、私じゃなくてアイザックさんに頼んだほうが良かったかもな。


 私がシグルさんを古代遺跡探索で連れていきたい理由は一つ。シグルルートは唯一、他のキャラの攻略が出来なくなるルートだからだ。


 今のまま行けば、ハーレムルートに入ってしまいリリアナは確実に殺されてしまう。


 だがシグルルートではリリアナは国外追放で済んで、他のキャラを攻略できずシグルさんに監禁されるという一部のファンの中ではバッドエンドとも言われていた。


 早めにシグルさんと関わらせれば、シグルルートに行く可能性が高くなる。


 問題があるとすれば、回帰者であるイエラがシグルルートに気を配っていないはずが無い。

 何かしら対策はしているはずだ。


「ここで何してるです?」

「ティア、さっきシグルさんと古代遺跡の件について話してて」

「あー…あの根暗錬金術師ですか。で、来るんです?」

「うん、来るってさ。それとティア、今度鱗の件でのお礼がしたいんだけど、いつ空いてる?」

「明後日なら空いてるです。オメェはどうです?」

「明後日から問題ないかな。高級アイス店ね」

「沢山奢ってもらうですからね。集合は噴水前で」


 ティアが私に手を振り去っていく。

 うぐぐ、高級アイス店………高いなぁ。ま、まぁお礼だし、高いとか考えたら駄目だよな。


 屋敷に戻ったらリリアナに伝えないとな…伝えずに行ったら拗ねちゃうから。

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