第109話 不安だらけの遠征開始

 後日、ドミニクが私の屋敷に魔石を大量に送ってきた。

 どうやら別の用事があったらしく、会うことはできなかったが手紙が添えられていた。


『親愛なるセレアへ

君に頼まれた魔石だ。全て上位魔物の魔石だから良いものが作れるだろう。

そうだ、ラエルに良い酒を奢ってくれないかと言っておいてくれないか?

実は、最近酒不足でな。君からの頼みなら、ラエルも聞いてくれると思うんだ。

頼んだぞ、ドミニクより』


 っと、そう手紙には書いてあった。

 自分でお酒ぐらい買えよ。魔石売れば良い金になるんじゃないのか?


 一応頼んでは見るけど…………。

 私は手紙を机にしまい、魔石を選んで日光を発する魔道具アーティファクトを作ることにした。


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 それから一週間経った。

 長いようで短いような、そんな一週間だった。


 遠征部隊は皆外に集まり点呼をしていた。

 下手したら死ぬかもしれない、家族との別れが近い……そんな恐怖が私達を襲った。


「所長…俺、怖いです」

「大丈夫だ。君達は十分な実力を持っている。それを誇れ、そして信じるんだ」

「……そう、ですよね。すみません、ありがとうございます」


 私は自信がなくなっている術棟の者を励ます。

 前は大丈夫だったが、いざ行くとなると足がすくむ。


 時間になると、私達は配置につき一斉に移動する。

 遠征場所に行くには、城下街を通る必要がある。


 城下街では私達の遠征の無事を祈る祭りが開かれていた。

 賑わってるなぁ。


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 遠征場所である森『リフティッド』に私達は着いた。

 薄暗く、持ってきた懐中電灯は意味をなしていなかった。


 灯りがつかない……。魔術の火球の灯りも意味がないようだ。

 足元が危ないな。


「前線部隊は今すぐ向え!」


 その言葉に、前線部隊の人間達は一斉に動く。

 勿論、前線部隊の私も同じだ。


「セレア。緊張してるのか?強張ってるぞ」

「少し…いいや、だいぶね。どうも嫌な予感がして」

「お前の勘は当たるからな」

「そう?外したことは結構あったと思うけど」


 そんな他愛も無い会話をリオンとする。それは私にとって、リオンにとっても安らぎで、不安を打ち消してくれるようなそんな気がした。


 私達は配置につき、薄暗い森の中探索をする。

 前線に集められたのは精鋭達だ。


「団長、ここに血の跡があるッス」

「血の跡?本当だな……でも何故ここに?村の人達はここに立ち寄らないだろう」

「ここには幻影を使う魔物が居る。そいつらが誘き寄せたか、あるいは悪ふざけで入った冒険者か…」

「幻影を使う魔物か。厄介だな」

「心を揺さぶられる幻影を見せられたらたまったもんじゃないッスね」


 オバルは真剣な表情で言った。いつものオバルとは少々違うようだ。


 私達の緊張は解れないまま、森の最深部まで来てしまった。

 帰り道が見えない……目印は置いてあるが、帰れるか不安だな。


「皆さん後ろに下がってください。何者かが来ます」


 術棟の前線部隊の一人であるエントが私達を止める。

 エントは音や匂いに敏感で、私達はよくエントの事を犬と例えたりする事がある。


 エントの見る先には、真っ黒のオーラのようなものを纏った狼、シャドーが居た。

 シャドーは集団で動く魔物だ。


 個としては強くはないが、複数となれば話は別だ。

 薄暗くてあまり見えないが、ざっと二十はいるだろう。


「数が多いな。セレア!魔術で援護を頼む!」

「任せて」


 リオンとオバルがシャドーに向かって剣を振り下ろす。

 私とエントは魔術で援護をした。


「シャドーは何とか倒せたが………次は誰だ?」

「オーガにオーク、ゴブリン…下位だがまた厄介な奴らだな」


 ゾロゾロ出てくる魔物達、その数はもう数え切れない。

 前線とは言えど、ここまでかね?


 私は魔力回復ポーションを飲んで魔力を回復して、詠唱付きの魔術を発動させる。


「ちょっ!所長?それ撃つんですか!?」


 エントが驚きの声をあげる、それは当然だろう。


 何せ魔術においての詠唱は詠唱無しで、森を燃やす程度なら詠唱ありだと森を半壊するほどの威力になる。


 私は詠唱し終え、巨大な魔法陣が展開される。

 魔法陣から巨大な雷が落ちる。


 森は燃え、目の前の大量の魔物は跡形もなく消え去った。


「そんなに魔力を使って良いのか?」

「ポーションは大量にあるから」

「凄い火力ッスね。魔術ってこんなにヤバイもんなんスか?」

「いや、所長がおかしいだけですよ。こんなの上級魔術師でも無理です」

「そうかな?エントなら出来そうだけど」

「魔力量は問題ないと思いますけど、所長みたいにあんなに早く詠唱は終わりませんよ」

「そんなものなのか?俺には分からないッスけど……団長は分かるッスか?」

「俺も分からないな。そんなに凄いことなのか?」

「えぇ、とっっっても凄いことですよ」


 エントは私の詠唱の速さの凄さが分かるが、魔術に無関係の騎士の二人は頭にハテナを浮かべていた。


 エントは自分には無理だと、そう言ってはいるが実際は出来るだろう。

 彼女の実力は確かだし、魔塔でもっと学べば器用なエントなら可能だと思った。


 私も、ラエル直々に教えてもらってから出来るようになったし…エントには魔術の才能がめちゃくちゃあるからな、そんな謙遜しなくていいのに。

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