第122話 周りの婚約話

 私は所長室に籠もって所長としての仕事をこなしていた。

 所長室の扉がコンコンと叩かれる。


「どうぞ」

「すみせん。セレア所長、来週の古代遺跡攻略の件なんですが」


 扉を開けたのはアイザックさんだった。

 光魔法必須の遺跡の件か、イエラ達と行く事になる遺跡だ。


 あそこは魔物が大量に現れる、しかも闇魔法の…と言うことはリリアナは戦力にならない=遺跡についていけないということ。


 古代遺跡は皆の好感度が大量に上がるイベントだった。

 特に、アイザックさんの。


 古代遺跡にイエラとアイザックさんが行ってから、アイザックさんはイエラに夢中になった。

 そこからエルトンさんは悪役になる。


「大丈夫なんですか?体調が悪いとお聞きしましたが」

「問題ないです。あっそうだ。エルトンさんとの婚約おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」


 私が鱗により苦しんでいた頃、私はアイザックさんにエルトンさんに想いを伝えろという手紙を送った。


 そこからトントン拍子で婚約が決まったらしい。


 まずゲームとは違うルートに行けている、遺跡で更に気を配らないとな。


「ティアは来るんですか?」

「はい。この前、承諾してくださいました」


 私はティアにもこの遺跡に参戦してもらおうと思い、アイザックさんに頼んだ。

 ティアが承諾するか不安だったが…大丈夫だったみたいだ。


 私がティアを連れていきたい理由はただ一つ、ティアが光魔法を使えるからだ。


 ゲームではサブキャラとしてしか出てこなかったティアだが、イエラと同じ光魔法使いなのだ。

 この事は公式ファンブックに載っていた。


 本人は光魔法使いだということを知らない、この遺跡イベントで気付いてもらいたい。


 それにティアもイエラと同等の光魔法使い。

 聖女になれるイエラと同じ実力だなんて…今後のイベントに大きく響きそうじゃないか。


「ではまた来週」


 アイザックさんは一礼して所長室から退出した。


 さーて、私が王城にいない間に広まったこの噂をどうしようかね。


 私はオリカさんにより獲得した、王都に広まった噂について書いてある書類を見る。


王都、噂一覧

・リリアナ嬢が嫉妬でイエラ嬢を階段から突き落とした。

・リリアナ嬢がイエラ嬢が舞踏会に着ていくドレスをビリビリに破った。

・学園の時、イエラ嬢が攫われた事件はリリアナ嬢が仕向けたもの?

・リリアナ嬢は色んな男を弄んでいる。

・リリアナ嬢がイエラ嬢の手柄を奪った。


 私は紙をクシャッと握ってしまう。

 こんなものを世の中の人は信じるのか…どう考えてもリリアナが何もできない時間帯に行われていることなのに。


 ゲームの強制力か?それとも………いいや、まだ分からない。


 私にはある予想があった。

 今までの噂は全てイエラが流したものなのでは無いのかと…。


 理由は単純だ、彼女は偽の回帰者ガブリエルだからだ。

 偽と言えど回帰の力は本当だ。今までとは違う展開に焦りリリアナを何とか悪役にする為にこの噂達を流した…そう考えている。


 婚約破棄イベントだって何をしてくるか分からないんだ。


 私はため息を吐きながら背もたれにもたれかかる。

 婚約破棄イベントの為に色々準備してきた。

 婚約破棄イベントは本編通りなら二年後だ、禁忌魔法耐性の魔道具アーティファクトだって作ったんだ。


 きっと、きっと上手くいく。

 不安な事と言えば、学園から一緒にいるアルベルト、アルテ、サイレス、ウキオン、リオンがイエラの手に完全に落ちたことだ。


 あんなに惚れてたら、魔道具アーティファクトなんて役に立つわけがない。

 向こうは向こうで私に対する対策を打ってくるだろう。

 でも、それすらも壊してやろう。


「所長。お話があります」

「エント?どうしたの?」


 エントが珍しくモジモジしながら私に話しかけてくる。

 あのエントがこうなるなんて…何となく予想がつくけど……話は聞いておこう。


「そ、そ、その…私は………オバルの事が好き、なのかもしれません」


 ふーーーん。まぁ、予想通りだなぁ。

 エントには婚約者がいる。だが相手は他の女性を手中に収めているらしい。


 そして夜な夜な、随分と激しいことをしていると私は聞いている。

 エントにはそんな雰囲気なんて一切無いらしい。


「でも私には婚約者がいますし……」

「別にいいんじゃないの?婚約解消すればいいと思う」

「そ、そんな簡単に言わないでくださいよ」

「そう?でもエント自体、婚約解消をしたいと思っていたんじゃないの?」

「確かに、そう、ですが……。でも親が」

「ねぇエントはもう成人済みでしょ?なら親の同意とか要らないよ。成人は自分の意志で物事を決めれるんだからさ、親の言いなりになったら駄目だよ?自分の意志に従わないと」


 大人なんだ。結婚ぐらい好きな人とさせてあげればいいのに。

 それが貴族社会では成り立たないなんてことぐらいは知ってる。


 でも本人が幸せじゃないなんて結婚とは言わない。

 結婚はお互いが幸せになるためにするものだろう?


「エントはどうしたいの?」

「解消、したいです」

「ならしたらいいんだよ。自分が本当に幸せになれる人と結婚しないとね」

「…今日、婚約解消について話してみます」

「頑張って!私はエントの恋を応援しているよ」


 全く、私の周りの人達がどんどん婚約していく………。

 年齢的には私も婚約しないと危ういんだけど、リリアナを待っているからなぁ。

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