第103話 悪役の想う相手

 王宮魔法使いが集まる場所である法棟に私は向かい、中に入る。

 中には、魔法使いが魔法を研究していた。


 私がここに来るのが初めてだからなのか、魔法使いが驚く。

 まぁ…王城内では、魔法の使えない人間として有名だからな。


 使えるけど、使えないっていうか上手く扱えないと言うか………。


「珍しいですね。セレア所長がここに訪ねてくるなど」

「用がありまして、少しお時間よろしいですか?」

「えぇ構いませんよ」


 奥の扉から魔法長アイザックさんが出てくる。

 アイザックさんは、私を応接室に案内してくれる。


 私はアイザックさんの目の前に座り単刀直入に話を切り出す。


「魔法長バッジを見せてもらいませんか?」

「…………は、はぁ…?」


 私の突然の申し込みにアイザックさんはキョトンとする。


「あ、すみません。実は私、古代魔術を研究してまして私達がつけているこのバッジに古代魔術が描かれているんですよ」

「ほぉ…」


 アイザックさんは私の発言を聞いて、つけていた魔法長バッジを外して見つめる。

 長く見つめた後、頭にはハテナが浮かんでいるようだった。


「俺には見えませんが……やはり魔術の才能が無いってことなんですかね」

「他の魔道具アーティファクトを見つめてみれば目が慣れますよ」

「そういうものなんですかね?まぁ、セレア所長が言うならそうなのかもしれませんが…。っと、気になるんですよね?どうぞ」


 アイザックさんは私の手のひらに、魔法長バッジを乗せる。

 私は光に当てて魔法長バッジを見ると、所長バッジや管理者バッジに描かれた術式とは違う術式が描かれていた。


 と言うことは、全部描かれているものが違うんだな。

 私は描かれた術式を持ってきた紙に写して、アイザックさんにバッジを返す。


「これが古代魔術ですか、古代魔法と似てますね」

「そうなんですか?」

「ええ、特にこの周りの円。今は色んな形をしており、描き方も違いますが古代魔法は同じ形、同じ描き方をしているんです」

「確かに、今まで読んできた古代魔術の本に載ってる魔術の描き方は全て同じでした」

「昔は統一されていたのでしょう。そこから何か考えられると思って、俺は今研究しているんです」


 アイザックさんの言葉で気付いた事だ。

 私は持ってきていた古代魔術の本を読むと、全て同じなのが分かる。


 今は形で別系統の魔術、魔法を生み出すのだが…昔はどうやって同じ描き方、別系統のものを生み出していたんだ?


「セレア所長は古代遺跡を知っていますか?」

「えぇ…噂程度に」


 嘘です。ゲームでがっつり攻略してました。


「実はイエラ嬢たちがこちらに来たタイミングで一緒に古代遺跡の攻略をしようと考えていたんです」

「あぁ、光魔法必須の遺跡だからですか」

「良く知ってますね」


 おっと、口が滑ったようだ……。

 不安だなぁ。私が不安に感じる理由はただ一つ。


 アイザックは実は王城編の追加攻略対象の一人なのだ。

 そしてエルトンさんが悪役に回る理由でもある。


 エルトンさんは幼い頃からアイザックさんと仲が良く。

 アイザックさんはエルトンさんの事を妹のように、エルトンさんはアイザックさんの事を兄のように慕っていた。


 エルトンさんはアイザックさんと仲良くなるほど、兄としてではなく一人の男性として慕うようになってしまったのだった。


 勿論、アイザックさんはそんな事は知らない。

 いつものように妹のように接している。


 エルトンさんも成長し、アイザックさんと同じ王宮勤めになった時にエルトンさんは見てしまう。

 アイザックさんがイエラにデレている所を。


 そんな所を見てしまった嫉妬深いエルトンさんは悪役に落ち、イエラを虐める事になるのだ。


 つまりは、アイザックさんとイエラを会わせてはいけない!

 リオンのように近くにいなければ魅了がきかないのなら問題はない。


 分からない以上、近づけるわけにはいかないのだ。

 ゲームの時は、エルトンさんとアイザックさんの間で婚約話は出ていたらしいし。


 それを横から奪っていくイエラ。

 嫌な女だね…全く。


「どうかされましたか?」

「あっいえ!そうだ。エルトンさんとは仲良くやっていますか?」

「エルトンですか?えぇ、時折会いますよ。彼女の成長には困ったものです」

「色んな男性が寄ってくるからですか?」

「ははは!そうですね。元々可愛いかったのが、美しいに変わるなど…そりゃあ色んな人から求婚されますよ」

「アイザックさんはエルトンさんの事をどう思ってるんですか?」


 私がそう尋ねると、アイザックさんは少し顔を赤らめた。

 おやぁ?おやおやぁ?


 もしかして好きだったりするんですかねぇ…?


「す、すまなき。返答ができにゃさそうだ」


 噛み噛みだ…。そんなにですか?

 私は笑いを堪えるのに必死だった。


「こ、この事はエルトンには内緒にしておいてくれ…。彼女に知られるのは少しな」

「エルトンさんが嫌だと思うからって言いたいんですよね?」

「あ、あぁ。流石に今まで兄として接してきた人物が、自分の事を異性としてみているなど……」


 よくある悩みだなぁ。こういう兄妹みたいな関係だった場合ってやっぱりそこが突っかかるのかな?


「私はそうは思いませんよ。エルトンさんも同じだと思います」

「……そう、なのでしょうかね」


 アイザックさんは悩むようにそして少しの可能性にかけるような声をしていた。

 頑張れアイザックさん…!

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