第120話 次期奥さん奮闘する

 私はラエル様にある交渉を持ちかけた。


「セレア様の寝顔の写真で手を打ちませんか?」

「ほぉう?」

「セレア様の寝顔写真を一枚あげる代わりに、私に所長の仕事を教えてください」

「よし、交渉成立だ。これからよろしく頼む。でも仕事の心配は要らない気がするけどね」


 ラエル様は悩みもせず即答した。

 この人も私と同類のような……気の所為ですかね。


 仕事の心配がいらないなんて…何を言ってるんでしょうか。


 にしてもセレア様の寝顔を誰かに見せるのは不服ですが、私が持ちかけた事ですし、セレア様のためです。

 目をつぶりましょう。


 私は早速、セレア様の寝顔写真をラエル様に渡す。


「はぁぁ〜相変わらず私の娘が天使!そうは思わないか?リリアナ」

「ふふん、私はセレア様の真隣で寝ることが出来ますから」

「くっ……これが次期奥さんの特権か。だが、所長モードのセレアの写真は持っていないだろう?」

「なっ!」


 むむむ、そうじゃないですか。ラエル様は魔塔の管理者。


 魔塔は術棟の真隣にあるんでした!

 しかも魔術師関連…セレア様のお仕事モードの写真が撮り放題っ…………!


 ず、ズルい。私も欲しいです。


「十枚だけくれたりしませんか?」

「ならそれ相応の対価が欲しいな」

「前回セレア様とのデートで、私がセレア様にワンピースを着せた時の写真で手を打ちませんか」

「いいだろう」

「では……」


 私は一枚写真をラエル様に渡す。

 ラエル様は悶えながら、私に所長モードのセレア様の写真を十枚、渡した。


 は〜。可愛い、可愛すぎます。

 所長室でぐで~っと暇そうにしてるんですか!


 これは!部下に仕事を教えている所写真でしょうか。

 しっかりしたセレア様感があってカッコイイ…いや、セレア様は普段からしっかりしてますけど!


「これって隠し撮りしたんですか?」

「そうだけど?」

「ラエル様って倫理観ないですよね」

「自分の欲に忠実になってはいけないのかい?娘を撮りたい!私の娘を自慢したい!それじゃあ駄目なのか?」


 気持ちはわからなくも無いですが、こうも堂々としていると逆に正しいのではと思い込みそうです。


「早速本題に入りましょう、私に所長のしごとを教えてください」

「そういえばそうだったね。じゃあ質問だ、所長の主な仕事は何だと思う」

魔道具アーティファクトを作るとかですか?」

「不正解だ。主な仕事は魔術師が使う全ての魔道具アーティファクトの管理だ。我々魔塔の魔道具アーティファクト管理も所長であるセレアが行っている」


 全て…魔術師なんて数え切れないほどいる。魔法使いに比べれば少ないが、魔術師一人で何百個という魔道具アーティファクトを使うのに、それをセレア様がお一人で?


 そんなの過労死しますよ。

 ん?でもセレア様は残業なんて殆どしていないような…しかも魔道具アーティファクトを自ら作ったりしているみたいでしたし。

 何でそんなに時間があるのでしょうか。


「リリアナも気付いただろう?あの子は余裕で仕事を全て終わらせてきた、そんな子がこの事を想定していないと思うかい?」

「もしかして、もう行う仕事はないと言いたいんですか?でも遠征でいなかったではありませんか」

「術棟にはタリンが残っていた。彼女は元所長だ、彼女ならセレアの仕事の肩代わりができる。それにどうやら遠征に行く前にタリンに紙を渡していたようだったからね」


 紙?セレア様は色々と先を見ているのですね。

 私の夫が完璧すぎて…もう惚れる要素が多すぎて困ります。


 どうしたらいいんですか。


「タリンに渡した紙には、私が職場に行けない時の簡単な所長仕事の処理の仕方と書いてあったようだ」

「内容はセレア様がいつも行っている仕事の仕方が載っていたってことですね」

「その通りだ。タリンは載っていた仕事の仕方で今は代理所長として動いているみたいだが…仕事の効率が良くなったらしい」

「流石はセレア様ですね」


 初めて働くはずなのに妙に仕事に慣れていましたし、書類が読みづらいとずっと言っていましたからね。


 セレア様考案の書類を見た時、とても読みやすかったのを覚えています。


「だから仕事については問題ない」

「じゃあ私はセレア様の寝顔をラエル様に渡しただけって事ですか」

「まさか。リリアナにしか出来ない事があるだろう?」

「早く言ってください」

「セレアの当主としての仕事だよ。セレアは今は声も腕を動かすことも難しいんだ」

「私が代わりに当主としての仕事をするって事ですか?」


 そうか…私が出来る仕事。

 私はラエル様に一礼してセレア様の所に向かった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 セレア様の部屋に入ると、セレア様は苦しそうにしていた。


「セレア様、水は飲めますか?」

「の、飲める」


 セレア様が体を起こす。少しは良くなったのでしょうか?


「起き上がれるようになったんですね」

「あそこにある魔道具アーティファクトで痛みを何とか…和らげて、いるんだ」


 そこには香りを発している魔道具アーティファクトがあった。

 そんなものを作っていたとは…。


 用意周到ですね。流石です。


「セレア様、私に当主のお仕事を任せてくださいませんか?」

「…え?出来る、の?」

「これでも伯爵令嬢ですよ?」

「じゃ、じゃあ…たの、もうかな」

「任せてください!さっ、セレア様は横になってくださいね」


 セレア様は言われるがままに横になり、何とか寝ようとしていた。

 セレア様に許可をもらいましたし、代理当主として頑張るとしましょう。

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