第119話 激痛と父親の噂

 ティアが鱗を粉々にして水で固める。

 固めた鱗を皮膚を削るようの筆につけ、私の腕に筆を刺し何かを描いていく。


「………っ……」

「暴れるなです。痛みは慣れてるって言ったのはオメェです」


 想像以上の痛さだった。

 痛さで言葉が出てこない、今口を開けば舌を噛む気がした。


 腕からは血だけでなく、魔力が溢れ出ている。

 痛さで頭がどうにかなりそうだ。

 異世界は医療技術が全く持ってない、麻酔なんかあるわけがないのだ。


 麻酔無しで手術のような事をされているからか、自分の腕がえぐれる所が見える。

 怖い、痛い。


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「終わったですよ………って聞こえてなかったですね」


 あたしが錬金術で作った眠り薬を飲ませて眠っている。

 眠っていてもやはり痛いのか閉じている瞼がピクピク動いている。


 ドラゴンの鱗を埋め込みたいと言われた時、それは誰の為にやるのかと聞きたかった。

 どうせ未来の奥様?のリリアナ嬢の為って言われそうな気がするです。


 リリアナ嬢がちょっと羨ましいです。……ん?何であたしは羨ましがっているです?


 あたしがセレアに触れようとした時、小屋の扉が開かれる。


「あの、セレア様は!」

「あー無事ですよ。そんな心配する必要はねぇです」

「よ、良かったぁ」


 リリアナ嬢の話はセレアから何度も聞いた。

 リリアナ嬢の話をしているセレアは随分幸せそうだった。


 って、何を考えているんだがあたしはセレアの親友ですよ?嫉妬みたいな、本当に何考えているんですか。


 …………もしあたしがセレアに愛されるなら、凄く幸せなんだろうな…。


「ニーティア様、何かありましたか?」

「いや何でもねぇです。あたしは帰るですが、あたしが飲ませた薬の効果が切れたら、セレアは凄い激痛でずっと苦しむはずです」

「その薬はまだありますか?」

「あるけど…眠り薬ですよ?アイツの事です、薬を飲もうとはしねぇはずです。遠征で溜まってる仕事があるですから、それを行おうと無理にでも仕事に向かうです」


 アイツは妙に仕事熱心ですからね。それに残業とか慣れてるみたいです。


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 私は激痛で目を覚ます。

 いっって!何だこの痛みは…ってそうか、鱗を埋め込んだから。


 私は力がうまく入らない中、ゆっくり腕を上げてみると茨のような黒い模様が描かれていた。

 カッコいいけど、これじゃあタトゥーを入れているみたいだな。


 流石にこの模様を普通に見せるのは恥ずかしいな、長袖必須か?

 でも今は関係ないな、痛さで着替えることなんか出来そうもない。


「セレア様体調はどうですか?」


 リリアナが部屋の扉を開ける。

 顔を見たいが、体を動かすことが出来ないほど痛い。


「もう夕方です。寝ていたとは言え、お腹は空いているのでは無いですか?」

「…す、いて…」

「るんですね。分かりました」


 リリアナは林檎を包丁で丁寧に切っていく。

 手馴れているな、やった事があるのか?


 にしても情けないなぁ。痛さで言葉も喋れないなんて。


「どうぞ」


 リリアナはあーんと私の口元に林檎を持ってくる。

 私はそれを食べるがあまり味はしなかった。


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 セレア様は夜中にずっと唸っていた。

 眠り薬は効いているはずなのに、起きたら…もっと苦しいのだろうと何となく予想はついていた。


 だがこうも辛そうなセレア様を見ると、私はどれだけ無力なのか思い知らされる。

 何か手伝えたりしないだろうか。


 そうだ、ラエル様なら………。


「ラエル様のところに行ってきますね。起き上がっちゃ駄目ですよ」

「…ん」


 私はラエル様の執務室に向かった。

 扉を開けるとラエル様は書類を見ていた。


「何だい?リリアナ」

「私に所長の仕事を教えてください」

「それは、私ではなくタリンに聞くべきなんじゃないのかい?」

「……そうですか?ラエル様だって所長経験があるでしょう?」


 私がそう言うと、ラエル様は書類から目を離し私の方を見る。


 この人の噂は沢山ある。それはもう、数え切れないほど…。


「君はどこまで知っているのかい?」

「二年間所長として働き、魔術師に無礼を働いた公爵令嬢を殴り謹慎。そして所長の座を降りる事になり副所長だったタリン様に所長の座が行き、ラエル様はドン底まで下がった地位を、自力で魔塔の管理者にまで上り詰めた」

「なんだ殆ど知っているじゃないか」

「ラエル様の噂は絶えませんからね。この事をセレア様は知らないようですが…自分の噂がセレア様の耳に入らないよう仕向けているのですか?」

「さぁ?たまたま、セレアの耳に入ってないだけなんじゃないのかな。私は君ほどセレアに執着はしていないよ」


 ラエル様は余裕そうな笑みを浮かべる。

 あぁ、むかつく。強者の笑みか?


 ラエル様の噂にはいい噂だけでなく悪い噂も勿論ある。

 それをセレア様に伝えれば。


「私の噂をセレアに言うか言わないかは勝手だが、セレアは私の事を父と認めた。父を陥れようとする君にセレアは振り向いてくれるのかな?」

「卑怯な手を使うんですね」

「リリアナ、これが大人の余裕だ」


 この悪人ヅラ、どうにかしてやりたいものです。

 何故セレア様はこんな人間を父と認めたのか…。

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