第115話 やっと一安心

 私は出血していた事を思い出し抱き着いてきたリリアナを離す。

 流石に主役のドレスを汚すのは良くないからな。


 私はお腹を見ると傷が開き血が流れ出ていた。

 うーん、二ヶ月経っても治らないってことは結構深い傷だったみたいだな。


「セレア様!傷が……!」

「大丈夫大丈夫、少し寝れば治る……いや治らないかも」


 ここはカッコつけないでおこう。二ヶ月経っても治ってないんだ、無理しないほうが良い。


 リリアナはハンカチを取り出し出血している箇所にハンカチを当てる。

 バッカ!リリアナのハンカチが汚れちゃうじゃないか!


 私は急いでリリアナのハンカチを取る。


「何で取るんですかセレア様」

「汚しちゃまずいでしょ?それにこれ、結構高級なハンカチじゃ」


 リリアナの持っているハンカチの殆どが高級ブランドのもので、今回使っているのも高級ブランド品のものだ。


「いいからセレア様はじっとしてください。人の怪我に高級もクソもありませんよ」

「うぐぐ……ごめん」


 その通りです。私は何も言い返せなかった。

 主役に手当される怪我人って……うぅ、情けない。


 私は応急処置が終わると周りを見渡す。

 そこにはイエラを囲む攻略対象達と、攻略対象から外れたはずの…いや、外れたと思っていたリオンがいた。


 またリオンが……禁忌魔法の耐性魔道具アーティファクトは作ったはずだが…やはり一回魅了にかかったら効かないのか?


「セレア殿よ」


 私は声をかけられる。声の方向を向くと国王陛下が居た。

 私は直ぐに片膝を立ててしゃがんだ。


「陛下。ただいま帰還しました」

「無事で何よりだ。顔をあげよ」

「はっ」


 まさか陛下がここに来るとは思ってなかったな。

 何だろうか……あぁ、そうか遠征の報告してなかったな。


「報告の件でしょうか」

「いや、それではない。セレア殿に聞きたいことがあってな」

「私に…?」

「あぁ。この二ヶ月何があったんだ」


 陛下のこの質問はどうやって生きたのか。それを聞きたいのだろう。


 まぁそうか、そうだよな。二ヶ月間、音沙汰が無かったんだ生きてるだなんて思わないだろう。


 あの暗闇から出た瞬間、懐中電灯とか戻ってきたし……何だったんだろうあの空間は。


「私もよくは分かりませんが、リリアナが倒れており、手を差し伸べた時に暗闇に包まれそこでリリアナの皮を被った化け物と戦うことになりました」

「ほう?相手は強かったか?」

「はい。それに私は攻撃を一切してません、流石にリリアナを傷つけるのは無理でしたから」


 リリアナは私の言葉を聞いて何やら嬉しそうだった。

 この子はこんな状況で何喜んでるんだか…可愛いから許す。


「私は多量出血で倒れ、起きたら私を以前誘拐した人間と対面しました」

「戦ったのか」

「相手が私に攻撃をしてきたので、ですが倒したかは分かりませんでした。暗闇の中で魔力を殆ど使い果たしたので……最後に使った魔術は私の全ての魔力を使って発動しましたが魔力切れで倒れ、相手の生死は残念ながら…」

「ご苦労。しっかり休め、休暇を二週間与える。体の傷を癒せ」

「ありがとうございます」


 二週間か……休みを貰えるとは思ってなかったが、しっかり休もう。

 陛下が退出しリリアナが私の手のひらに物を握らせる。


 何か触ったことのあるものだ…。

 私は手を開くと片耳につけていたピアスがあった。


「無くしてたのか」

「セレア様が居なくなった場所にありました」

「ありがとう。リリアナ」

「いえ、これも私の務めですから。そうだセレア様につけてもいいですか?」

「ん?いいけど」


 リリアナはピアスを左耳につけてくれる。

 戦闘ばかりで気づいてなかったが、まさか無くしていたとは……。


 リリアナが拾ってくれて無かったら、私は母が残してくれた物を無くしていたところだった。

 リリアナには感謝をしないとな、私はリリアナの頭を撫でる。


「なんですかセレア様?」

「いや感謝をしたくてね。ありがとう」

「えへへ♡」


 リリアナの誕生日なのに祝ってなかったな。

 何も用意してないし、祝いの言葉だけになってしまうな。


「リリアナ、誕生日おめでとう」


 私がそう言うとリリアナは嬉しそうに私に抱きつく。

 リリアナさん!?一応ここは公共の場なんですが!


 周りから見たら姉妹のような風に見えるのだろう。

 アルセリア家はセントラ家の兄弟家と言われていたりする、そう考えると私とリリアナの仲は普通なのかもしれない。


 恋愛感情をお互い持っているなど、誰も予想はしないだろう。

 フランスとかで頬にキスをするのが挨拶っていうのがあるし…そういう風に見えるのかもしれないな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私はあの後、治療を受ける為に会場を離れた。


「こんな傷を負ってよく生きてましたね」

「生命力はとても高いですよ」

「そういう人ほど無茶をするんです。今後は気をつけて下さいね」


 治療師に私は怒られてしまう。すみません…。

 治療師も大変だよな。


 回復魔法を沢山使える人なんてそうそう居ないし、人手不足で残業とかも増えてるんだっけか。

 特に遠征後は負傷者が多いから大変だと聞いたな。


 私は治療師にお礼を言い、治療室を後にする。

 寄り道はせず真っ直ぐ帰ろう。


 私はアルセリア家に向かう足を速め、早く休もうと心に決めた。

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