第101話 ペナルティに可哀想な片想い

 会議は無事?終わり、術棟に向かう途中声をかけられる。

 馴染はないが、聞いたことはある声だった。


「あ、あ、あの…!こ、こここ、がわ、わわ……」

「落ち着いて…ゆっくりで良いから」

「すすみません!えーっと、ここのも、も術式がが…分からなくて……」


 震えた声で話す女性はペルティアさんだった。

 うーん?また似たような難しい術式……こき使われてたりする?


 私は疑問に思いながらも教える。

 やっぱり聞いてみるか…彼女の性格上断りづらいのかもしれない。


「これってキャルナさんの時みたいにまたこき使われてたり…」

「………………」


 え、沈黙?もしかして図星か?

 ペルティアさんは目を逸らして感謝だけ述べて走り去っていってしまった。

 圧が強かった…?いや、そんなことはないと思うんだけど。


 私は長い廊下に一人、ぽつんと立っていた。

 そんな中、タリンさんが話しかけてくる。


「さっきペルティアを見かけましたが、何か話してたんですか?」

「タリンさん…私って怖い?」

「突然なんですか。私はそうは思いませんが………何かありました?」

「えーっと……」


 私はことの事情を洗いざらい話した。

 タリンさんはまたか…と言ったような表情をする、本当に苦労してるんだろうな……。

 私のせいでもあるか、すみません。


「ペルティアさんはセレア様の思った通り、断るのが苦手なんです。昔っから、こういうのはありましてね……」

「やっぱり、っていうか昔……?履歴書にはまだ一年しか経ってないって」

「それは彼女が術棟では一年目だからですよ。異動されたんです。元々は魔法使いでして、人手不足なのもあり魔術の才能が少しでもあった彼女が採用されたんですよ」

「なるほど。昔からこき使われてたって、どうなんだ」

「前々から注意しているんですがね、セレア様から言ってください。セレア様の言葉ならわたしより届くかもしれませんから」


 いやいやいや!タリンさん?そんな無茶な事言わないでくださいよ。

 私これでも新米所長ですよ?熟練所長の話が聞けないなら私の話なんて………。


 タリンさんは私に圧をかけるように近寄ってくる。

 無言だ……怖い怖い!止めて!ジリジリ近寄ってこないで…!


「やりますやります!やるんで、やめて!」

「良かったです」


 あぁ、弱い……弱いよ私。

 大人のお姉さん怖い……詰め寄ってくるリリアナよりも圧が強い、強敵だ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 術棟に向かい私は術棟の魔術師全員に告げた。


「どうやら、同士をこき使う不届き者が居るらしい。自分の仕事を押し付ける者を見つけた場合、仕事量を五倍にし、私の行っている仕事を半分手伝ってもらう。勿論給料は変わらない。これが嫌なら自分の行う仕事は自分で行え…いいな!」


 魔術師は一斉に分かりました!と元気よく答える。

 皆、私の仕事を手伝うって言った時げって顔してたけど何でよ。


 そんなに嫌かなぁ。私は後ろにある自分の机を見る。

 机には大量の書類仕事にびっしり詰まったスケジュール表。そしてめちゃくちゃ細かい魔道具アーティファクトのパーツや、もはや何語なのか分からないほどギュウギュウに描かれた術式。


 何が嫌なんだろうなぁ………嘘だよ分かってるよ。

 お手伝いなんてそもそもいらないしな。一人で出来るし。


 私は椅子に座って自分の汚い机と向かって淡々と仕事をする。

 研究室みたいになっている…掃除ができない人みたいだ。


「セレア様って整理整頓苦手そうッスよね」

「何だよオバル、文句あんのか」

「無いッスよ」

「ていうか、リオンに怒られないの?まだ訓練中でしょ?」

「大丈夫ッスよ!」


 ホントか…?

 騎士服を着たお気楽な奴はオバル・ジャンス。これでも副騎士団長だ。


 リオンと話す時、リオンが騎士団長だからなのか騎士の皆と良く会う為、いつの間にか仲が良くなっていた。


 オバルは定期的に術棟に来てはサボりに来る。

 どうも王宮騎士の訓練は厳しいらしい、いやあれはリオンが厳しいのか。


 セントラ伯爵の教えだろう、騎士の訓練は非常に悲惨らしい。

 見たことあるけど、可哀想だった。ごめんけど私は何も出来ないから。


「そういやエントって何処に居るッスか?」

「エントは今日休みだけど…」

「マジッスか!?そんなぁ〜癒やしてもらっゲフンゲフン、話そうと思ってたのにー」

「ちなみに、エントには婚約者いるから止めとけ」

「なんスかそれ!聞いたことないんスけど」


 エントという人物は、術棟にいる熟練魔術師のエンテルミュート・フェスディオルだ。

 名前が長いから、私達の中では愛称でエントと呼んでいる。


 そして、オバルはエントに惚れているらしい。


 すまんなオバル。エントには婚約者が居てな…。

 ん?でも最近、婚約者の様子がおかしいって話をしていたような…ま、多分他のどっかの人の話だろう。


「セレア様〜!それを早く言ってくださいよぉ〜俺はもう何年片想いしとけばいいんスかぁ!」

「幼馴染だったんでしょ?早く告白すれば良かったのに」

「昔はそんな勇気なかったんスよぉ〜」

「んな泣かれても…。てか、昔はじゃなくて今もでしょう」

「辛辣ッス……。やっぱりセレア様も団長と同類ッス」


 なんか傷ついた。リオンと一緒?

 あんな母性ある騎士と一緒は嫌だ。お母さん味あるんだもんなんか。


 一緒にされるのはノーセンキューだ。

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