第121話 推しがもたらしたもの

 セレア様の机には大量の書類がいつも置かれている。

 減る量よりも増える量のほうが多いのだろう、日に日に書類が増えていく。


「これは縁談……」


 書類をあらかた見ていくと縁談のものが多かった。

 どうせセレア様の才能とか地位を見て何でしょうけど……あげませんから!


 げっ、チルティ公爵…魔術師関連で有名なところ。

 どう断りましょうかね。


 まっセレア様には想い人がいると断っておきましょう。

 何も間違ったことは言ってないですし、いいですよね。


 これはカートン家との書類ですか。相変わらず大繁盛してますね。

 なのに節約をしようとするんですよねセレア様。

 そういうところが好きなんですけど…♡


「り、リリアナ…あの、る、ルイスに手紙を…出してくれない?」

「ルイス殿下に?」

「そう。少し、用事があってね」

「分かりました。後で出しておきますね」

「ありがとう」


 セレア様とルイス殿下は仲が良い。

 師弟というのもあるんでしょうけど、妬けますね。


 とても楽しそうに話すんですもん、私にも気軽に話しかけてくれていいのに……。


 私はそう思いながらもルイス殿下に手紙を書き王城に送った。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 あれから三週間、私はある程度体調が良くなった。

 流石ティア、凄腕の錬金術師だな。


 そして私はルイスと対面で話をしている。


「すまない、あまり時間が取れなくて」

「問題ないよ。どうせヴィルア王女関連でしょ?もう八歳だもんね。ヴィルア王女も一歳下なんだっけ」


 ルイスが文化祭の時に学園に来たときにはすでにヴィルア王女は生まれていたらしい。


 そんな話聞かなかったけど…まぁ幼いし同盟を組んでるとは言えど伝えるまででも無いのだろう。


「それで俺を呼んだ理由は一体」

「ヴィルア王女が十歳になった時、王族同士で会うんでしょ?そん時に私も連れて行って欲しいなって」

「…もともとそのつもりだったから問題ないが」

「もしかして私を話の出しにしようとしてないか?」

「気の所為じゃないか?」


 どうだろうかね〜。ルイスは政治の天才と言われる反面、腹黒王子と言われるときもある。

 政治において裏とかは大事だよな。


 私は裏とか作るのが苦手です、政治向いてないんだろうなぁ。


「鱗を体に埋めたって聞いたが…大丈夫なのか?」

「いや?全然痛いよ」

「そういう風には全然見えないな」

「元日本人、社畜で良かったと思ってるよ。痛みには慣れてるよ」

「お前の前世はどんな風だったんだよ。痛みに慣れるとかそうそう無いぞ」


 そうなんだ…。

 鱗の件で思い出したが、今の状態で魔術を撃ったらどうなるんだろうか。


 明日は職場に行こうと思ってるし、魔塔で試し打ちさせてもらおう。

 こういう時は父親がラエルで良かったと思えるな。

 別に不満を持っているわけではないけどね。


「リリアナとはどうなんだ?順調か?」

「ふふん、甘々ですよ」

「最近では…あっ最近はずっと寝てたのか」

「ずっと寝てるわけではないから!それに私が辛かった時はリリアナが代理当主してくれてたんだから」

「今も?」

「時々かな。私も体調は良くなってきてはいるからね」


 リリアナは私の手伝いが出来るのが楽しいのか嬉しいのか、頼むと毎回ウキウキで手伝うからなぁ。


 そういう所も好き、可愛い。


「俺の前で惚気けるな」

「別にいいでしょ」

「俺はまだヴィルアに会えてないんだが!?」

「日頃の行いかな」

「俺まだ何もしてない…」

「既に有名になってる所じゃない?」

「俺よりもセレアのほうが酷くないかそれ」

「そんなこと無いよ」


 私は久しぶりにルイスと恋せし乙女の薔薇の話をして盛り上がった。

 殆どが自分の推しについての話だったがな。

 オタクの集まりって言ったらこうなるか。


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 翌日、私は王城に出勤していた。

 皆から心配された、遠征の話や鱗の件など諸々で……そして、私は一つ言いたい。


 誰だ!アルセリア家の当主セレアは想い人がいるから縁談を常に断っているって噂を流したのは!

 想い人いるけど!


「それで…想い人って誰なんですか?」

「セレア所長!詳しく聞かせてください!」

「縁談たくさん来てるんですよね?しかも公爵家からも来てると伺いましたが…それすらを断るほど想っている相手とは誰なんでしょうか!」


 私の周りに集まってくるのは、術棟の魔術師に限らず魔塔、法棟、騎士団、政治の人々だ。

 勢揃いじゃないか!


 詰め寄られて歩けもしない!


「ダッーーーー!一回静かにして!何も答えない!確かに想い人は居るけど、詳細は教えれないから!」

「なっ!何故ですか!是非!是非教えてください!」

「無理だって言ってるじゃないか!」


 何だこのしつこいテレビ局みたいなのは!

 何も言わないって!もう!


 私は腹を抱えて笑っているリオンとタリンさんに助けを求めるが、周りの声でかき消される。

 もうやだ!誰か助けて、マジで…。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 そして私は何とか輪から抜け出して所長室に籠もった。

 二度と出てやるか!


「ねぇタリンさん。この噂ってどこから流れたの?」

「噂って…セレア様が出したんでしょう?縁談の断りの内容が想い人がいるからって……」

「…………………オーケー、ありがとう」


 絶対にリリアナだ。

 何か縁談の数減ったな〜とか思ってたんだよ。

 書類仕事を手伝ってのはリリアナだし。何してくれてんだ。

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