第114話 愛する人の為なら

 私は目を開ける。

 そこは森、私が魔術を撃った場所とは違うようだ。


 誰がここに…もしやあの髭のおっさんか?だとしたら当たってなかったのかな。


「いてて……まだ魔力が完全に回復してないか」


 魔道具アーティファクトのおかげで助かった。

 私は倒れる前、自分の魔力が込められた魔道具アーティファクトを落として壊した。


 魔道具アーティファクトが壊れた時、込めていた魔力が私の元に戻ってくるよう作ったのだ。


 痛い、体の節々が痛む。

 無茶をしたかな………、ってそれより早く帰らないと。


「いやでも帰り道が分からない…」


 そもそも何処だここ。ルーベン国は北側にあるんだけど…感覚に任せるか。


 まさか迷子になるとは、お腹も減ったな。

 木の実でも探すか。森だし一種類ぐらい食べれるものはあるだろう。


 足が重い…リリアナは無事に帰れたのかな、ドラゴンは倒せたのかな。

 様々な不安が私を襲う。


「よかった、これは食べれる木の実だ」


 私は採れるだけ木の実を採り、腹が少し満たれた所で食べるのをやめ歩く。


 水が無いな。どこか川を探そう。


 川を探し水を飲み、思うままに歩く。ルーベン国に向かっていると信じて。


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 セレア様を待ち続けて二ヶ月経った。未だに戻ってこない。

 やはり探しに行かないと。


 決断した私の腕を誰かが掴む。

 振り返ればお兄様が居た、何故止めるの。


「セレアを探そうとしているのかもしれんがやめておけ」

「何故ですか?お兄様の親友でしょう?」

「そう、だが……あいつは」

「死んだと言いたいのですか?」


 私が問うとお兄様は無言を貫いた。無言は了承。本気でセレア様が死んだと言いたいの?


 お兄様はイエラさんとまた関わるようになってから気が弱くなった。

 物事に対する関心も薄くなった。口を開けばイエラさんの話ばかり。


 そんな事より、親友のほうが大事なのではないのですか?

 セレア様はお兄様の事を何度も助けてきたじゃないですか。


「お兄様はセレア様のことを信じないんですか」

「いや、信じてはい…」

「いないです。信じてたらセレア様の事を諦めたりなんかしないです!お兄様はセレア様に何度も助けてもらったのに……お兄様は…セレア様の事を親友だと思ってないんですか!」


 私はまぶたが熱くなる。それは涙だと、分かる。

 何故、何故?どうして皆セレア様のことを待ってあげないの。


 まるで最初から居なかったように、遠征から帰ってきた時もセレア様が居なくなったと言っても殆どの人がどうでもいいような表情かおをした。


 セレア様はこの世界に様々な、素晴らしいものを生み出してくれたのに。

 誰も、誰もセレア様のことを…………。


「リリアナ、明後日はリリアナの誕生日パーティーが開かれるんだ。気を引き締めろ」

「………セレア様が祝ってくれない誕生日パーティーなんて、要らない、要らないです」

「イエラがリリアナの為に頑張ってくれたんだ、感謝をしろ」


 あぁ、お兄様はイエラさんに夢中なんですね。妹の誕生日を祝うという事より、イエラさんが頑張ったという事の方が重要ですか。


 うぅ……セレア様、早く、早く戻ってきてください。寂しいです。

 私は…………私は寂しいです。


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 『私は寂しいです』


 頭に声が響く。リリアナの声?気のせい?いや……。

 早く帰ろう、私は歩く足を速めた。


 私はひたすらにあの声が聞こえた方向を目指して。


 多分、二日経ったぐらいだろう見覚えのある街が私の目に入る。

 ルーベン国だ。良かった、戻ってこれた…。


 私は気が抜けたのか膝から崩れ落ちる。


「よ、よかったぁ………。かえ、帰れた、」


 ここまでくれば後もう少しだ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 私はいつも通る道で王城まで向かった。

 王城に着けば、何やら騒がしかった。誰かの誕生日を祝っているようだ。


 誰の…、ん?確か遠征の二ヶ月後ぐらいにリリアナの誕生日が……。

 私は節々痛む体を精一杯動かし会場まで走らせる。


 まだ完治したわけではない腹の傷が開きまた出血しても、私は走るのをやめなかった。

 廊下で私を横目に見た王城のメイドや執事は驚いた表情をする。


 周りに気を取られるな、走れ……。


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 私の誕生日を祝うパーティー。周りは私を祝う、私は自分を祝う気になれなかった。

 ………あの人がいない。


 探しに行きたいのに、何で私はここで自分の生誕を祝われているのだろう。


「おめでとうございます!リリアナ様!」

「あ、ありがとうございますイエラさん」


 好きな人に、囲まれている彼女イエラさんが憎い。どうして笑顔でいれるのだろう。

 私の心は沈んでいた。


 私の気が徐々に落ちていく、そんな時扉が強く開けられる。

 私達は音で振り返る。


「リリアナ!」


 その場に居た者達は驚いた表情をするだろう。

 何故か?それは…扉を開けたのはセレア様だったからだ。


「せ、セレ……うっ!セレア様!」


 私は嬉しさのあまりセレア様に抱きつく。

 セレア様は血だらけだった。冷たいと、そう感じることは無く誰よりも温かい温もりが私を包んでくれた。


「馬鹿です……セレア様の…ひぐっ」

「遅れて、ごめん……ね…」


 セレア様は申し訳無さそうな顔をした。違う、そんな顔をしてほしい訳では無い。

 私は……ただ。


「リリアナ、ただいま」

「…………っはい!おかえりなさい!」


 私は明るくセレア様に笑みを見せた。セレア様は私の涙を手ですくう様に拭き、私に笑みを見せてくれた。


 セレア様はやっぱり戻ってくるんだ。

 温かい……セレア様の温もり…私の大事な人。

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