第110話 共通点が欲しい

 私の目の前には、緊張しているのか怪しいそんな人達が居ます。

 私はセレア様と離れてとってもイラついているというのに………。


「イエラ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ!アルベルト君こそ大丈夫?結構緊張してるみたいだけど」

「俺は大丈夫だ。初めての大遠征だからな、気合が入ってるだけだ」

「体調が悪くなったらいつでも言ってね!治してあげるから!」

「イエラはアルベルトに優しくし過ぎだ」

「そうかな?皆も、いつでも頼ってね?」


 上級貴族の者達がイエラさんを囲む姿を見ると反吐が出る。

 この人達を見ると、国の将来が心配になる。


 一介の伯爵令嬢が言っても、何も変わらないのでしょうけど。


「君はあの輪には入らないのかい?」

「ドミニク様……私をあの人達と一緒にしないでください」

「君はセレアみたいな貴族なんだね」

「なかなか嬉しいことを言ってくれますね。そう言えば、セレア様と随分、仲が良いと言いますか距離が近いようですが………」

「嫉妬かい?彼女とは魔術の話をしているだけだよ」

「そう、ですか」


 ドミニク様、この人もラエル様同等の危険人物だ。

 ラエル様のように腹の底が見えない……。何を考えているのか分からない以上、気を配らなくてはならない。


 セレア様との共通点がある以上、いつセレア様を取られてもおかしくはありませんから。

 魔術というのは厄介です。


「一つ言うけど、セレアを君から奪ったりはしないよ」

「そういう人ほど、本気でかかってくるんですよ?」

「君は疑い深いんだね」

「慎重だと言ってください」

「……君はセレアの事がとても大好きなんだね」


 私はドミニク様の言葉に、何を当然のことをと思ってしまった。

 セレア様の事を好きにならない人間なんて居るんでしょうか?


 私がキョトンとしていると、ドミニク様は引き気味だった。


「あー………君がそれを普通だと思い込んでいるのは分かった。ちなみに聞くが、セレアの好きな所はなんだい?」

「セレア様の好きな所?」


 沢山ありすぎて困りますね……。


「って!そんな話をしにきた訳では無いでしょう?別の話があるんじゃないんですか?」

「おっと、見破られていたか。セレアの向かう方は大量に魔獣の出る場所だ」

「言わば最深部と呼ばれるところですね」

「あぁ。あそこは上位魔物が出てくる」

「……それで、何が言いたいんですか?」

「いや、ドラゴンがこっちでは無く向こうに行くんじゃないかなと思っててな」


 セレア様が言っていたドラゴンが来るかもしれないという話の事ですか。

 にしても、何故セレア様は私達後方支援の方に来ると言ったのでしょうか。


 前回が北から来て私達後方支援が北側に居る、だから来るというのはまぁ分からなくは無いですが、セレア様が私にその事を話してくれた時確信を持っていました。


 その自信は一体どこから………。

 セレア様の勘は良く当たりますが、これに関しては勘だけで言っているようには見えないんですよね。


 そう考え込んでいる私達に後方支援の部隊長が私達も前線部隊の方へ向かうと告げた。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 森を歩いていると前線部隊の人達の足跡が残っていた。

 魔物の足跡もある……。だが、これらは全て前線部隊の人達と同じ方向を向いて歩いている。


 後をついて行ったのだろうか。


「あの、この魔物の足跡……なんか煙みたいなのがありませんか?」

「煙?」


 イエラさんの意見に私達は足を止める。

 煙……そんなものは見えない。光魔法使いにしか見えないものなのだろうか。


 イエラさんはほら!ここに!と手振り素振りをする。


「すまないイエラ嬢。我々には見えないのだが」

「そう……ですか」

「ちなみに、その煙って何色だ?」

「黒色と赤色です」


 黒と赤の煙……どこかで聞いたことがあるような気がする。

 何処でだろうか。


 頭を悩ませる私達にドミニク様が発言する。


「その煙は魔物が洗脳されている時に出るやつだな。魔物は洗脳されにくいが、魔獣は洗脳されやすい、前線部隊は洗脳された魔獣と戦ったのかもな」

「洗脳されると何故煙が出るんですか?」

「拒否反応だな。魔獣の殆どがオーラを纏っているのは知っているだろう?あれは自分の存在を残す為に纏ってるんだ」


 そんな話が…世間一般には広まってないものを何故この人は知ってるんだ?

 まぁ、引き籠もっていたらそういう知識も身に付くのだろうか…………。


 セレア様も引き籠もっている時は恐ろしい程仕事が早いですし、色んな良くわからない珍しい物を作ったりしますし………そういうものなのでしょうか。


「魔獣にとってのオーラは、存在を示す事なんだな。って事は、これらを残す理由は自分の位置を示すためか」

「仲間に知らせるためだろうな」

「そんな知識、ドミニク殿はどこから引っ張ってきたんだ?そんなの王城の書庫にも無いぞ」

「長生きしているからな」


 長生き?私達はドミニク様の言葉にハテナを浮かべる。

 長生きって何を言ってるんでしょうか。


 そう言えばドミニク様もセレア様のように未来を分かっている感じで動いている。

 うむむ、共通点があるのは何だが嫌ですね。


 私にも共通点があるといいんですが…でも、お互いの事を好いているというのは共通点と言ってもいいのではないでしょうか。


 卑怯かもしれませんが、この嫌な大人達に勝てるのなら何でも良いです。


 はぁ、早くセレア様に会いたいです。

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